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恋はみためじゃないよ  作者: 夢遥
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恋はみためじゃないよ

桐斗に婚約者若菜がいると知って、ショックを受ける千都。

桐斗のこと諦めようと昼休みのセリフの練習の付き合いも断ろうとしたのに、「断わる代わりに休みに付き合え」と桐斗に言われたが若菜に悪いと思い、何とか断ろうとする千都だったけど……。


倉本君の誘いを断ろうとしても、なかなか断るタイミングがなく、たちまち日曜日になってしまった。



「はぁ~。どうしよう……結局、断れなかった」


渋々、指定された公園に来たものの大きな溜息だけが出ていた。


婚約者がいるのに、このままじゃいけない。とりあえず、もうあたしには話かけないでって、今日ははっきりと言わないと……。




そわそわさしながら待っていると、倉本君が慌てて走って来た。


「ごめん、遅くなった」


「ううん、そんなに待っていなあえから大丈夫………」


倉本君が来た途端、周りの人達がこっちに注目されていることに気がついた。


「いつもの学校の時の格好じゃないんだね……」


学校での暗いイメージの姿じゃなく、深く帽子を被ってはいるものの素のままの姿だった。


「朝イチで収録があったから、そのまま来た」


倉本君は、自分が注目されていることとも知らずに、呑気な顔をしている。



『ねえ、あの人……カリスマ声優のKiritoじゃない?』


近くにいた中学生くらいの女の子、2人組がこっちを見ながらヒソヒソ話しているのが聞こえてきた。


気がつくと周りの人達も、倉本君に注目している。


女の子独りが、倉本君に近づいて来た時だった。


「走るぞ!!」


あたしの手を引いて、一気に走り出した。





ハアハアーーー。


どのくらい走っただろう。

気がついたら辺りには、人気がほとんど見当たらない場所まで来ていた。



次第に、倉本君の足の速度がゆっくりになっていきぴたっと止まる。



「………」


Kiritoは、学校でも女子に人気があるのは分かっていたけど、学校以外でも芸能人並に人気があるなんて予想外だった。



倉本君は、不味いと思ったのか変装もの為にメガネをかけるとあたしの方を振り向いた。



「気を取り直して行こう」



そう言って、倉本君が行った先は映画館だった。


「え……ちょっと不味くない?さっきみたいな事になったらー」


あたしは不安そうに映画館の前で立ち尽くす。


「さっきは、ちょっと油断したけど、アニメとか声優に興味がある人以外は、俺のこと知ってる人は少ないと思うし大丈夫」


「でも、雑誌にも載ってたじゃない……興味がない人だって……」


「ほら、映画が始まる」


あたしの言葉が言い終わらないうちに、倉本君はさっさと中へ入ってしまった。



あたしは、慌てて倉本君の後を追って行く。



あたし達が観る映画は、洋画のアクション物。


最初は乗り気じゃなかったけど、いざ映画が始まると。ハラハラドキドキしながら夢中で観てしまっていた。





「倉本君って、アクション物好きだったんだ?」


映画が終わると、あたしはパンフレットを片手に意外そうな顔で倉本君を見た。


「別に、普通だけど。さっきの映画の吹き替えで、声優の仕事をやることになるかも知れないから下見に来ただけだから」


「そうなの?すごーい!」


「別に、大した事じゃないし」


顔を背けた倉本君は、照れている感じだった。



そんな倉本君を見て、キュンキュンしてしまう。




「の、喉乾いたな。何か飲み物買ってくるから、ここで待ってろよ」


照れ隠しするように、倉本君は近くの自動販売機の方へ足早に歩いて行った。



倉本君のことを待っていると、知らない男の子が2人あたしに近寄ってきた。


「君、独り?良かったら、一緒に遊ばない?」



これって、ナンパ!?

始めてされたんだけど……



「友達を待ってるので……」


「いいじゃん。友達なんかほっといて行こう!」


無理矢理、腕を掴まれてあたしは恐怖で段々と青ざめていく。


「行かないってば!離して!」


怖い!!

誰か、助けてーーー!!


あたしは、助けを求めるように周りの人に目をやったけど、みんな見て見ぬ振りをしているだけで、誰も助けてくれようとはしない。



相手の手を振り払おうしても、力が強くてどうにもできない。


あたしは、観念したように目を瞑った時だった。


倉本君が相手の腕を払い除け、あたしを引き寄せた。



「ーーー!!」


突然のことに、あたしの鼓動が飛び跳ねる。


「何だお前!!」


相手の男の子達が、倉本君を怖い顔で睨みつけた。


「こいつの彼氏だけど?」


「えっ………」


倉本君の言葉に、あたしはドキッとする。


助ける為の嘘だってわかってるのに、嬉しい気持ちが混み上がってきた。



「彼氏だって関係ねー。彼女、借りてくわ」


独りの男の子が、あたしの腕を掴みかけた時、倉本君は背後にあたしを隠すように庇った。


「邪魔するんじゃねえーーー!!」


男の子は拳を振り上げると、思いっきり倉本君の顔面を殴りつけた。


「倉本君ーーー!!」


どうしよう。このままじゃ、倉本君がーー。


あたしは急いで助けようと、


「お巡りさーーん!!こっちで喧嘩です」


手招きしながら、とっさに嘘をついた。


「チッ!やばい、行こうぜ!」


男の子達は舌打ちすると、慌てて行ってしまった。



「倉本君、大丈夫!?」


急いで駆け寄ると、倉本君の顔を覗き込んだ。



見ると左の頬が腫れて、唇の端が切れて血が滲んでいる。


「倉本君立てる?近くに公園があったから向こうで、冷やそう」


倉本君を立たせると、近くの公園へ移動した。





公園に着くと、持っていたハンカチを水で濡らして倉本君の頬にあてた。


痛そうに顔をしかめる倉本君は、何だか痛々しい。


「助けてくれてありがとう……」


「櫻井の方こそ……何もされなかったか?」


「うん………」


あたしは、申し訳なさそうに俯く。


「櫻井…………」


倉本君の手が、あたしの髪を撫でた。



トクントクン………


心臓の鼓動が、激しく波打つ。


だめ………髪触られたくらいでときめいちゃ。


倉本君には若菜ちゃんがいるんだから、諦めないといけないのに………。






翌日、学校へ行くと教室の中が落ち着かない雰囲気に包まれていた。


みんなの視線の先には、昨日の怪我で腫れていた頬も、少しは腫れが引いたみたいだけど、唇の端に貼った絆創膏が痛々しい姿で自分の席で読書をしている倉本君がいた。



「根暗君、怪我してるけどどうしたんだろうね?」


クラスの人達が、囁いているのがイヤでも耳に入ってる。


「ドジそうだから、階段から落ちたんじゃない」


「案外、揺すられて脅されているかもな」


みんな好き勝手に言いたい放題だ。


「く、倉本君は、ドジじゃないしみんなが思っているような人じゃないんだから!!」


あたしは、我慢出来なくて教壇の上に立つとみんなに向かって思いっきり叫んだ。



無我夢中で言ってしまって、ハッとした時には遅かった。


クラスの人達が一斉に、あたしに注目。



は、恥ずかしい~~~~!!


「櫻井が倉本をかばうなんて怪しい~。もしかして、倉本のことが好きだったりして」


クラスの男子がからかうように、あたしの近くに寄ってきた。


「おはようー」


やっと登校して来た涼香が、慌てた様子で教室に入って来た。


「ちょっと、千都。昨日、Kiritoといなかった!?」


空気を読んでいるのかいないのか、涼香があたしの肩をガバッと掴んだ。


それを聞いたクラスの人達が、ざわざわ騒ぎ始めた。


「それ、本当なの?涼香!?」


「Kiritoと一緒にいたって、どういうこと千都!?」


質問詰めに攻撃されて、どうしていいか分からず、


「ご、ごめん。トイレに行ってくる!」


逃げ出すように、教室を飛び出した時、誰かにぶつかってしまい、


「ご、ごめんなさい!!」


慌てて謝りながら相手の顔を見上げると、渡部君がニコニコしながら立っていた。


「ちょっと、千都!?本当に昨日Kiritoと一緒にいなかっの?」


涼香も後から出て来て、まだ聞いてくる。


興味があると涼香って結構、しつっこいんだよね……。


あたしは、困った顔で溜息をついた時だった。




「涼香ちゃんの見間違いじゃないかな?昨日は、千都ちゃんは俺といたんだから」


ニコニコしながら、渡部君はあたしの肩をぐいっと抱き寄せた。


「おかしいな……って、琉い君と一緒にいたって……

もしかしてデート!?」


涼香は、驚いて身を乗り出した。


「えっ、違っ……」


「そう、デートだよ」


あたしは首を振って否定しようとしたけど、渡部君は横から口を挟んだ。


「もしかして、付き合いはじめたの!?」


「んー、まだ口説いてる最中なんだけどね」


渡部君は、溜息混じりに苦笑いをする。


「琉己君になびかないなんて、やっぱり倉本君の事が好きなんじゃないでしょうね!?」


「…………」


あたしは、何も言えなくて俯いた。


「千都、本当に倉本君のこと……」


涼香は驚いて、呆然とし立ち尽くす。


「はぁ?マジかよ。あいつの何処がいいわけ?」


渡部君も、訳が分からず立ち尽くした。


「千都も知ってるでしょ?倉本君には、婚約者がいるんだよ!?」


子供を言い聞かせるように、涼香はあたしの肩を掴んだ。


「根暗のくせに…婚約者って……」


渡部君は、驚きを隠せずにいた。


「……………」


倉本君には、婚約者がいるって頭では分かっているのに、気持ちがついていけない。


あたしは、チクンと痛んだ胸を抑えた。





翌日の放課後……。

倉本君の婚約者若菜ちゃんが、学校前で待ち伏せをしていた。


「こんにちは」


若菜ちゃんは、くりっとした目をさせながら挨拶してきた。


「あ………倉本君ならもうすぐ出て来るはずたけど……」


あたしは、無理に笑顔を作る。


「あなたに用があって、待ってたの」


「え………」


あたしは、若菜ちゃんの言葉に嫌な予感がしてならなかった。


「あなたを助けて、桐斗が顔に怪我したって本当なの?」


「………!!」


「その顔は、桐斗が言ったこと本当みたいね………?」


若菜ちゃんは、あたしの顔ををジロっと睨みつけた。


「あなたのせいで、怪我したせいで長いセリフが言えなくて桐斗が困ってるの。どうしてくれるの!?」


「えっ……………」


唇の端が切れてるのは知ってだけど、そこまで酷いとは思っていなかった。


ましてや、声優は喋ることを仕事にしているのに、それができないとなると致命的かも知れない。


「と、とにかく…もう、桐斗には近づかないで!!」


「ーーーー」


あたしは、何て言っていいか分からず言葉を詰まらせた時だった。



「若菜!!」


血相変えて、倉本君が駆け寄ってくるのが見えた。



「桐斗!!」


若菜ちゃんは、笑顔で倉本君に歩み寄る。


「こんな所で、何やってるんだよ?」


「ちょっと、この人に用があって」


チラッとあたしを見る若菜ちゃんを、倉本君は訝しそうに見る。


「何だよ?用って」


「………桐斗のこと怪我させたから、もう近寄らないでってお願いしたの」


「なっ……怪我は、櫻井のせいじゃないって言った……ッ……」


話している途中で、倉本君は痛そうに唇の端を手で押さえた。


「桐斗、大丈夫!?」


若菜ちゃんは、心配そうに倉本君の頬に手を当てた。



近すぎるよ。そんなに倉本君に近づかないで!!


2人の事を見ているうちに、嫌な感情が溢れてくる。



「悪い、櫻井………若菜の言ってることは……気にしなくていいから」


若菜ちゃんの手を振り払うと、倉本君はすまなさそうに謝った。


「………………」


倉本君はそう言うけど、2人の姿を見たら、ますます倉本君とは話さないほうがいいのかも知れない。


「若菜、ちょっと来い!……悪い櫻井、こいつ連れていくから」


倉本君は若菜ちゃんの腕を掴むと、あたしの横を通り抜けて行く。


若菜ちゃんは含み笑いを浮かべながら、あたしの方を見る。


「…………ッ……」


あたしは、2人に背を向けたまま切なく肩を震わせ、溢れてくる涙を堪えるしかできないでいた。






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