第1章 第8話
「シュー。遅れたが今日ギルドに行くぞ」
そう母さんに声を掛けられたのは、王都にたどり着いて早2週間たってから。いやー、長かったなぁ。結局諸事情で忙しかったみたく、母さんはほぼ単独行動。その間は父さんに家事やらを仕込んで貰ったり、皆で街をぶらぶら探索してみたり。
未だに真新しい事が多くて、毎日が発見なのだけど。今日はやっと待ちに待ったギルド登録って事でいつも以上にテンションが上がる。
「うん、これで僕もどんな能力持ってるか分かるんだね!」
「おう、神々の奴らは数値に表すのが大好きだからな。とは言え、シューはこれからがそれこそ成長期なんだし、例え数値が悪くても気にすなよ」
「そうね。でも、加護があったりしたら簡単に人に教えちゃダメよ」
「うん、分かった!」
あー、滅茶苦茶興奮してるのがバレてるんだろうなぁ。母さんも父さんも微笑ましそうにこちらを見てるもん。あれ、でもエリン何で鼻を抑えてるんだろう? たまにああやってるけど、あくびとかかな?
『あー、でもシューちゃんの事だから加護以上の物貰ってそう。そんな気がする』
『……神が相手でも僕負けないからね』
おー、守護と寵愛だっけ? とは言え、神様の格で色々変わるらしいし、一概に何が守護や寵愛だから凄いって訳じゃないみたいだもんなぁ。
例えば、下級神の寵愛と中級神の加護がほぼ同レベルだったり。ある上級神と大神だと、上級神の加護より大神が見ているって称号の方が得られる力が上だったりするしね。
ってか、上級神以上になると見てるだけで力を得ちゃうんだって言うんだから凄いよなぁ。中級神までは見ているって称号文字通り神様が見ているよって意味しかないんだし。
まぁ、気になって見られてる分加護得やすくなるみたいだけど。
後、亜神は加護しかないんだったっけ? 半神も混じってるらしいし。なんかこの世界もほんと複雑だよなぁ。つっても、加護以上の称号なんてそうそう得られないみたいだけど。
それは兎も角、シロは神様にまでライバル心持たなくても良いと思うよ? ぶっちゃけ僕じゃ相手にされないだろうし。神の伴侶って寵愛持ってるのが最低条件とか無理ゲーでしょ。そもそも、現世じゃ寵愛持ってるの全世界で数名らしいし。
いや、別になりたい訳じゃないし、シロがそれだけ好きって言ってくれてるようなものだから嬉しいんだけどね。
まぁ、テンション上がりすぎて、皆で楽しくおしゃべりしながら向かったら、あっと言う間に付いた。うん、今置いていかれたら帰り道分からないくらいおしゃべりに夢中でした。反省。
しかし、ほんとギルドって立派だなぁ。僕は某RPGが好きで、転職する神殿みたいなの想像してたんだけど。殆どそんな感じ。
まぁ、神様の声を聞けるところでもあるし、神聖な感じになるもな当たり前だよね。勿論荒くれ者っぽい人もいるけど、皆穏やかにちゃんと列を作ってる。
「流石王都のギルドですね。他の都市のギルドならもう少し騒然としてますし。更に田舎に行けば殺伐とした雰囲気も出てきますからね」
「へー、そうなんだ」
「そうだな。ってか、こんだけ粛々としてると寧ろ肩が凝るわ」
「あら、流石に教会と比べればずいぶん賑やかですよ」
「そりゃ教会は目的が明らかに違うからな。ここには別に神を信仰してない奴だっているわけだし」
「そうですね。我々エルフでもここでなら対等に扱って貰えますからね」
「へー、皆平等って事なんだね。良い事だ」
「そうだね。だからシューもこれからも区別は付けても差別はしちゃだめですよ」
「はーい。分かった」
「……。あの、3人とも何で私と主様の間に入るのです?」
「区別だよ区別」
『そうそう、区別は大事だからね』
『シューちゃん、これは区別だから気にしないでね』
えっと、仲良く僕中心に固まって話してた筈なんだけど、気付いたらエリンだけ仲間外れみたくなってる。いや、確かに変わらず皆固まってるんだけど、エリンだけ僕の近くに居ないと言うか。めっちゃ落ち込んどるがな。
父さんだけ苦笑を浮かべて、あらあらとか言ってるし。でも、なんか仲間内でからかいあってるの思い出すなぁ。うむ、仲が良い事はほんと素晴らしい事なんですよ。
「いや、これ差別じゃないですか」
「へー、そう言えば3日前シューが手作りで作った刺繍貰ったらしいな」
『そうそう、一昨日は食器洗い当番でしたっけ?』
『昨日は洗濯当番だったよね』
「あらあら、エリン。何か私に言うべき事はないかしら?」
「ごめんなさい、区別でした。私が間違っておりましたから。何卒。何卒どうかご内密にお願い致します。
後、マイケル様、何卒ご理解の程よろしくお願い致します」
「はぁ、まぁエリー達が見逃しているようだから私も見逃してあげますが。やりすぎるとシューに嫌われますからね」
「重々承知しております」
「えっと、僕何かやったっけ?」
『大丈夫だよ、シューちゃんは気にしないで』
『そうそう、私区別の範囲間違えちゃったみたいだからごめんねー』
『ちょっ、僕もこっち側!?』
「待て、俺もこっち側かよ!?」
「あらあら、じゃぁシューを一緒に守りましょうね、クロちゃん」
『そうね、女の魔の手は恐ろしいからね』
えっと、よく分からないけど、何故か男女で別れ。母さん達は割と真面目に慌てながら母さんとクロのご機嫌伺いを始め、母さんとクロはそれを楽しそうにやり過ごし始めた。
ってか、クロとシロ。エリンは兎も角、父さん母さんただイチャイチャしてるだけじゃね?
まぁ良いや。皆何だ彼んだ楽しそうだし。僕も楽しいし。わいわいしている好きにこっそりエリンの手を掴んだ。
「あ、主様?」
「にへー、よく分かんないけど。皆仲良しで僕幸せだよー」
『あー、シューちゃんズルいー。私を撫でてー』
『僕も僕もー』
「うん、2人ともいつもありがとうねー」
「へへー、エリン。あっと言う間に手を離されたなー」
「うへへへ、主様」
「……こいつ、ほんと最近大丈夫か?」
「あらあら、まぁこれなら確かに仕方ないかもね。
でも、エリーも人の事は言えないでしょ?」
「うっ、まぁ、確かにマイケルと手を繋ぐと幸せになれるからなぁ。
で、でも、俺はコイツ程暴走してないからな」
「うふふふ、そうですね」
いやー、モフモフ気持ちいいなー。しかし、エリントリップってるけど、そんなに仲間はずれっぽくされたの気にしてたのかなぁ? 父さんと母さんは何時も通りだし。
あれっ、周りになんか注目されてるけどなんでだろう? まぁ、良いか。
「はーい、次の方どうぞー」
おぉっ、やっぱり皆といるとあっと言う間だなぁ。結構前に並んでた筈なのに。もう順番だ。
「おう、今日は俺の息子の登録に来たぜ」
「どうも、エリーさん。しかし、噂通り美男子捕まえましたねー。こんちくしょう。
しかも息子さんも可愛いとか、運を使い果たしたとかで死なないで下さいね。ギルドの迷惑になるので」
「がはは、相変わらず容赦ねーな。テメーはよ。
まっ、よろしく頼むぜ」
おぉ、顔見知りとかかなぁ。でも、このお姉さん滅茶苦茶綺麗だなぁ。わー、てかウサ耳に黒髪ロングに赤い瞳がチャーミングだし。こんなところで働いてるのかクールな感じなのも素敵だなぁ。
まさかチャーミングでクールだなんて同居するだ何て思わなかったな。話してる感じ、プライベートだと、可愛らしさの方が全面に出そうだけど。
「シューリックって言います。宜しくお願いします」
「はい、よろしく。私は受付のナリアね、坊や。
いやー、しかしあんたの子にしちゃ礼儀正しいですね。旦那さんの方の血でしょ」
「断言するなよ、まぁ違いないだろうがな」
ガハハと豪快に笑う2人。おー、女性が豪快に笑うの最初は慣れなかったけど、慣れた今見ると心をどのくらい許してくれるか分かるようで、なんか嬉しいな。
それにしても、やっぱりウサ耳気になる。
「ねぇ、ナリアさんってウサ耳なんだね」
僕のその言葉の何がいけなかったのか。一気に空気が固まる。本気で重苦しい。ってか、さっきまでざわざわしてた周りの人皆も一気に黙っちゃったよ。
「ほう、坊や。ウサ耳は珍しいかい?
どれ、私に正直な感想聞かせな」
「う、うん。滅茶苦茶綺麗で可愛らしくて似合ってるね!」
「ほうほう、滅茶苦茶綺麗であいら、し……は?」
「うん、ナリアさん綺麗だし。ウサ耳可愛らしいし。とっても素敵だよ」
目を全開に見開いたままの状態で、徐々に頬が赤くなっていくナリアさん。ってか、美人に見つめられると照れるなぁ。
「ま、マジか……。おい、エリー」
「おう、何だ?」
「いつからお義母様って呼べば良い?」
「黙れショタコン、さっさと職務をしやがれ」
ナリアさんが母さんを呼んだ時、僕もそちらを向いたのだけど。やたらニヤけてる母さんの姿が。直後のセリフで真顔に戻ってたけど。
むー、なんかまた常識ハズレな事しちゃったのかなぁ? あ、そうか、ナリアさんの容姿じゃこの世界じゃブサイクになっちゃうからか。でも、綺麗なものは綺麗なんだし、仕方ないよね。
ケチーっと母さんに言いながら再び僕に向くナリアさん。うん、書類とペンをこちらに向けてるから、これに書き込みとかかな。
「なぁ、坊や。兎族ってどう思う?」
「とても素敵な種族だと思うよ。わぁ」
急に両手を掴まれた。ど、どうしたんだろう?
「こ、この耳撫でたいとか思うのか?」
「え、撫でて良いの?」
わぁ、今度は急に立ち上がって、こちらにも分かるくらい大きく息を吸っていく。
「おい! テメーらその耳カッポジってよく聞け!
今からここにいる坊やは俺が専属になるからな。絶対粗相するんじゃねーぞ!」
おぉーっ、急に怒鳴りだしてって、えっえっ? 何これ、どうなってるの?
「ちょい待て、異議ありだコンチクショウ」
「あぁ? 何だ? テメー俺に異議言えるのか?」
「ったり前だボケっ。ってか、事前にテメーも言ってただろーが。可愛い子供にゃ旅させろって。しょっぱなから御守りし過ぎちゃ為にならねぇだろうが」
「ふざけろ、俺の未来の婿にそんな危険させるわけねーだろが」
「誰が未来の婿だ、誰が」
「シューリック坊やだよ!」
「頭わくのも大概にしろや!」
げげげ、なんか母さんと喧嘩始まっちゃいそう。真面目怒りで目が釣り上がってるし、ナリアさんもヒートアップしてるのは伝わってくる。ただ、痛くないように気を使って持ってくれてる辺り、本当に我を失ってる訳じゃなさそうだけど。
「ちょっと、2人とも落ち着いて!
ナリアさんに僕じゃぁ勿体無いよ。そりゃぁお嫁さんになってくれたら嬉しいけど。それに、エリンも居るし」
「……おいショタコン。俺にはどうしても外せない用事が出来ちまったから登録は明日で良いか?」
「……おい、その野暮用とりあえず俺も手伝わせろよ。それがなけりゃ確かに話が進まなそうだしよぉ」
んんん? なんか2人とも雰囲気が益々物騒な感じなんだけど。
「あ、主様。私幸せで……幸せでぇぐえっ」
『あー、エルフってマジ油断も隙もありゃしねーな』
『私達が真横に居たって言うのに。懲りない奴。
まぁ、シューちゃんのあのセリフの後じゃ仕方ないか。残念シロ』
『……クロ。今はマジで洒落になってないから』
うわ、あっちはあっちでカオスな状態に。どどどどど、どうしよう。
「あらあらあらあら! まあまあまあ! 大の女性が集まって子供を怖がらせるのってどうなんでしょうね?」
うおっ、父さんの大きな声久しぶり聞いたぞ。ってか、今までの空気が四散したね。
って言うか。初めてこんな迫力ある父さん見るかも。物凄い綺麗な笑顔なんだけど、目が笑ってないっていうか。目に力がある。
「全く、少なくともシューが大人になるまで待てないのかしら? そんな器が小さい人なんじゃシューは上げれませんし、母親も失格じゃなくて?」
「あう、む、婿殿……」
「ま、マイケルぅ……」
「エリンもそこまで暴走するなら里に帰って貰おうかしら。暫くじゃなく永遠に」
「め、面目ございません」
「クロとシロはお手柄でしたね。ありがとうございます」
『いえいえー。それほどでもー』
『ちょっ、尻尾振りすぎ。こっちにバシバシ当たってるわよ。ったく、女ってすぐ調子に乗るんだから』
それぞれの対応を付け。真っ直ぐそのまま半ば惚けてる僕の肩を優しく両手で包み。柔らかい笑みを浮かべる父さん。
「シューは自分の言葉に責任持たなきゃね。無責任な言葉は使ってはいけないよ」
「うん」
「うふふ。素直に気持ちを吐露するのは悪い事ではないけど。複数の人と結婚して大変な思いをするのは男の方なのよ? それを忘れてはダメよ」
「分かった」
染み込んでくる父さんの言葉。人を諭すのに暴力は勿論、大声も必要ないと理解させてくれる。心の底からの言葉ってこんなに説得力あるんだ。
でも、僕だってただ思った事を吐き出すだけの人間にはなりたくない。
だから、今決心した事を父さんに伝えるため口を開く。
「でも、僕は結婚出来るなら、大好きな人と結婚したいし。同じくらい好きな人が居れば、皆と結婚したい」
言って気付く。これただのアホな男の欲望やと。これは寧ろ相手の気持ちをないがしろにしてるのじゃないかと。
でも、父さんは驚いた表情を浮かべたものの、再び優しく微笑んでくれた。
「そう、シューにその気持ちがあるなら好きにすると良いわ。ただ、その場合はその状況を飲み込めるだけの器を持ちなさい」
母は強し。つまり、この世界では父は強しって事なんだろうな。なんか、父さんは本当にどんな状況になっても最後まで味方でいてくれるって心から思うことが出来る。
「父さん、今は僕、父さんが一番好きー!」
気付いたらそう叫んで抱きついていた。いやはや、別に異性との恋愛なんて歳相応になってからで良いよね。ぶっちゃけ子作りとかも出来る訳じゃないし。
ファザコンで結構、元々前世の頃から家族仲良かったからね。全然異性愛の気持ちがないと断言できるけど、家族愛と言う愛ならとんでもない量を抱いていると自信を持って言える。
いやー、やっぱり父さんは最強ですね。
後々聞いた話だけど、綺麗に両手両膝をついて落ち込む3人と伏せて落ち込む1人に、4人を冷めた目で見つつ、僕等を微笑ましそうに見つめる1人がいたそうな。
いやはや、ただ登録に来ただけなのに、何故こんな大騒ぎになったし。激しく疑問である。
しかも、登録出来てないしね。