グリフォン選択
「落ちるのはイヤだもんね。グリフォンにしよっと」
おすわりをして待っているグリフォンに近づいて行くとグリフォンは金色の目を細くしてあたしのほっぺを舐めてくる。
選ばれたことを喜んてくれたみたいだけど、選ばれなかったガルーダのほうは朱い翼を広げて先に飛んでいってしまった。
「わあ!? 待って待って!」
あわててグリフォンの背中に乗せてもらってタカの翼を広げたグリフォンにガルーダの後を追うように飛んでもらう。
飛んでから気づいたんだけど、空にはお月さまが光っていて、たくさんの星があたしとグリフォンが飛んでいるのをお祝いするみたいにキラキラしてた。
★
「ソリス、起きて。ソリス」
「んー……」
体を揺さぶられて目を開くと、グリフォンの代わりにママがいて、周りは夜の空みたいに暗くなくて真っ白で明るかった。
「あれ……?」
あたしのお部屋は水色で白いものは置いてなかったから白なんか見えるはずないのにどうして?
ここはどこだろう。
「起きた? 床に寝かせちゃってごめんなさいね」
「ここ、どこ?」
体を起こして周りを見てみるけど、家のものは何もなくて、扉が前と後ろに二つ付いているだけのお部屋。
ここは家の中じゃないどこかで間違いないみたいだった。
初めての外の世界。
心臓がドキドキしてきてジッとしてられなくて何もない白い部屋を歩き回ってみる。
「真っ白……ねえママ、ここはどこなの?」
「ソリスちょっと落ち着いて。こっちに来て」
部屋の真ん中に立ちながらあたしを見ていたママに近づいて行くと、ママはかがんであたしの目を見た。
「私の後ろの扉があなたの行くべき場所。扉から出るとあなたが見たがっていたモノがたくさんあると思うわ」
「何? 何があるの?」
「それは出れば分かるわ」
「じゃあ早く行こうよ!」
ママの手を握って走ろうするとママはあたしの手を引っ張って動かないまま首を振る。
どうして行かないの?
「私はね一緒には行けないの。あなただけが行くのよ」
「え? ママは、どこに行くの?」
「お仕事がねとても長くなりそうなの。だからあなたにはこの扉の外にある場所で待っててほしい」
「おしごと……」
ママがしているお仕事をあたしは知らない。
知っているのはお仕事があるとママはあたしの側にいられないっていうこと。
ママ以外の人に会ったことがないあたしにとって、ママがいない間は一人ぼっちで寂しい。
そのお仕事が長くなるということは長い間、ずっと一人になってしまうということじゃないのかな。
考えていたらママが頭を撫でてくれる。
「扉から出て歩いて行くと黒い屋根の家があるわ。そこにはね二人の男の子が住んでいてね、名前は“アーベント”と“ノイテ”」
「あーべんと、のいて?」
「迎えに行くまで二人と仲良くして待っていてくれる? 長くなるけど、絶対に迎えに行くから」
「……うん!」
ママとはお別れすることになるけど、今度は一人ぼっちにはならないみたい。
それなら寂しくないから大丈夫かな。
「愛してるわソリス」
ママがそう言ってくれると胸の中が温かくなる。
それに合わせてママはあたしを抱きしめてくれて、温かいママの体をあたしも抱きしめる。
少ししてママの体が離れていってあたしはママの後ろにある扉まで歩く。
扉の先はどんな所なんだろう。
ちょっと怖い気持ちと外に出れる嬉しい気持ちのまま扉のノブに手をかけて後ろであたしを見送ってくれているママに振り向いて笑って見せた。
「行ってくるね!」
「ええ、行ってらっしゃい」
お見送りの言葉を聞いてからゆっくり扉を開いた。
★
「わあ!」
外に出るとそこは白だけのお部屋とは違って色々な色があった。
海の青色、砂浜の白色。赤、黄、紫色、他にもたくさんの色のお花、お花の後ろにはたくさんの緑色の木が生えているから森かな。
上を向けばふわふわの白い雲が海と同じ青い空に浮かんでいた。
「とってもキレイだよママ!」
部屋の中、絵本でしか見たことがなかったからママに嬉しいって言いたかったけど扉は閉まってママは見えなくなっていた。
さびしい。……こわい。でも初めての外を楽しめば大丈夫。
首を振ってさびしい気持ちを追い出してから走った。
海を見ながら砂浜を走っていると気持ちいい。反対を見ると色々なお花と、木の実を付けた木が見える。みんな触れるし、温かさ冷たさも分かる。いつも香っていたお家の香りとは違って色々な匂いがする。
それも外にいるからできること。
なんだか絵本の世界に入ったみたいで楽しくて足が速くなる。少し走ったぐらいでママが言っていた黒い屋根のお家が建っているのが見えた。
「アーベントとノイテ……いるかな」
ママ以外の人。どんな人なんだろう。
とりあえずさらさらの砂浜から固い地面に歩いてお家に向かった。
お家に着いて扉のノブを持つと心臓がバクバク言いだして手に汗がでてくる。
アーベントとノイテが絵本に出てくる王子様とか、お姫様を守る騎士みたいに優しい人だったら嬉しいけど、魔物とか魔王様みたいに怖い人だったらどうしよう。
「……だいじょうぶかな」
出て行けって言われたりしないかな。料理ができないから追い出されたりするんじゃないかな。
またこわくなってきた。
「でも、行くしかないよね」
戻ってもママはいない。一人ぼっちにならないように、まずここを開かなきゃ。
ふーと息を吐いてから力を入れてノブを回して扉を開いたけど家の中には誰もいないみたいで誰の声もしなかった。
「あれ?」
不思議に思いながらも入ってみるとテーブルが真ん中に置かれていて、テーブルの周りには椅子が三つあった。
テーブルの先にはお皿とかを洗う所があって、その隣にある棚にお皿とコップが入っていた。
「出かけてるのかな?」
キョロキョロ見回してると左の方に出口とは違う扉があるのに気づいた。
「なんだろう?」
気になって扉を開いてみると中は三つのベッドがあった。
真ん中には青いベッド。左にはオレンジ色のベッドがあって、青いベッドにはあった枕が床に落ちていた。右の黒いベッドは掛け布団がたたまないでぐしゃぐしゃになっている。
起きてから何もしないまま出かけたのかな。
「ちょっと待ってれば帰ってくるかな……」
多分使われてないと思う青いベッドに座らせてもらって窓の外から部屋を明るくしてくれている太陽を見ていたら眠たくなってきた。
これじゃあ家にいた頃と変わらないな。
でも気持ちがいいから目を閉じて眠ることにした。
★★
周囲は暗く、岩に囲まれている洞窟のような場所で巨大な赤いドラゴンが大きな両腕を組んで地面を見つめていた。
ドラゴンの見つめる先には人間のようで少し違う生き物二匹が自由気ままに動き回っている。
「はあ。魔皇様はなんでアタシをアノルジ界に行かしてくれへんのやろ」
キ ラキラと光る金貨を撫で回しながらため息をつく男の背後では6本の尻尾がふわふわ揺らめいていた。
「ママモンが行けるならアスモが行けるはずデスねん。アスモのが賢いデスもん」
尻尾で遊びながら笑う女の頭にはヤギの角のような螺旋状の角が生えている。
「いや、ルシにぃが直接命令されたんだからよ、そんだけ重大なんだろ。テメェらじゃ無理だ」
「ルシファー様だけ魔皇様に信頼されていいなあ」
赤いドラゴンが見下げながら言うことに対してドラゴンの左手に乗る幼い子どもが口を尖らせる。
ローブに包まれた体の臀部からは青いヘビのような、ドラゴンのような尾が見えていた。
「そんなことないで。ダンナが行けてアタシが無理とかありえへんやろ」
「それルシファンの前で言ってみてほしいデスねん。言えたらマーモンはアスモより賢いかも」
「せやろ。言えたらアタシはかしこ……いんか?」
「どうでもいい。仕事終わらせて。眠い」
「もぐもぐもぐ」
ド ラゴンの腕に灰色の毛皮を敷き横になる女が言うと、ドラゴンの頭に乗り何かを食べていた太った女が二枚の羽を必死に羽ばたかせながら地面に降り立ち二人に黒い紙を渡していた。




