第7話 動き出す狂気
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ネスジーナ王国ホップス子爵領領都ホストラ 領主館
2階建ての領主館の1室で部下から報告された書類を睨み付ける太った男がいた。40歳を過ぎた頃と思われる男の目尻が上がり、顔の吹き出物が浮かび上がるその姿は彼のその性格をよく体現していた。年季の入った机の前で、重厚な椅子に座ったまま声を上げる。
「アルフレッド!!アルフレッドォォ!!」
彼の罵声とも言える大声に扉を開け、姿を見せたのはホップス子爵家の家令アルフレッドである。齢50歳を超えるもその背筋は真っすぐしたもので、口元に整えられた白鬚が彼の気品の高さを示している。
「はっ、旦那様」
アルフレッドが「旦那様」と呼ぶのはこの国で1人しかいない。現ホップス子爵家当主クリスト=ライ=ホップス子爵である。
「なんだ!この報告書は!!」
「と、申されますと?」
「この税収では王都に献上する税金にも満たないではないか!!」
子爵が手にしていたのは、税収の報告書である。子爵であるクリストは毎年2回、王都に決まった量の、税金か小麦を納めねばならず、報告書にはそれに満たない額しか記載されてなかったのである。
「しかし、どこも作不足でそれ以上は「そんなことを聞いているのではないわ!!」」
アルフレッドの言葉を遮った子爵はさらに続ける。
「このままでは儂の地位に影響が出る!!何とかしろ!!」
「既に2度ほど税を増やし、現に地方の村では餓死者も出ているとの報告もあります。これ以上の増税は不可能かと。」
「だから、何だと言うのだ!!儂に関係ないことをごちゃごちゃ抜かすな!」
先ほどから顔を真っ赤にして怒鳴り続ける子爵。そんな子爵にもアルフレッドは平然としている。
現実問題としてこの領主館にある沢山の美術品や骨とう品、装飾品や宝石その他諸々を売り払えば数年は税の心配など不要ではあるのだが、子爵にそのような考えは無いし、売るつもりもない。なんとかして市民から捻出しようとしていた。
「いや、待てよ。」
子爵は先ほど呼んだ別の報告書を思い出す。机の上に散らばった羊皮紙の中から1枚の報告書を見つけ出し、読み進める。
「アルフレッド!騎士団団長を呼べ!!」
何かを思いついた子爵の顔はより醜悪に歪んでいた。
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雲ひとつない晴れた日の朝、
「「いってらっしゃい」」
リリとナディアから見送りを受けたアキたち3兄弟は森の中を疾走していた。
アキとイズモは木の枝と利用しながら空中を飛び回り、ヒュウガは文字通り空を飛んでいる。今日はイズモの狩りデビューの日である。
いつもであればアキはナディアと共に狩りに出掛けるのであるが、今現在リリによる熱血指導が開始されており、イズモとヒュウガが代わりに同行しているのだ。
イズモに関しては森での移動方法を見ただけでマスターし、アキとナディアを凹ませた上にリリからも弓術の合格点を獲得するという天才ぶりを発揮していた。ヒュウガはおまけである。
しかし今日の狩りは難航していた。食糧が少ないのはどうも森の生き物にとっても同じことのようで、アキたちは仕方なく薬草などをとり家計の足しにすることにした。
3時間ほど森に潜ったところで獲物はウサギが2匹と、ウリボーが1匹。
少ない量であったが、このまま続けるかどうか判断が難しいところであった。
「ヒュウガ、お母さんの墓参りに行くか!」
近くにヒュウガのお母さんのお墓があることを思い出し、ヒュウガに提案するアキ。
グオ。とヒュウガが頷くと、進路を3人は変える。
10分程のところで直ぐに小さな丘を見つける。
丘の周りには色とりどりの花々が咲き誇るっており、木々の隙間から差し込む光によって照らされることで神々しい雰囲気を演出していた。
3人が黙祷を捧げていると、イズモの鼻に引っかかる匂いがあった。
「にいに。なにかちかくにいる。」
「数は?」
「1かな」
イズモの鼻を元に匂いのもとを辿っていく。村は現在最貧。ウサギの1匹でも惜しい。
匂いの原因は直ぐに見つかった。
「にいに、なにこれ?」
グオ?
首をコテンと傾げてアキに聞く弟妹。アキにだってわからない。筋肉隆々な男が4本腕で上半身裸のまま行き倒れているのだから。
イズモは木の枝を拾いツンツンと突っつき始めた。
ピクンと震える男の体。ビクッ!!と驚く3兄弟。
ぐりゅりゅるるるるるるるるるるるる。
盛大に男の腹のラッパが鳴り出す。アキたちは無言でお互いの顔を見合わせるしかなかった。
「いや~助かり申した。」
男は大声でそう言うと両手に持っていたウサギの焼いた肉を食べ続ける。
腹のラッパ音を聞いてしまっては、アキたちは獲物を放出する以外の選択肢を持ち合わせていなかった。ナディアの子供の運命である。
枯れ木を集め、魔法で火をおこし、ウサギをよく焼いて男に手渡していた。
「吾輩、海の民に世話になっていたのだが、森に果物や資材を集めに来たら、どうやら迷ってしまった模様。手元にあった果物を食べて凌いでいたものの、遂には力尽きお主らに助けられた次第。いや、面目ない。」
バサラと名乗る男はアキたちにそう説明する。
「バサラのおじちゃんはなんでてが4つもあるの?」
イズモが子供特有のドストレートな質問をする。あちゃーと思うアキも気になっていたのいで敢えて止めない。
「むっ、吾輩まだ25歳であり、おじさんと呼ばれる筋合いはござらん。」
25ならギリギリだろうと思うアキ。しかし、年齢に関しては思うところがあるのか口を開かない。
「ねえおじちゃん、なんで?」
詰め寄るイズモ。こうなってしまったイヅモからは逃れられない。
「むう。まあよかろう。吾輩は鬼人族とアラクネ族のハーフでな。その種族特性を引き継いでこのような姿をしておる。ほれ、角があるだろ。」
頭を差し出すバサラ。確かにバサラをよく見れば額に2つの小さな角がある。しかしアキは別の点が気になった。
「血の奇跡…」
「ほう、お主。その言葉を知っておるか。忌み子などと呼ばれるかとおもうたが、吾輩そちらの方が断然好みである。」
血の奇跡。別名ブラッティマジックとも呼ばれるこの言葉は異種族婚において発生する。
両親が異種族の場合、その子はどちらかの種族特性を引き継いで生まれてくるのだが、まれに奇跡的な確率でバサラのように、両方の種族特性を融合させた子が誕生する場合がある。その現象を血の奇跡と呼ぶとアキはリリに聞いたことがある。
バサラが幸運だったのは、鬼人族の能力とアラクネ族の能力の長所を引き継げたことだ。場合によっては短所のみを受け継ぐ場合もあるのだから。
「まあつまり吾輩は唯一の鬼蜘蛛族といったところである。」
ほぇ~と感心するイズモ。おそらく半分も分かっていない。
「それでお主らはなんでこんな森の奥に子供たちのみでいるのだ?」
当然の疑問だ。アキは村の状況と織り交ぜながら説明する。ナディアの状況を省いたことについてはイズモもヒュウガも何も言わなかった。
「なるほど。人族には会ったことはないが、どうしようもない奴らもいるものだな。」
4本の腕を器用に組みながら考え込むバサラ。
「では吾輩らの近くに居を構えてはどうだ?」
「吾輩はこんな身なりであるから、幼き頃に両親に捨てられており、彷徨っていたところ、海の民に拾われてここまで大きくなれたのだ。気のいい奴らばかりである。もちろん、お主らが良ければであるが。」
「皆に聞いてみないことには…」
「であろう。だが、ひとつ条件がある。」
「条件ですか?」
「うむ。吾輩と今ここで戦え。」
このあたりから物語が加速します。正直、登場人物に感情移入してしまっており、書いていてつらい部分があるのですが、是非お付き合いください。




