恋はみためじゃないよ
根暗の倉本君が人気カリスマ声優のKiritoだと知ってしまった千都。
毎日のようにセリフの練習に付き合わされることになりーーー!!
次の日から、地獄のような日々が始まった。
教室の中でも、ふと気がつくと倉本君に監視されてるし、休み時間や昼休みに屋上に少し遅れて行っただけで「遅い!!」と、我が物顔でいるし。
俺様系もいいところだ。だいたい、どうしてKiritoが人気あるのか全然わからない。
一週間後。
今日も、屋上でセリフの練習に付き合わされていた。
「おい、次セリフ」
ぼーとしていると、倉本君がぶっきらぼうにあたしの頭を台本でポンと叩いた。
「痛っ」
あたしは、頭に手をやると倉本君を睨みつけた。
「アホみたいな顔してるからだろ」
「アホみたいって、そんな顔してないし!」
口を尖らせながら、台本を見る。
「で、何処からー?」
「明日の試合から」
倉本君に言われて、セリフを探す。
今、倉本君がセリフの練習をしている話は、スポーツを題材にした、恋愛あり青春ありの人気小説。
それをアニメ化した物で、再来月にテレビで放送する予定らしい。
「明日の試合、頑張って……あたし、絶対に応援に行くから!」
いつも仲良くしている男の子に片想い中の主人公。彼がサッカーの試合を明日に控え、応援に行って試合に勝ったら告白することを決意しながらのセリフ。
「試合頑張るから、応援よろしくな!」
倉本君が、ポンポンとあたしの頭を撫でると顔を覗き込む。
ーーーー!!
真剣な眼差しで覗かれて、胸の鼓動がドキンと高鳴った。
誰もいない時は、メガネをかけていないせいか、いつもと違う倉本君に余計にドキドキしてしまう。
「ばーか。何、顔赤くなってるんだよ。俺は声優なんだから、仕事の時はこんなことするわけないだろ」
「なっーー、そんなことわかってるわよ!」
顔を真っ赤にしながら、唇を尖らせた。
からかわられてるのに少しでもドキドキするなんて、恥ずかしーーー!!
そんなあたしの気持ちとはうらはらに、倉本は平然とした顔で台本を読み始めた。
「千都、最近昼休みに教室にいないけど、何処に行ってるの?」
今日は、倉本君は仕事で4時間目が終わるとすぐに帰ってしまった。
久しぶりに解放されて、のんびりと昼休みを満喫していると、涼香が紙パックのジュースを飲みながら、あたしの方を見た。
「え?あぁー、うん。ちょっと図書室で勉強してると言うかーー」
あたしは、曖昧に応える。
「珍しい。千都が昼休み使って勉強なんて」
「じ、実はこの前の英語のテスト赤点だったんだよね。だから、昼休みにやっておこうと思ってーー」
誤魔化したものの、嘘がバレるのはそう時間がかからなかった。
「千都、どう言うことよ?」
ある日の朝、学校へ行くと昇降口の靴箱の所で不審な顔つきで涼香が待っていた。
「おはよう、涼香。どうしたの?」
あたしは、キョトンとした顔で涼香に挨拶をする。
「本当は英語が赤点なんて嘘なんでしょ?」
「ーーー!!」
「言わなかったけど、実はあたしも英語赤点だったんだ……昨日、追試だったんだけど、千都が来てなかったから先生に聞いたら、千都は赤点じゃないって言ってた」
「えっ………」
涼香が赤点とっていたとは、知らなかった。
「もしかして、昼休みに図書室で勉強してるって嘘だったの?」
「あ……いや、あの……」
あたしは、何て応えたらいいかわからずにいると、
「千都ちゃん。おはよー」
背後で渡部君の元気な声が、聞こえてきた。
「琉生君!おはよー」
涼香は、パッと顔を輝かせながら挨拶をした。
「あ、おはよー。えーと」
あたしに挨拶したつもりが、涼香に挨拶されて戸惑う渡部君だったけど、思い出したようにポンと手を叩いた。
「確か、真鍋涼香ちゃんだったっけ?」
「琉生君に、名前を覚えてもらってたなをて嬉しいな!」
「そりゃあ、千都ちゃんの友達だからね」
渡部君は、にっこりと微笑んだ後、あたしの方へ目をやった。
「千都ちゃん、久しぶり~。毎日、昼休みに教室に逢いに行くのにいつもいないから、寂しかったよ」
どさくさにまぎれて、あたしの肩を抱こうとしたので、あたしはひょいと渡部君から逃れた。
「そうなのよ!図書室で勉強してるなんて嘘ついてるしーー」
横から涼香が口出ししてきて、あたしは慌てて口を開く。
「あ、そうだ!先生に呼ばれてたんだ。先に行くね!」
クルッと背を向けると、逃げるようにその場を離れた。
これ以上、秘密にしていられるか心配になってきた。
涼香だけにでも、本当のことを言えないか倉本君に聞いてみよう。
昼休み、いつものように屋上へ行くと、珍しく倉本君の姿が見えなかった。
「はぁー、慌てて来て損した」
涼香には、購買に行ってくると言って教室を出てきたものの、疑いの目で見られてしまった。
とりあえず、そう言った手前購買に寄ってパンやジュースを買って来たものの罪悪感を感じる。
「悪い、遅くなった」
ふぅーと溜息をついた時、倉本君があたしの前に現れた。
「来ないのかと思った」
「そんなに、俺のこと待ってたんだー?」
倉本君はニヤニヤしながら、周りに誰もいないことを確認すると、メガネをはずした。
「べ、別に待ってたわけじゃーー」
「いいのいいの。隠さなくても」
「隠してなんかないーー」
ついついムキになるなるあたしを無視して、倉本君は、
「あー、腹減った」
地面に座ると、お腹に手を当てた。
「もしかして、お昼まだ?」
「購買に寄ったけど、全部売り切れだったから」
早く行かないと、うちの学校の購買は人気があって、すぐに売り切れて何人もお昼が買えない始末だ。
「あ、良かったら……あたしのパンあげようか?2つあるし」
さっき、購買で買ってきた揚げパンとクリームパンを倉本君に見せた。
「貰っていいのか?」
「うん」
あたしが頷くと、倉本君はパッと顔を輝かせると揚げパンの方に手が伸びた。
「助かった~。朝飯も抜きだったから、腹減ってどうしようかと思ってたんだ」
パンを夢中で食べ始める倉本君は、何だかとても可愛いく思えてキュンとしてしまっている自分がいた。
な、何こんな奴にキュンキュンしてるのよ!
この前も至近距離で、ドキッとしたことを思い出すと、何だか顔が熱くなっしまう。
とりあえず、腹ごしらえをすると倉本君は台本を広げた。
「昨日の続きからいくぞ」
「そ、その前に話があるんだけど……」
涼香のことを話そうとした時、
「真鍋にバラスのはダメだからな」
台本に目をやりながら、倉本君は口を開いた。
「なっ…、まだ何も言ってないんだけど」
「お前の言いたい事くらい、みえみえなんだよ」
「………」
どうもおかしい。エスパーじゃあるまいし、今から言おうとしてること、そう簡単に当てられるわけがないのに。
「もしかして、朝、涼香と渡部君との会話を聞いてたの!?」
「あんな、デカい声で話してれば、イヤでも耳に入ると思うけど?」
「ーーー!!」
やっぱり、聞いてたんだ!
「いつ、本当のこと言うのかヒヤヒヤだったけどな」
「あのねーーー隠し通すあたしの身にもなってよ……涼香には、これ以上、隠せないんだけど」
困った顔で訴えるように言ってみたけど、倉本君は首を縦に振ることはなかった。
いつものように、セリフの練習に付き合わされてから教室に戻ると、涼香が不審そうにあたしを見る。
「千都、いつまで購買に買いに行ってるの?もう、昼休み終わりじゃない」
「ご、ごめん。急にお腹が痛くなって保健室で休んでた」
誤魔化すことが、何だか気が重い。
「えっ、大丈夫なの?」
今まで不審そうにしていた涼香が心配そうな顔をさせた。
「う、うん」
どうやら、ひとまずごまかせたみたいだ。
こんなこと、いつまで続くかなーーー。
あたしは、涼香にわからないように重い溜息をついた。
それから、何とか誤魔化しながら毎日が過ぎて行った。
今日はお弁当を忘れて、 急いで購買に行ったけど残念ながらほとんど残っていなくガッカリしながら、いつものように屋上へ行く。
始めは屋上へ行くのが嫌だったけど、いつの間にかセリフの練習に付き合うのが楽しくなっていた。
屋上へ行くと、倉本君が台本を広げたままうたた寝をしていた。
あたしは、倉本君を起こそうと側へ近づいた。
前髪が目にかかり、メガネ越しに覗かせる倉本君の顔は、ドキッとさせるような整った顔立ち。
あーあ、こんなに綺麗な顔してるのに前髪とメガネで隠してるなんてもったいないな……。
あたしは、そっとメガネをとろうとした時だった。
突然、眠っているはずの倉本君にガシッと腕を掴まれて、ビクっと反応してしまった。
「俺のこと襲う気?」
倉本君は、ゆっくりと瞼を開けた。
「ち、違います!メガネが邪魔そうだったから………」
「ふーん」
いきなり顔を覗き込まれて、ますます鼓動が速くなると同時にお腹の音がぐ~と鳴り響いた。
「ぷっ」
倉本君はあたしから顔を背けると、笑いをこらえた。
「ちょ、ちょっと!笑うことないでしょ!?」
「悪い悪い。ほら、これやるから」
笑いをこらえながら、倉本君はあたしの前に袋を差し出した。
そっと、袋の中身を見てみると、おにぎりとパンが入っていた。
「えっ、でも………」
これ、自分で食べるのに買ったんだよね?
「この間、パンくれたお礼」
「………」
意外と優しいところもあるんだ………。
あたしは、どう言う顔をしていいのかわからずにいた。
結局、おにぎりを貰ってお昼をすませることになったその日の放課後。
「涼香、帰ろー」
帰りの用意が終わると、涼香に声をかけた。
「ごめん、千都!委員会あるから、先に帰ってて」
「わかったー」
返事を返すと、涼香は急ぎ足で教室を出て行った。
仕方ない、独りで帰るかな。
あたしも、教室を出ると昇降口に向かった。
学校を出て、すぐの曲がり角を曲がった時、倉本君が待ち伏せをしていた。
「倉本君……?」
「櫻井、この後何か予定あるか?」
「え?別にないけど……」
「じゃあ、一緒に来て」
倉本君は、あたしの腕を掴むと急いで歩き出した。
「ちょ、ちょっと。何!?」
訳が分からず、倉本君を見ると焦った顔をしている。
「理由は後で話すから」
そう言われて、強引に連れて来られた先は、声優さんが仕事で使っているスタジオだった。
「あ、あの……倉本君?」
あたしは、状況がつかめず呆然と倉本君見る。
「今日、収録予定の声優さんが来られなくなって、代わりに櫻井がやってくれないか?」
「えっ!む、無理無理。素人なのに、できないよ!」
突然のことで、あたしはぶんぶんと首を降る。
「今まで、セリフの練習に付き合ってもらって上達していくのがわかったし、きっと櫻井ならできるよ」
「で、でも……声も違うし……」
自信満々に言う倉本君とはうらはらに、あたしは緊張で鼓動が速くなってきた。
「声は、問題ない、今日来られなくなった声優さんの声のトーンが櫻井の声に似てるし。だから、助けると思って、な?」
「………」
周りに目をやると、スタッフやディレクターさんらしき人が焦った様子で慌ただしく動いてた。
そんな様子を見ると、無意識のうちにあたしは頷いていた。
「サンキュー!じゃあ、みんなに伝えてくるから」
嬉しそうに、あたしの頭をクシャッと撫でる倉本君に、あたしの鼓動が飛び跳ねる。
頭を撫でられただけなのに、何でまたドキドキしなきゃならないの!
騒がしくなる鼓動に、あたしの中にモヤモヤ感が漂っていた。