第3話 潜入
説明回です。
翌早朝。
村の入り口で、村人に囲まれるアキの姿があった。
「アキくん、遅くなったけど、これ!!」
パダイは昨日から寝ずに作っていた物をアキに手渡す。今回の作戦のカギとなるものだ。
「ああ、ありがとうパダイ。」「うん!」
「アキ、娘を頼む!!」
「はい、必ず!」
「「「「ご武運を!!!」」」」
村で戦士を送り出す際に叩かれる太鼓がけたたましい響きを奏でる。
「にいに。がんばって!!」
「ああ。ママを迎えに行ってくる。」
イズモの頭をポンポンと叩くアキ。
それ以上は何も言わずアキたちは村を後にした。
アキに同行するのは、2人。
今回の作戦上、どうしてもアキは睡眠が確保し辛い。
道中、アキの代わりに夜警を行うための人員である。
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ナディアたちを連れた馬車は領都まで1日の距離に差し掛かっていた。
「おばちゃん、おばちゃん!」
「わたしのせいで、リリさんが…」
心神喪失したナディアの体を揺らすのは兎人族のカルメ。
イズモの友達である。
まだ状況が理解できない彼女は大人であるナディアになんとかしてもらいたいのだが、それも叶わない。
「うるせえぞ!!獣!!」
馬車の御者をしていた騎士に怒鳴られ黙るカルメ。
3両編成の馬車を守るため、後方で警戒をしていた騎士団副団長グレンはその様子を眺める。
(これに野盗となんの違いがあるのだ。誇り高き騎士団とはよく言ったものだな。)
自傷気味に自分のおぞましい行った行為を思い出していた。
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(二度目だな…)
アキが領都の城壁が見える草原に立っている。
「アキ。しっかりな。また会おう。」
同行してくれた村人と握手を交わす。
同行はここまでである。これより人族として潜入する以上、獣人族と一緒の姿を見られる訳にはいかない。
「はい。ありがとうございました。」
アキが城門の前に並んでいる列の最後尾に並ぶ。
以前訪れた時から一月も経っていないが、随分と時間を空けた気がしてならない。
城門をやたら巨大に感じる。
(ばあちゃんも一緒だったしな。)
思い出に浸りながら待っていると、アキの順番が訪れる。
「おい!次!」
「あっはい。」
腰に剣をぶら下げた中年の騎士がアキを呼ぶ。
「なんだ。ガキ1人か、お前親は?」
「俺は孤児です。1人で狩りして生活しています。」
「ふ~ん。ホストラは初めてか?年齢は?」
この世界で孤児は特別珍しいことではない。アキも実際そうである。騎士は事務的な質問を繰り返す。
「年齢と職業、目的は?あっ、職業は狩人だな。」
「はい、歳は10歳で目的は魔鹿を倒したので、魔石の売却です。」
ここが、一つのポイントである。中途半端な売り物では、城外の市場でことが足りる。アキは村で一番価値のあった物を持って来ていた。
「へぇ。優秀だな。将来はいい冒険者になるかもな。なら、商人ギルドに持っていけ。いい値になる。では、魔石を出せ。確認する。」
アキが背負っていた袋から魔石を取り出すと、騎士は感嘆する。
「ほう、これはいい純度だ。魔法使えるのか?…お前、名前は?」
「ジェイドといいます。魔法は簡単なものなら使えます。」
アキが用意していた答えを繰り出す。
わああああああああああああああああああああああああ
すると、城内から割れんばかりの歓声が轟く。アキと含めた周辺の人間が城内に視線を向けるがその原因はわからない。アキは視線を変え、騎士に目で問いかける。
「ああ。騎士団が昨日盗賊を捕らえて帰って来てな。今のは多分、処刑されたんだろ。今回のは公開処刑らしいからな。」
終わったか。
アキはそう思った。間違いなくナディアたちはこの中にいる。
「で、魔法仕えるんだな!!なら城内での使用は一切禁止だ。腰に下げている矢とナイフも仕舞え。街中にある魔感石に反応がでたら処罰されるからな。いいな!」
そういいながら、騎士は近くにあった白い手の平サイズの石を指差す。
ここで、アキの計画が狂い始める。
アキは今回の作戦に魔法を陽動に使用するつもりだったからだ。
表情を崩さないように細心の注意を払い返事をする。
「わかりました。」
「では、これが2日分の入城券だ。銀貨1枚。失くすなよ。滞在を延長した場合は、1日毎に銀貨2枚だ。気をつけるよ。」
アキは銀貨を差し出す。村のなけなしの最後の財産。
アキは領都内に入った。
早速、アキは商人ギルドを探す。
城門をくぐって直ぐは広場になっており、標識が一つあるだけで何もない。
アキは字が読めないため、人に尋ねるしかなかった。
広場を抜けた大通りで道を聞き、町の奥へと入っていく。
街並みは大通りに面している建物に関しては綺麗に清掃され、まとめられているが、少し外れた路地に目を向ければ、汚物やゴミが散乱している。
正にこの子爵領、いやこの国の在り方を表していた。
アキは悪臭に顔を歪めながら、目的地を目指す。
時折すれ違う小奇麗な人間が連れている獣人族の奴隷に知り合いがいないことに安心しつつも、胸のムカつきは押さえるのに苦労していた。
街の中心部に商人ギルドを見つける。
あからさまに看板に金貨の絵が書いてある。聞いていた通りであった。
「こんにちは。君1人かな?」
店内に入ったアキに声を掛けたのは、カウンターにいる受付ではなく、その上司であろう30代の細身の男だった。
「はい、俺一人です。魔石の買い取りをしてもらいたくて来ました。」
「その恰好からすると山師かな。まあいいか。こっちにどうぞ。」
受付に通されることもなく、そのまま店内の奥にいくつか並べられていたテーブルのひとつに案内されるアキ。椅子に腰掛けると早速魔石を取り出す。
「へえ。綺麗な物だね。君がこれを?」
アキが頷くと男は魔石を光に向け、魔石をのぞき込む。
「ふむ、何を狩ったんだい?」
「魔鹿です。」
「そうか。群れのボスクラスなら納得だな。よしわかった。金貨3枚でどうだい?」
当初の予定では、金貨1枚程度と村の皆で意見していた。多い分には申し分ない。
「お願いします。」
男は席を立つと、店の奥に消えていく。1人になったアキは店を見渡す。いくつか照明があるが、もちろん電化製品ではないだろう。恐らく魔石を原料とした、魔道具だろう。
城壁にあった魔感石を用いればあのくらいの光量は出せそうだ。
そんなことを考えていると、男が戻って来る。
「では金貨3枚、300,000ネスだ。一枚分は銀貨10枚にしたけど、それでいいかい?」
またアキは頷く。この世界の通貨は分かり易い。銀貨1枚に1万円程度の価値がある。それよりも低いものが銅貨、鉄貨、黄銅貨、銭貨。それぞれ10倍算で繰り上がる。今回の魔石が30万円分。それに対して村の資産が銀貨1枚だったことを考えると如何に村が貧乏であるかを見せつけられたアキだった。
「君はまだ小さいからお金の持ち運びには注意するんだよ。」
優しく声を掛けてくれる男。
「ではこの書類にサインをお願いするよ。」
そういって羊皮紙を差し出してくる。
「…字が書けないんです。」
「そうか。君の名前は?私が見本に書くから真似て書いてくれたまえ。」
アキがジェイドとサインを書き終え、男に質問をする。
「この街に奴隷を売っているお店はありますか?」
アキの言葉を聞き、顔をしかめる男。
「なんで奴隷なんか欲しがるんだい?君みたいな子供が、」
「知り合いのおばあちゃんが腰を痛めて農作業が大変そうなんです。だから…」
アキの言葉少し表情が緩む男。どうやら奴隷にいい感情は持っていないようだった。
「大きい商会は3つ隣のギルノートって人が経営しているギルノート商会かな。」
いくつかの奴隷商店を聞き出したアキはお勧めの宿を聞き、商人ギルドを出る。
(この店だな)
アキがギルノート商会の前に立っていた。




