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週間 魔法少女  作者: 美作美琴
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第11話 チヒロとカオル子、二人の過去 前編

「…失礼します…」


黒服に促されるまま立派な木製の扉を開け入室するチヒロ。

ここはカオル子の実家、財前家の豪邸内の一室にしてカオル子の父の書斎だ。


「よく来てくれた、君が源設備の娘さん…チヒロさんだね?」


初老の男性が笑顔を向けて来るがチヒロは緊張を解く事は無い。

彼の今までの人生経験上この笑顔には心が籠っていない事が見抜けてしまったのだ。


「…僕は確かに(みなもと)チヒロですが娘ではありません…男ですから…」


うんざりと言った表情でそう言い捨てる、実はチヒロはその少女の様な愛らしい顔立ちからいつも女の子に間違われていたし、その事で学校でもクラスメイトからかわれていたのだ。


「何だと!?おい!!話が違うじゃないか!!」


カオル子の父は黒服の一人を呼びつけるとチヒロに背を向け何やらヒソヒソ話を始めた。

カオル子の友人にするつもりで身請けした少女が実は男の子だったのだ

慌てもするだろう。

しかし事情を知らないチヒロにもどうやら手違いがあったらしい事は何となく理解できた。


「はぁ…」


大きくため息を吐く。

相手が何を企んでいるかまでは分からないがどうせロクな事にはならない…チヒロは完全に諦めモードに入っていた。


「お父様!お父様!…チヒロさんはもういらっしゃっているのでしょう?早くわたくしにも会わせて頂けませんか?」


扉の外からカオル子の声がする…どうやら待ちきれなくて予定より早くここへ来てしまったらしい…

その途端明らかに動揺した声色でカオル子の父は部屋の外に向かって声を掛ける。


「…あ~…少し待ちなさい…まだチヒロさんと大事なお話をしている所なのだよ…」


「そうですか…わたくしったら気が急いていましたわ…失礼しました…ではここで暫くお待ち申しておりますわ」


「何!?」


更に慌てる父、これは一刻の猶予も無い…

チヒロに近づき耳元で声を潜めて話し始めた。


「あ~チヒロ君…君には私の娘のカオル子の友達謙付き人になってもらう為にこの家に来てもらったのだが…まさか男の子だとは思っていなかった…

しかしカオル子がもう来てしまった以上代わりの女の子を探している余裕が無い…君は何とかカオル子に気に入られるように努力するんだ…

出来なければ君には出て行ってもらうしお父さんへの資金援助の話は無かった事にさせてもらう…いいね?」


「…そっ…そんな…!!」


恫喝とも取れるカオル子の父の言動に狼狽えるチヒロ。

だが既にチヒロに選択権などなく言う通りにするしか他は無い。


「あ~…カオル子や…もう部屋に入って来てもいいよ」


チヒロの心の整理が着く前にカオル子パパは室外で待っているカオル子に声を掛けてしまった。


「失礼しますわ、お父様」


待ちくたびれたと言わんばかりに勢い良くドアが開かれ

ピンクのフリフリロリータ服を着た縦巻きロールヘアの少女、カオル子が入室して来た。

チヒロとカオル子、二人の視線が交わりお互いの姿を初めて視認する。


『か…可愛い…まるでお人形さんみたいだ…』


『まあ…何て整った顔立ち…まるで天使の様ですわ…』


これが二人がお互いの第一印象に心の中で抱いた感想だ。




『な~んだ、二人とも一目惚れだったんじゃない~』


ニヤニヤする『果て無き銀翼(ウイング・オブ・エターナル)』のツッコミに赤面する二人。

この『リーディングエア』の効果発動中は全くの嘘が吐けない状態なのだ。

少なくともこの瞬間だけを見れば実に青春していて微笑ましい物だ。


「あなたがチヒロさんね?初めましてわたくしはカオル子…財前カオル子ですわ、これから宜しくお願いしますわね」


チヒロの両手を取り満面の笑みを浮かべるカオル子。

チヒロの顔がどんどん赤くなっていく。


「ぼ…私はチヒロ…源チヒロです…」


チヒロは思わず一人称を『私』と言ってしまった。

先程カオル子の父に自分が女の子としてここに連れて来られた旨の話を聞いてしまっていたからだ。

ある意味チヒロは自分で退路を断ってしまったのだ。


『…これが…チヒロがわたくしの家に来て暫く女の子の振りをしていた本当の理由なんですのね…』


『…そうさ…ここから僕の人生は変わってしまった…』


『………』


神妙な面持ちのカオル子とチヒロ。

不穏な展開…本当にこの先の展開を第三者である自分が見ていていいんだろうか…不安になる『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』。


「ここで立ち話も何ですから私わたくしのお部屋へ参りましょう」


「…え…ええ…」


カオル子に少し強めに腕を引っ張られチヒロはカオル子の部屋へと移動した。

二十畳位の広い部屋、フローリングの床の中心にピンクのカーペットが敷かれその上にソファーとテーブルが置かれ、部屋全体が淡いクリーム色の壁紙で覆われている。


「さあお掛けになって、今紅茶を持って来させますわ、茶葉のお好みは有りまして?」


「…お任せします…」


中流家庭で育ったチヒロに高級な茶葉など分かるはずも無く

こう言うのが精一杯であった。


「ではダージリンを…」


「はい、かしこまりました」


カオル子の後方に控えていたメイドが返事をし部屋を出て行く。


「少し気になったのですが…チヒロさんはお洋服に興味はないのかしら?

可愛らしいワンピースやスカートを着たらあなたの魅力はもっと引き立つと思うのだけれど…」


「え?…それは…可愛い洋服は嫌いではないですけど…着るのはちょっと…それにそう言った服は持っていなくて…」


無論男の子なのだから当然である。

チヒロ自身同世代の男子と比較すれば可愛い小物や洋服を好む傾向にはあったが、女児服を着た事は無かった。

しかしこの時チヒロには嫌な予感がしていた。


「それでしたら私のお洋服を差し上げますわ!さあこちらのウォークインクローゼットへいらして?」


「え…?いや…ちょっとそれは…!!」


慌てるチヒロにお構いなしにグイグイと腕を引っ張りウォークインクローゼットの中まで連れ込んだカオル子。

そしてクローゼットと呼ぶには広すぎる部屋にはおびただしい数のドレス、ワンピースなどカオル子の私服がずらりとぶら下がっていた。

はぁ~っとチヒロの口から感嘆の声が漏れる。


「さあ!こちら側の列ならどのお洋服でも結構よ?チヒロさんのお好きな物を選んで下さって構いませんわ」


「ええっ?!」


女の子の振りをして生活すると言う事は遅かれ早かれ女装は避けて通れない…チヒロは唐突にこんな環境に放り込まれ、挙句に思考する時間を与えられなかったせいでその事をすっかり失念していたのだ。

仕方なくハンガーに下がっている洋服を端から順番に目を通す。


「あ……」


程なくしてワインレッドのワンピースが目に留まった。

上品でいて過度な装飾が無く落ち着いたデザイン。

壁に掛かっている姿見の前で体に当てて見る…


「わぁ…」


目を細め鏡に映った自分の姿に見惚れるチヒロ。

まるで自分そっくりの女の子が目の前に居る錯覚に陥る。


「あら…そのワンピースを選ぶなんてお目が高いですわね!

よろしいですわ、そのお洋服をあなたに差し上げます、早速着てみて下さらない?」


瞳をキラキラと輝かせるカオル子。


「…いいえ~そんなに急がなくてもいいんじゃないかな~なんて…」


「恥ずかしがらなくてもよいんですのよ?…何でしたらあなたが着替えている間、わたくしはクローゼットの外に出ていますわ、ごゆっくり着替えてらしてね」


そう言ってカオル子はクローゼットから出て行ってしまった。


「ううう…何でこんな事に…」


心の準備が出来ていないチヒロは何とか着替えを引き延ばそうとしたが失敗に終わった…

おもむろに服のボタンに手を掛ける…

もうチヒロは覚悟を決めるしかなかった…

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