恋はみためじゃないよ
「櫻井さん……俺と付き合って」
「俺の彼女になってよ」
それは、突然のことだった。
あたし、櫻井 千都は、校内でも一番モテる男、渡部 琉生と地味でダサくて一番モテない男、倉本 桐斗から、告白されたのだ。
自慢じゃないけど、校内でも美人と言われるあたし。
告白されることだって、しょっちゅうのこと。
でも、この人と想う人に巡り逢えなくてOKしたことがない。
親友の真鍋 涼香には「そんな人いない。理想が高すぎ 」と笑われた。
「はぁーー!?どのツラして千都ちゃんに告ってんだよ」
渡部君が、可笑しそうに倉本君を見た。
倉本君は同じクラスだけど、いつも前髪は眼鏡にかかっていて、顔は間近で見たことないし、それに、渡部君だっていつも女の子に囲まれてて遊んでそうだし、いきなり下の名前で呼ぶなんて失礼なヤツ!!
どっちらも、嫌いなタイプだ。
「どのツラって言われても……それに、告白するのは自由だし……」
倉本君は、俯き加減で渡部君に言う。
「それは、そうだけどさーー。お前より、俺の方が千都ちゃんとお似合いだと思うぜ」
自信満々に言う渡部君をあたしは、呆れた顔で溜め息をつく。
「あの、悪いんだけどー。どっちとも付き合う気もないし、彼女になる気はないから!」
あたしは、キッパリと言ってのけるとサッサとその場を離れた。
それなのに、渡部君は昼休みや帰りのホームルームが終わると、クラスにやって来て、しつっこく迫ってくる日々が続いた。
「ちょっと!!付き合う気ないって、ちゃんと断ったはずでしょ!?」
今日も相変わらず、渡部君は教室にくるなり「彼女になって」とアプローチしてきたので、あたしの堪忍袋の緒が切れた。
「彼女になってくれるまでは、俺は諦めないよ」
「………」
何て、往生際が悪いんだろう。
あたしが、呆れた顔をしていると、
「千都、琉生君の何が不満なわけ?」
今まで隣で黙っていた涼香が、口を開いた。
『だって、チャラそうなんだもん』
あたしは、涼香の袖をクイクイと引っ張ると小声で耳打ちした。
「あたしだったら、OKしちゃうけどな~」
涼香はうっとりとした顔で、渡部君の方へチラッと目をやる。
「じゃあ、いっその事、涼香が渡部君と付き合ったら?」
「付き合いたいのは山々なんだけど、後が怖いからねー」
涼香は渡部君の近くで、こっちを怖い顔で睨んでいる取り巻きの女の子達を見るなり、ブルッと身震いをした。
「そんなこと言ったら、あたしだって同じなんだけど……」
「千都は、スタイルもいいし美人だし琉生君とお似合いだから、あの子達だって納得しておとなしくしてるんじゃないかな?」
「………でも、涼香ー。あたしが嫌いなタイプ知ってるでょ?」
「うん、まあーー」
涼香が苦笑いした時、急に渡部君があたしの手にメモの切れ端を渡した。
メモに目をやると、電話番号とアドレスが書いてある。
「ちょっと、渡部君。こんなの貰っても困るんだけど……」
あたしが、困っているのもおかまいなしに、
「付き合う気になったら、メールして!」
そう言うと、渡部君は女の子達と教室を出て行った。
「はぁ~~~」
あたしは、思わず口から大きな溜め息が漏れた。
「琉生君も諦め悪いねー。でも、メアドゲットなんていいなぁ~~」
涼香は、メモの切れ端を覗きながら羨ましそうに呟いた。
「じゃあ、涼香にあげる」
メアドが書いてあるのメモを、涼香に渡そうとしたけど、反対に突き返された。
「だめだめ!そんなことしたらあたしが琉生君に嫌われちゃう!」
「でも、あたしはいらないんだけど……」
大体、 同じクラスでもないのに毎日のように来られても迷惑だーー。
「とりあえず、登録しておいたら?」
「………」
「それにしても、琉生君と違って根暗君の方は、千都のこと諦めたっぽいよね」
涼香は、チラッと倉本君を見る。
「はっきり断ったし普通は諦めるでしょう?渡部君だけだよ、諦め悪いのわ」
「まあ、相手が相手だし諦めた方が身の為だよね。でも、不思議だよね、同じクラスでもあまり根暗君と接点もないのに、どうして千都に告ってきたんだかーー」
「ん………」
苦手なせいか確かに、倉本君とは話したことがない。
でも、その疑問は、直ぐに解けることになる。
渡部君は、いつもと変わらず教室に来ては、
「いつ、メールくれるの?」
と、次は理科の為、理科室に行く準備をしている最中に、しっつこく聞いてくるものだから、早く行こうとさっさと用意をして、渡部君を無視して教室を出たものの、机の中にノートを忘れたことに気がついた。
「ごめん、涼香ー。教室に忘れ物したから先に行ってて」
「わかった。先に行ってるね」
涼香は頷くと、先に理科室へ向った。
あたしは、急ぎ足で教室へ向かう。
まだ、渡部君がいるかもしれないけど仕方がない。
案の定、女の子達に囲まれながら渡部君が廊下にいるのが見えた。
「千都ちゃん。どうしたの、忘れ物?」
渡部君は、女の子達を振り切ってあたしの所に来たけど、無視して教室へ入ろうとした時、まだ、何人か男子が教室に残っていて、話し声が聞こえてきた。
「おーい、倉本。櫻井さんに告白して断られたって本当かー?」
よりによってそんな話?
教室に入ろうとしていたあたしは、ふと足を止める。
「櫻井さんのこと、落としてこいっていったよなー?」
同じクラスの男子が、意地悪そうに倉本君に言った。
「お前みたいのが、櫻井さんのこと落とせるとは思ってないけどさー。上手くいけば、お前にだって落とせたんだから、俺達にだってチャンスがあるかも知れないだろ?」
「そんなこと、言われても………」
倉本君は、俯きながらボソッと呟いた。
何?この状況……。好きでもないのに、告白してきたってこと?
あたしは、呆然と立ち尽くす。
「やった、俺の勝ちだな!」
もう独りの男子が、パチッと指を鳴らした。
もしかして、あたしを落とせるか掛けてたってこと??
「あいつが、千都ちゃんに告るなんて可笑しいと思ったんだよなー」
隣にいた渡部君が、ほっとしたように言ったけど、掛けになっていたのかと思うと、あたしはショックで怒でブルブルと肩を震わせた。
「千都ちゃん……?」
渡部君が、あたしの肩に手をやった。
でも、振り向きもせずにあたしは教室に入って行った。
「………櫻井さんーー!?」
あたしが教室に入って来たのに驚いて、教室にいた数人の男子が気まずそうな顔をさせた。
「悪いけど……あたし倉本君のことはもともとタイプじゃないし、嫌いなの……だから掛けても無駄よ」
怒りに震えながら、キッパリと言うと、倉本君の前に立つと、キッと睨みつけた。
「倉本君も、ダシにされているのに、よく黙っていられるよね?何とか反論したらどうなの!?」
「櫻井さん、こいつに言ってもダメだぜ。俺達の言いなりだもん」
クラスの男子達が、声を揃えて言う。
「………」
何て、情けないのー。
あたしは、呆れ顔で溜め息をつく。
「でも、案外、櫻井さんに気があって、俺達の言いなりだったかも知れないしな」
クラスの男子、独りが口を開いた。
「あははーー!そうだとしたら、俺のライバルって訳だ?」
廊下で立ち聞きをしていた渡部君が、可笑しそうに笑いながら、教室に入って来た。
「琉生ー!?」
男子達が、一斉に渡部君に注目した。
「悪いけど、コイツとはライバルと思ってないから。千都ちゃんに合うのは俺しかいないし」
自信満々に言う渡部君は、誇らしげな顔をしていた。
「ちょっと!勝手に決めないでよ」
あたしが、少し強めの口調で言った時だった。
キーンコンカーンコーン……
教室に予鈴のチャイムが鳴り響いた。
「ヤバっ!次、理科だ。あの先生、怖いから急いで行かねーと」
男子達が、急いで準備をすると教室を出て行った。
「俺も行くわ。またね、千都ちゃん!」
渡部君も、教室に戻って行ったので一安心……じゃなかった。
あたしも、早く行かないと!
急いで、机の中からノートを取り出すと、倉本君に見向きもせず教室を出た。
理科室に行くと、涼香が待ちくたびれたようにあたしを待っていた。
「千都、遅かったね?」
「うん、ちょっといろいろあって……」
「何?何かあったの?」
「後で、話すよ……」
授業が始まるし、今は話してる時間がない。
昼休みにでも話しを聞いてもらおう………。
そして、あたしは、昼休みに涼香とお弁当を食べながら倉本君の 話しをした。
「何それ!好きでもないのに告白したってこと!?」
涼香が、少し声を荒立てた。
「しー!声が大きいってば」
あたしは慌ててて、人差し指を自分の唇に押し当てる。
「ごめん……だって、酷いじゃない。掛けで告白してきたとかって……それも、あの根暗君だよ」
「告白された時は、げっと思ったけど人に命令されてやったことだってわかったら、安心したわー」
苦笑いしながら、お弁当に入っているウインナーをパクッと口に入れた時だった。
「ねえねえ、見た?Kiritoの特集記事」
近くで、お弁当を食べていたクラスの女子達が、雑誌を広げながらワイワイ話しているのが聞こえてきた。
あたしは、彼女達の話に耳を傾けた。
Kiritoって、確か今人気のカリスマ声優だ。
声優なんて余り興味がないけど、名前だけは聞いたことがある。
「あー、あの記事かぁ~~」
涼香も耳を傾けながら、ボソッと呟く。
「あの記事?」
「千都、まだ、見てないの?」
驚いた顔で、あたしを見る涼香に、
「だって、興味がないんだもん」
お弁当を食べながら、しらけた顔をさせた。
「イケメン声優kirito様の良さが分からないなんて、千都ってば、そう言う所、疎いよねー」
苦笑いする涼香に呆れ顔で、溜め息をついた。
「でも、うちのクラスきりとは名前が同じなのにどうして、こうも違うんだろうー」
あたしの溜め息とは、違う意味で涼香は溜め息をつく。
前に一度、涼香にKiritoが載っている雑誌を見せてもらったことがあった。
確か、整った顔立ちで、鼻筋が通っていて眉と目のバランスが整った声優さんだったような……。
あまり興味がなかったので、うっすらと記憶に残っているだけだ。
食べ終わったお弁当箱を片付けていると、相変わらず女の子達に囲まれながら、渡部君が教室に入って来た。
「千都ちゃん、今日、一緒に帰ろうぜ」
「は?どうして、あんたと帰らないと行けないわけ?」
あたしは、ムッとしながら渡部君を見た。
「俺のこと知ってもらうためにも、一緒にいる時間があったほうがいいと思ってさ」
「あたしとじゃなくたって、渡部君と帰りたい子ならいっぱいいると思うけど?それに、渡部君のこともっと知りたいんじゃない?」
「いや、俺は千都ちゃんだけに知ってもらいたいんだけどなー」
渡部君は、子供が拗ねるみたいに唇にを尖らせた。
「どうせ、他の子にも言ってるんでしょ?」
あたしは、渡部君の周りにいる子達をチラッと見た。
「こんなこと言うのは、千都ちゃんだけだよ」
「………」
そんなこと言っも、何か信用できない。
「琉生ー!そろそろ、あたし達とも話してよー」
あたしとばかり話しているのが気に入らないのか、取り巻きの子達があたしの方を睨んでいる。
「涼香……あ、あたし、トイレに行ってくる!」
何だか居心地が悪くなって、とっさに嘘をついた。
「うん」
涼香は、あたしの気持ちに気がついたのか大きく頷いた。
「千都ちゃん!帰り昇降口で待ってるから」
渡部君の言葉も無視して、その場を逃げるように教室を出た。
渡部君が教室に来ると、何だか落ち着かなくて嫌になってしまう。
とりあえず、誰もいない所に行って落ち着こう。
あたしは、屋上へと足を運ばせた。
階段を上って、屋上へ行くと独り先約がいたことに気がついた。
それも、よりによって倉本君だった。
倉本君は、読書中みたいだ。
倉本君の読む本なんてどうせ、オタクっぽいのかつまらない話に違いない。
すると、今まで真剣に本を読んでいた倉本君は顔を上げると、サッと立ち上がった。
「な……何だよ。日本に帰って来ていたのか……」
急に真剣に喋り出した倉本君を見て、あたしは呆気にとられた。
呆然と立ち尽くしているあたしには気づかず、倉本君はまだ続けている。
「どうして、連絡くれなかったんだ?」
何だか、いつもと倉本君の声が違うような?
そもそも、いつも声が小さくてまともに聞いたことがなかったから、こんなにはっきり聞いたのは始めてかもー。
でも、本の中にのめり込んで、その気になっちゃうタイプー!?
やっぱり、オタク!?
呆れ顔で屋上から出て行こうとした時、あたしに気がついたのか、倉本君がハッとこっちを振り向いた。
「………!!櫻井さん」
いつも、大人しい倉本君が慌てた表情で、本を後ろに隠すとあたしの方を見た。
どうして、本を隠すわけ?
何か、怪しいんだけどーー!?
あたしは、興味本位に倉本君の後ろに近づいていくと、パッと本を掴んだ。
「何……これ?」
手に取った本は見て、また、呆然と立ち尽くした。
それは、本と言うより台本に見えたからだ。
中をペラペラ捲ると、赤い線でチェックしてあったり、セリフのどんな感じで言うとか細かく書かれてあった。
頭の中が真っ白になりながら台本を見ていると、倉本君はパッと奪い取った。
「それ……台本だよね……?何の台本なの?それに、どうして……倉本君がそんなの持ってるのよ?」
「………」
倉本君は何も言わず、あたしに背を向けた。
「ちょっと、待ってよ!まだ、話が終わってないんだけど」
あたしの質問には、答えず無言で立ち去ろうとする倉本君の腕を
掴んだ。
倉本君は、あたしの手を振りほどくとした時、メガネに手が当たってガシャ!と地面に落ちた。
「あ……ごめん!」
あたしは、慌ててメガネを拾うと倉本君に渡そうとした。
「………」
メガネをかけていない倉本君なんて、見たことがなかったけど、目の前で見ると誰かに似ているのに気がついた。
思い出した!Kiritoだ!
前に、涼香にKiritoが載っている週刊誌を見せてもらった。
「Ki…ri……」
あまりの驚きに、なかなか言葉にできないでいたら、
「なぁ~んだ。バレたか」
倉本君は、前髪をクシャっとかき上げると、雑誌の写真に写っていた表情であたしからメガネを取り返した。
「ど、ど、どう言うこと……?今まで騙してたの!?」
やっとのことで、喉から声をだす。
「騙したなんて、人聞き悪いなー。こうでもしないと、周りがうるさいし平和に学校生活を送る為には必要だと思うけど?」
「………」
確かに、今までも女子達がキャーキャー騒いでいるのに、Kiritoが学校にいるってわかったら、余計に騒ぎになる。
「櫻井さん、それよりさー。わかってるよね?この事はーー」
「わかってる!秘密でしょ?誰にも言わないから安心して。あ、あたしそろそろ行かないと……」
涼香にだけは、教えてあげよう。あの子、口が硬いし誰にも言わないのは、あたしがよくわかってる。
帰りの遠足のバスに乗る時、間違えて違うクラスのバスに乗ってしまって、恥ずかしい思いをした。
慌てて涼香にメールを送ってから、自分のクラスが乗るバスに遅れて乗った時、涼香はあたしはトイレに行ってて遅くなったと先生に嘘をついてくれた。
他の人はどうだか知らないけど、そんな涼香だから、信用できる。
「待って!櫻井さん」
さっさと教室へ戻ろうとした時、急に倉本君に腕を掴まれて振り向くと、唇に温かい感触がじんわりと伝わってきた。
「ーーー!!」
急にキスされてあたしは、思いっきり倉本君を突き飛ばした。
「な、な、何するのよ!?」
状況がついていけず、あたしはパニック状態でキッと倉本君を睨みつけた。
「何って、口止め料だけど?」
しらっとした顔で、応える倉本君にあたしは、
「く、口止め料って……だ、誰にも言わないって言ったでしょ!?」
涼香にだけには言おうとしていたことを誤魔化すように、ムキになる。
「悪いけど、そうは言っても信用できないんだよねー」
「……!!」
あたしは、何も言葉にできずにただ、倉本君を睨みつけることしかできない。
「あと、移動教室がある日以外は、休み時間と昼休み時間に屋上に来い」
「な、何言ってるの……!?」
「俺がいない所で、喋られても困るし。監視の意味でもセリフの練習に付き合ってもらう」
冗談じゃない!!そんなことになったら、貴重な時間が……。
嫌そうな顔をしていると、倉本君はあたしの顔を覗き込むと、
「来なかったら、キスしたことみんなにバラスから」
にっこりと微笑んだ瞳の奥には、笑えないものがあった。
「ーーー!!」
Kiritoとキスしたことがバレたら、ファンの子達に何をされるかわからない。
「わかったわよ。来ればいいんでしょ!」
あたしは、ムスッとしながら応えた。
そう言った後、あたしはハッと気がつく。
ちょっと待って。倉本君が言いふらしたとしても、誰も倉本君がKiritoだって気がついてないし、そんな心配する必要はない。今の段階だといつもの暗い倉本とキスしたことになる。
倉本君の言うことなんて、みんなが信用するかな?
そう思ったら、脅されるのがバカバカしくなってきた。
あたしは、キッと倉本君を睨みつけると、今言ったことを却下してもらおうとした。
「セリフの練習に付き合うの訂正したいなら、どうぞ。その代わり、キスのことバラスから。掛けでも、君に告白しているんだし知らない人は信用するんじゃないかなー」
からかうように、倉本君はニヤリと笑った。
嫌な奴!!今まで、猫かぶってたなんてショックもいいところだ。暗い倉本君も嫌いなタイプだったけど、実際はこんな人だったなんて、もっと嫌なタイプだ。
あたしは、ガックリと肩を落とした。