幕間1 とある酒場にて…
時間は少し遡る…
ツバサが祖母に小遣いを貰い辛くも『週刊 魔法少女 第4号』を入手した日の夜の事…
カランカラン!!
「あら~ん、いらっしゃ~い」
ベルの付いたドアを開けると妙に艶っぽい女性の声がした。
ここはスナック『ワンチャンス』だ。
テーブル席が4つ、6人掛けカウンター席と、そんなに大きな店では無い。
「ミルクを一杯…それとヒマワリの種を…」
カウンター席に座りオーダーをしたその声の主は…
ユッキーだ!
まず出された蒸しタオルで手を拭う。
「あら~ん、ユッキーさん今日は一段とお疲れね~ん?」
カウンターにミルクのグラスとヒマワリの種十数粒が乗った皿を置きつつ
このスナックのママが声を掛ける。
ママの容姿は猫だ。
とても美しい純白の毛並みに真っ青なイブニングドレスを纏っている。
睫毛も長くカールしていてチークも派手になり過ぎない程度に入れている。
周りを見ると他の店員の女性たちも動物系のマスコットで
みんな色とりどりのドレス姿だ。
「聞いておくれよママ~!
ウチのマスターのイェンの管理のずさんさと来たら…
危うくライセンスを手に入れ損ねる所だったんだぜ~」
いつもの「~でありんす」口調は何処へやら
普通にしゃべるユッキーだ。
みんな薄々気付いているかも知れないがあの変な口調は『キャラ付け』…演技なのだ。
「ま~!それはそれは~お気の毒ね~ん」
ヒマワリの種を高速でヤケ食いしているユッキーを慰めるママ。
床はたちまち種の皮だらけになった。
「オレが極力無駄にイェンを使わない様に気を使ってやってたのによ~
アイツは放っておくと無駄に変身しようとするんだぜ?金が掛かるのに…
魔法少女はただのコスプレじゃないんだぞ…」
次から次へとツバサに対する愚痴が飛び出す。
グーッとミルクを一気飲みしてユッキーは深いため息を吐いた。
「お互い苦労が絶えないね」
ふと後ろから声が掛かる。
ユッキーが振り向くとそこには今日の昼間に出会った『虚飾の姫君』のお供、ブタバナフグの『ピグ』が居た。
「あんたは…昼の…あんたもここには良く来るのかい?」
「まぁ~たまにはね…しかしあなた随分と荒れている様だけど…あ、ママ…私には焼酎下さい」
「それがよ~ウチのマスターが金を持って無くて危うく『第4号』を買いそびれそうになったんだ…幸い臨時収入があって何とかなったんだが…」
そう言いかけてユッキーの脳裏にその時の状況が思い出される…
(そう言えば…ツバサのばあさん…ありゃ何者だ…?
あの歳にしてあの眼力…手から感じた強大な魔力に似た何か…)
ユッキーは軽く身震いしてしまった、尻尾の毛が一斉に逆立つ。
「おや!どうかしましたか?」
ピグがそれを見て戸惑う。
「いや…何でもないよ…」
その割には冷や汗でぐっしょりになっていた。
「よ~う!!兄弟!!楽しくやってるか~い?!」
ユッキーとピグの間に顔を突っ込んで両側から二人の肩を抱く人物が現れた。
その者はフェレット、全身の毛並みは淡いクリーム色…
頭にはシルクハットをかぶり首には蝶ネクタイを締めている。
「何だお前!初対面のくせに馴れ馴れしいな!…もしかしてピグさんの知り合いかい?」
「…いえ…私も知りませんね…」
「何だよ~ノリが悪いなお二人さん!同じ魔法少女の従者同士仲良くしようぜ~?」
フェレットは右手に持っていた『ガンペリ』と書かれたラベルのワインボトルをラッパ飲みしだした。
「だから誰だよお前は!嫌見たらしく高級ワインなんか飲みやがって!」
機嫌の悪いユッキーはそのフェレットに怒鳴りつけた。
「おっと!こいつは失礼!俺は『ダニエル』、とある魔法少女の従者だお見知りおきを…」
急にかしこまって上品なお辞儀をするダニエル。
「それでそのダニエルさんが何の用だ?」
「いや~この先どこかで君たちのマスターと俺のマスターが出会うかもしれないし?
お近づきの印にご馳走でもと思ったものでね…」
フフンと鼻を鳴らす。
「ケッ!てめーみたいなスカした奴に奢ってほしくね~よ!」
「あれ~?そんな口を利いると後悔するかもよ~?
ウチのマスターは大企業グループのご息女で資金に大層余裕がある…
君たちのマスターを傘下に入れて貰える様に執成す事も僕には出来るんだよ~?」
いがみ合うユッキーとダニエル。
目と目の間に火花がバチバチと弾ける。
「貧乏だからってバカにしやがって!!
ウチのマスターは魔法のセンスはあるし、それを使いこなす為の努力は人一倍してるんだぞ!!」
さっきまで散々貶していたツバサの事を今度は持ち上げ始めるユッキー。
「やれやれ…この世界の魔法は課金が大きなアドバンテージを占めるのは
お前さんだって知ってると思うんだが…
まぁいいや…今日は挨拶と言う事で
どこかで会った時はよろしくな」
両掌を上に向け肩をすくめたダニエルは踵を返しスナックから出て行った。
「あ~もう!頭にくる!飲み直しだ!!ママ!!もう一杯ミルク!!」
「は~い!」
「程々にしなされよ?お腹を壊すよ」
こうしてマスコットたちの夜は更けていく…。
ただユッキーたちは気付かなかった…。
奥のテーブル席から終始こちらの様子を見ていた。
黒フードを被った客の存在を…。