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――謁見の間の大扉の前には普段と変わらず兵士が立っていた。




「……っ!?」


ラーサーの姿を目にした兵士が驚いて声を上げそうになったところを


ラーサーが素早く手で兵士の口を塞いだ。




「中の様子は?」


ラーサーは小さな声で静かに訊ねるとゆっくりと手を離した。




「今は謁見している者はおりません。


 ですが、奴等も中にいて国王様や王妃様を隠れて監視しているようです」




「シェーナ様は?」




「シェーナ様はお部屋におられます。


 しかし、そのお部屋の中にも魔族が一緒にいるようです」




「そうか、わかった」


ラーサーはそう言うと直ぐにセシリアの方に向き直った。


「セシリア、国王様と王妃様の気配は感じられるか?」




「えぇ……、奴等は少し離れた所にいるみたいね」




「よし、ならシェーナ様は俺が助けるから、君は国王様と王妃様を此処へお連れしてくれ」


ラーサーはそう言うと、直ぐに姿を消した。




そしてセシリアも転移魔法で直ぐに謁見の間の中に入り、国王と王妃の前に現れるとソアに盾となるように命じ、


魔族達を惹きつけている間にランディール王と王妃の手を取って再び転移魔法で謁見の間の外へと出た。




すると、そこには既にシェーナ王女を助け出したラーサーもいた。




「「シェーナッ!」」


国王と王妃はシェーナ王女に駆け寄った。




それを見届けたラーサーとセシリアは再び転移魔法で謁見の間の中に入った。


続けて王立騎士団と王立魔道士隊も大扉から突入する。


中ではソアが国王と王妃を見張っていた魔族二人だけではなく、側近達を見張っている三人の魔族達も相手にしていた。


そこへラーサーとセシリアが現れ、牽制している間に側近達を助け出した。




「くそっ!?」


転移魔法が使えない魔族達は人質を失い、追い詰められた。




ランディール王と王妃、シェーナ王女の見張りに就いていた三人の魔族は


勝機はないと判断したのか転移魔法で逃げ出した。




ソアの体が激しく光り、魔族達の目を眩ませるとラーサー、クレマン、王立騎士団達がその隙を突き、


同時にレヴィアタンの水の炎が襲い掛かった――。






程なくして、魔族達三人はゆっくりと床に崩れ落ち、動かなくなった……。






     ◆  ◆  ◆






夜が明け、城の中がようやく落ち着き始めた頃――、




ラーサーとセシリア、ユウリ、ジョルジュ、そして国王と側近達、クレマン、アドルフ、


ミシェルの主要人物が会議室に集まっていた。




「ラーサー、このままこの城に居てはくれないか?」


誰もが願っている事を最初に口にしたのはランディール王だった。




「ですが……」


ラーサーはその返事を躊躇していた。




「あなたが此処を出ても奴等は必ずまた来るわよ? あなたを誘き出す為に何度だって。


 それでは何も解決しないわ」


するとセシリアが口を開いた。




「だが、俺が居ると余計城の皆を危険な目に遭わせてしまうんじゃ……」




「そうとも言えないわ」




「何故?」




「奴等にあなたは殺せない。


 殺してしまうとあなたが持っているその剣もただのガラクタになってしまうから。


 だから、今回この城を襲ったのもあなたを誘き寄せる為に過ぎなかったのよ」




「?」


ラーサーはセシリアが言っている意味がよくわからず、怪訝な顔をした。




「あなた、その剣について何も知らないの?」


そんなラーサーに今度はセシリアが眉間に皺を寄せた。




「父からはこの剣だけはどんな事があっても手放すなとしか……」




「そう……。じゃあ、まずその剣について話しておくわね。


 あなたが持っているその剣は魔族の王に代々伝わっている『ベンヌソード』と言う剣で


 その名の通り、召喚魔法でベンヌを呼ぶ事が出来るの」




「召喚魔法……?」




「私がソアを召喚したように、あなたにもベンヌを召喚出来る力があるという事」




「けど……俺は……」




「今はまだ無理かもしれない。でも、あなたがその剣を持っているという事はその力がある証でもあるの。


 召喚魔法って誰にでも使える訳じゃないのよ。


 あなたがその剣をお父上から受け継いだように私も母からこの杖を受け継いで


 それと同時に『雷の力の継承者』となった……」




「じゃあ、俺は『炎の力の継承者』……?」




「そういう事」




「……なんか、まだよくピンと来ないけど……それで、何故俺は殺されないと言えるんだ?」




「それはさっきも話したとおり、召喚魔法は誰にでも使える訳じゃない……つまり、


 あなたが死んでしまうとベンヌを召喚する事が出来なくなってしまうの」




「……? でも、それなら俺じゃなくても君が召喚出来るじゃないか」




「それは無理よ。私は既に雷の力を継承しているから。


 二つ以上の力を同時に継承する事は出来ないのよ」




「それなら、何故奴等は父を殺したんだ?」




「その時はまだ奴等もその事に気付いていなかったみたい。


 殺して剣さえ手に入れられればそれで済むと思っていたのよ。


 ……でも、実際はそうじゃなかった」




「だけど……何故俺なんだ?


 君はこの剣は代々王族に伝わる物だと言っていたけど……父はそんな事一言も……」




「あなた……本当に何も聞かされていないのね」


不思議そうな顔のラーサーにセシリアは軽く溜め息を吐きながら言った。




「あなたのお父様・テオドール=シルヴァン様は魔族の王だったお方よ。


 つまりあなたは次期魔王。


 と、言うより……テオドール王が亡くなっている今、即位こそはしていないけれど実質現魔王だけど」




「え……?」


ラーサーはセシリアが言った言葉に瞠目した。


そして今まで黙って二人の話を聞いていたその場にいる誰もが驚きを隠せないでいた。






「しかし……何故、そんな事を君は知っているんだ? ラーサー自身も知らなかった事を」


少しの沈黙の後、クレマンがセシリアに訊ねた。




「それは、私がそのテオドール王の妹の娘だから」




「じゃ……君は……」




「ラーサーの従兄弟……セシリア=シルヴァン」




「俺の従兄弟……?」


ラーサーはセシリアが自分の従兄弟だと聞き、さらに驚いた。


自分にはもう血が繋がった家族はいない……ずっとそう思ってきたからだ。




「実は私も最近まであなたの存在を知らなかったのよ。


 ずっと奴等に幽閉されていたから」




「幽閉?」




「テオドール王が魔界から姿を消した後、残された唯一の王族である私の母が魔王の代わりを務める事になった。


 そして数年が過ぎた頃、奴等がクーデターを起こしたの。


 その時に私と両親は牢に幽閉されたの」




「それは……父が魔界を出て行かなければ起きなかった事、なのか……?」


ラーサーは恐る恐るゆっくりとした口調でセシリアに訊ねた。




しかし、セシリアは静かに首を横に振った。


「テオドール王が魔界を治めていた頃から奴等はずっとその機会を窺っていたらしいわ。


 だから、例えテオドール王があのまま魔界にいたとしてもクーデターは時間の問題だったと思う」




ラーサーはセシリアの言葉を聞くと、


「そうか……」


呟くように言った。




「それより……一つ気になっている事があるんだけど」


セシリアはそう言うと今度はユウリに視線を移した。




「あなた、さっきレヴィアタンを召喚していたという事は『水の力の継承者』?」


セシリアは真っ直ぐにユウリを見つめた。




ユウリはその瞳に少しビクリとしながら小さく頷いた。




「では、あなたが有翼人を統べる女王……?」




「え……? いいえ……私はそんな……」


ユウリはセシリアの問いに首を横に振りながら答えた。




「でも……おかしいわね。


 『水の力』は代々、有翼人の王族に受け継がれているはずだけど……?


 それに……あなた、翼の色も目の色も普通の有翼人とは違うようだけど?」




「……」


ユウリは不安そうな顔で押し黙った。




「セシリア、それは……」


ラーサーはユウリを庇うように割って入った。




「ラーサー様、私がご説明致します」


そして、その様子を黙って見ていたジョルジュが口を開いた。




「ユウリ様のお母上・クララ様は確かに有翼人の王族で女王となるお方でした」




「……っ!?」


ユウリはジョルジュの言葉に驚いた。




「ユウリ様が驚かれるのも無理はありません。


 クララ様は即位式の直前に“有翼人の森”を出て行かれたのですから……」




「それは何故なんだ?」


驚きの余り、言葉を失っているユウリの代わりにラーサーが訊ねる。




「クララ様は、とある方と駆け落ちをされたのです」




「駆け落ち?」




「はい。以前お話した通り、ユウリ様のお父上は魔族の方です。


 それ故、クララ様とその方の結婚を一族が猛反対したのです」




「それで駆け落ちを?」




「はい」




「じゃ……ユウリは世が世なら有翼人の女王になってたって事か?」




「そうなります」


ジョルジュは落ち着いた口調で答えた。


しかし、ユウリはまだ信じられないといった表情をしている。


そして、その場にいる誰もがまたユウリの出生に驚いていた。




「事情はわかったわ」


セシリアはそう言うと、


「あなたに是非、『水の力の継承者』として協力して貰いたいの」


ユウリに視線を移した。




「は、はい……わかりました」


ユウリはそう答えるのがやっとだった。




「それともう一つ……奴等を潰す為にどうしても協力して貰わなければならない人がいるの」


全ての事情が飲み込めていない皆を他所にセシリアは既に次の議題に移っていた。




「それは、誰なんだ?」




「『風の力の継承者』……“有翼人の森”にいるはずよ」




「“有翼人の森”か……」




「炎と雷の力を魔族、風と水を有翼人、そして土と氷を人間が。


 それぞれの種族の王族に引き継がれているの」




「それで、どうして風の力が必要なんだ?」




「それは、奴等の転移魔法を封じる為よ。


 有翼人の持つ風の力があれば転移魔法を封じる事が出来るの。


 まぁ、逆を言えばこちらも転移魔法が使えなくなるんだけどね」




「土と氷の力はなくても奴等は潰せるのか?」




「えぇ、それは大丈夫よ。


 奴等の転移魔法さえなんとか封じ込める事が出来れば後は互角に戦えると思う。


 それに……土と氷の力の継承者は今現在いないのよ」




「それはどういう事だ?」




「テオドール王が殺されたように土と氷の力を継承していた人間の王もまた、


 奴等の手によって殺されてしまったようなの。


 そしてその時に私やラーサー、ユウリが持っている武器と同じ様に


 クリスタルが埋め込まれた武器を奴等に奪われてしまったの。


 継承者となる資格を持つ人間が現れれば必然的にその武器を引き寄せ、


 継承者の手元に返るはずなんだけどまだ現れていないのよ。


 もしくは奴等からその武器を奪い返すだけの力がまだ備わっていないか……」




「そうか……」


ラーサーはそう言うと次の瞬間、何かを思い出したように再び口を開いた。


「そもそも、何故奴等はそこまでして俺が持っている剣を狙っているんだ?」




「それは前にも少し話したとおり、ティアマトと契約したいが為よ。


 ティアマトはね、この世で絶対の力を持っていると言われている神獣で


 契約する為にはあなたが持っている『ベンヌソード』が必要なの」




「どうしてだ?」




「ティアマトの元へ辿り着くには、まずこの世界の中心にあると言う世界一大きな滝を水の神獣の力で鎮めて、


 その滝の裏にある洞窟を進むのだけれど、この洞窟には風が吹き荒れていて、


 風の神獣の力でしか鎮める事が出来ないの。


 そして、さらにこの洞窟の中は迷路になっていて土の力を持つ神獣の案内がなければ出口に辿り着く事が出来ないし、


 その途中、岩で塞がれている道も多くあって、それも土の力を持つ神獣にしか破壊する事が出来ないの。


 更に洞窟を抜けた先には吹雪が吹き荒れる氷河が待っていて、これもまた氷の神獣の力でしか吹雪を止められない。


 氷河を進んだ先にはティアマトの屍が安置してある祠があって、その扉は雷の神獣の力でしか開ける事が出来ないの。


 で、その扉の向こうにあるティアマトの屍の前でベンヌを召喚し、ティアマトを蘇らせれば無事契約成立。


 この世で最強の力を継承した事になるの。


 つまり、本来はそれぞれの力の継承者が揃わない限り、ティアマトの元には辿り着けないし、契約も無理なのよ」




「しかし……土と氷の継承者がいないのに何故……」




「恐らく奴等は土と氷の継承者を捜すと同時に水、風、炎の継承者についても捜していたはず。


 そして、最悪ベンヌソードだけ手に入れて後は自分達でなんとかするつもりだったんじゃない?」




「なんとかって……なんとかなるモンなのか?」




「普通に考えて……まず、無理ね。でも、何か他の方法を見つけたのかも。


 だけど力の継承者を殺してしまっては意味がないとわかった今、奴等も当分は迂闊に動けないはずよ。


 それに、此処のところ犠牲者を出しているしね。


 土と氷の継承者も現れていないままだし。


 だから、その間にこちらはまず『風の力の継承者』に協力を求めましょう」




「わかった」




「それと、この一件が全て片付いたら……あなたには魔界に戻って貰う事になるわ」




「……!?」


セシリアの言葉にラーサーとその場にいる誰もが慌てた。

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