幕間5 舞台裏の攻防
「お疲れさん!!」
チン!とグラスを軽くぶつけ乾杯をするユッキー達マスコット。
ここはもうお馴染み、スナック『ワンチャンス』だ。
「なあネギマル…アンタのマスターってどんな人なんだ?」
ユッキーが尋ねる。
「…一言で言うと『単純』でしょうか…ガサツで暴力的でせっかちだけど
仲間思いで芯が通っていて曲がった事は大嫌いで…基本的には良い人ですよ…」
ソワソワしながらグラスのウーロン茶をストローで吸い込む。
ネギマルはこう言う店には来た事が無いらしく何となく落ち着きが無い。
「あはは…それ褒めてるのかい?貶してるのかい?」
裏表がない性格…
『森の守護者』はほぼ昨日見ていた通りの人柄の様だ。
「ただ…何にでも首を突っ込みたがるのが困り物でして…
あのカイコ虫の退治だって見ず知らずの農民に泣き付かれただけで受けてしまったし…もう少しだけ思慮深く行動してほしい物です」
「いいじゃないか…オレ、そう言うの嫌いじゃないぜ」
馴れ馴れしくネギマルの肩を叩くダニエル。
「あ…そうそう皆さんに報告があるんでした…
お約束のチヒロさん捜索の件ですが…あの一帯の森林をマスターの『ルートインスペクト』でくまなくサーチしたのですが…」
「それで…?」
「…残念ながらチヒロさんは見つけられませんでした…」
「そうか…」
心底残念がるユッキーとダニエル。
「なので可能性があるとしたらその先のファンタージョンの首都『ミレニアン』も捜索するべきでしょう」
ネギマルが眼鏡を上げつつ語る。
「ミレニアン…明日の決闘の闘技場がある街じゃないか!?」
何たる偶然…
「なら決闘が終了したら手分けして探そうぜ!」
「ああ…!そうしよう!!戻ったらお嬢に報告だ!!」
こうやって少しづつ地道に探していくしか他に手は無い。
「ところで、このグラスは何です?これから誰か来るのですか?どうやら芋焼酎が入っているようですが…」
四人掛けのテーブルの空いた一角、そこにあるグラスにネギマルが気付く。
「…ああ…それは俺たちの仲間のピグの分だ…今はもうこの世にはいないがな…無口だったけどいい奴だったぜ」
「スミマセン…」
「お前が気にする事じゃないよ…悪いな…気を遣わせちゃって」
暫く沈黙が場を支配する。
「あ…そうそう!明日の決闘デュエルは一体どっちが勝つんだろうな?」
空気を和ませようとダニエルが話題を振る。
「しかしあの『大地の戦乙女』の傍若無人振り…あれは相当な物ですね…」
昨日一目見ただけのネギマルでさえこう分析する始末。
魔法少女は適性がある者が魔法少女に選ばれる…だからごく稀にチヒロの様な男の子が選ばれる事だってある。
そういった理由で適正者の性格についても善人、悪人関係なしに選ばれるのだ。
ただ『大地の戦乙女』が悪と言うのはいささか早計だ。活動内容だけを見れば立派に魔法少女の責務を全うしている。
悪のカテゴリーに入る者がいるとすれば同じ魔法少女を手に掛ける『魔法少女狩り』の様な人物を言うのであろう。
「彼女の言動を聞いてると、まるで自分以外の全てを否定してんじゃないかとさえ思えるんだよな…少し可哀想に思えてくるよ…」
ユッキーが遠い目をする。
「そうは言うが旦那、あれはとても許容出来る範疇を超えてるぜ?」
「ああ…俺だってアイツの言い分を許せないのは同じだよ…
全ては明日の決闘次第、『森の守護者』の姉御には頑張ってもらうしかない…ツバサの為にもな…」
そう言ってミルクを一気に煽るユッキー。
「その…ツバサさんはその後どんな様子だい?」
非常に聞きづらそうにダニエルがたずねて来る。
「…あまり良くは無いな…塞ぎ込んでいるし…突然泣き出したりする…」
幾多の戦闘を経験して来たとは言えツバサは若干13歳なのだ。
ただでさえチヒロの事で不安な日々を過ごしていた所に『大地の戦乙女』のきつい言葉攻め…そうそう耐えられる物ではない。
「あら~ん…何だか面白そうなお話をしてるのね~決闘がどうとか~」
このスナックの白猫ママだ。
「え…ああ…そうだよ、明日闘技場で『大地の戦乙女』と『森の守護者』の決闘があるんだ…何だか噂が広がっちゃってイベントみたいになるんだってさ~ママもオレと一緒に見に行かない?」
ダニエルがママの腰に手を回しながら口説く。
「ごめんなさいね~ん明日もお店なのよ~夜にでもお話聞かせてね~ん?」
「…ああそうなんだ…分かったよ…」
ガクリと肩を落とすダニエル、ここのママは中々にガードが堅い。
追加注文分のグラスを置いてすぐに行ってしまった。
「よう!!みんなお揃いだな、景気はどうだい?」
『大地の戦乙女』のマスコット、鷹のタカハシがグラス片手に現れた。
「またアンタか…他人を気にせず自分勝手に振舞えてさぞ気ままな人生を送ってるんだろうな…」
「フッ…それは嫌味のつもりかい?」
ユッキーとタカハシはお互い口元に笑みを浮かべているが目が笑っていない。
「今日ここに顔を出したのは明日の決闘について提案があったからなんだが…」
妙に勿体着ける言い方のタカハシ。
「何だよその提案って…」
「ただ決闘で白黒着けるだけだとつまらんだろう…?それでだ…勝った方が負けた方に何でも言う事を聞かせられると言うのはどうだ?」
「…何だと…?」
こんな条件を持ち出して来るとは…『大地の戦乙女』陣営は余程自信があるのだろう。
「そんな勝手には決められませんよ!!マスターに相談しなければ…!!」
対戦相手はネギマルのマスターである『森の守護者』だ。当然ネギマルが話に割り込んで来る。
「まあいいや…明日の決闘開始前までに相談しておいてくれ…じゃあな!」
「………」
押し黙るネギマルをよそにタカハシは背中で手を振りながら去って行った。
奴は勝気な『森の守護者』が断るはずが無いと判断してこの話を持ち掛けたに違いない。
これは駆け引きだ…決闘の前から決闘は始まっていたのだ。
だがこの決闘が後にこのファンタージョンの命運を左右する事件の引き金になるとは誰も予想していなかった…




