第1章 第6話
王の間に到着して、個人的に物凄い違和感に包まれる。いや、だって板張りの正座出来そうな場所にどんって豪華な椅子が置いてあるとシュールと言うか。ジュータンが欲しいというか。いやはや。やはり異世界。前世とは丸っきり常識が違うなぁ。
皆立ってるし。と言うか、場所によっては思わず靴を脱ぎたくなったのだけど。脱がなくて良い不思議。むーこの辺りやっぱり自分は日本人なんだなぁって思わなくもない。
いや、要は慣れの問題なんだろうけどね。
うん。だから玉座に座る王様とお妃様だろう人達も、周りを囲む人達にも慣れなきゃね。
ってか、見事にゴブリンとオークしかいないや。
「よくぞ我が国にお越し下さいました。その名誉に我々一同感謝の限りです。
誠ありがとうございます」
あわわ、王様頭下げちゃったよ! 王冠よくずり落ちないなぁ。じゃなくて。王様に頭下げさせるとか、やっぱりとんでもないな。
「いえいえ、こちらこそ歓迎して頂き嬉しいですよ」
うわっ、母さんの丁寧な口調久しぶり聞いた。やっぱり違和感ありすぎて思わず向いちゃったのだけど、ウィンク返すとか余裕あるなぁ。
実は僕滅茶苦茶緊張してるから、羨ましい。
「勿論ですよ。国を救ってくださった守り神の方々と縁を結ばれていらっしゃる方ですから。
当方としては最大限尽くさせて頂くのは当然かと」
「感謝の極みですが。我々はあくまで彼らの友人と言うだけ。過分な対応はご遠慮願いたい。
勿論、住ませて貰う以上最低限の義務はこなすつもりではいますが」
わぁ、丁寧な口調でもやっぱり態度変わんないなぁ。うん、僕もこうやってどんな場所でも堂々と出来るように器も大きくしなきゃ。
「貴方方の意見は勿論尊重させて頂く。ただ、良かったらシューリック殿と我が娘を会わせてあげたいのだが、いかがかな?」
おぉ、王様流石対応滅茶苦茶速い。あっ、でもよく考えたら女王様と王配様かも。いや、王配ってより王婿って方がしっくりくるかな。
あー、って事は権力者的に伝は持っておきたいって事かな? 王女様相手なら、確かに直接僕呼び出せそうだし。
多分僕の考えが正しいのだろう。母さんが渋い表情を浮かべながら、女王様に話しかける。
「なるほど。ではここに住まう者としてその要件を受け入れましょう」
「すまない。恩にきる」
再び深く頭を下げる女王様。むー、しかし豪華な王族の衣装を来たゴブリンかぁ。王婿様もそうだけど。物凄い違和感。失礼だから言えないけどね。
兎も角、娘さんって事は僕の感覚で言うと多分近い歳の王子って事なんだろうな。歳が違いすぎても多分女王様の意図とは外れるだろうからね。
と、なんか母さんが複雑そうな顔してるのだけど、どうしてだろう?
「では、娘の部屋に案内しよう。
リンガよ、そのまま案内して差し上げろ」
「承知しました。
それではお2人ともこちらへ」
「いや、エリザベート殿とは色々語らう事がある故案内して差し上げるのはシューリック殿だけで頼む」
「……なるほど、良いだろう。
シュー。何かあったらすぐ母さんを呼ぶんだぞ」
わー、流石権力者。なんか色々ありそう。でも、それを色々察してるだろう母さん凄いなぁ。正直僕ちんぷんかんぷんなんだけどなぁ。
兎も角、保護者の許可もおりたので、早速リンガさんの手を繋いで案内してもらおうっと。
「さ、さぁ参りましょう」
「うん」
なんか声が上ずってるけど。まぁ良いか。振り返って手を振り……流石にそこまで驚愕の表情されると気付くよ? なんだよ皆。母さんは苦笑だけど、そんな顎が外れそうなほど大口開けなくても良いじゃん。
ちょこっと気分を害した訳じゃないんだけど、何に驚かれてるかイマイチ分からないし。えーい、王女様に優しく出来なくても知らないぞ!
……、まぁ女の子に優しくしないなんて、前世の記憶がある以上余程の相手じゃなけりゃ無理だけどね。
さて、今扉の前で俺は猛烈なとある感情に支配されている。何故なら、扉の外に喚き声と言うか金切り声と言うか。兎に角大きな声が響いてきたのだから。
扉越しでも十分大きい声だ。オロオロする扉の前の兵士さんと表情は分かんないけどどこか困った雰囲気のリンガさんから凡その状況を把握する。
【なによ貴方達、私の気持ちなんてサラサラ分からないくせに知ったような口を聞かないで!
貴方達には秀麗に見えるかもしれないけど、私からすれば私の容姿は醜悪なだけよ!
それなのに他人に会いたい訳ないじゃない! 何落ち着け? 落ち着ける訳ねーだろ!
あぁ? 分かる言葉を喋ってください? だから私は私の分かる言葉で怒ってるんだろうが!
大体、分かる言葉で言ったら貴方達罰せられるじゃない! それなら私が狂ってるって思われてた方が精神的に健全に保てるのよ!
あーもう。何でゴブリンとかオークとか相手に庇わなきゃならないのよぉ!】
まぁ、何でこんな事になってるかは本人が教えてくれてるんだけどね。
兎に角、収拾付けなきゃ。
「あっ、シューリック様。お待ち下さい」
呼び止めようとするリンガさんを、悪いとは思いつつ無視して部屋に入る。
そこは無数の物が投げ散らかされた部屋が広がっており。オロオロとメイド服を着たゴブリンさんやオークさん達が右往左往している。
それすら無視してベッドの上に座り込んでいる王女様の元へ急ぐ。
「あっ、貴方王女様に何をする気!?」
途中ゴブリンのメイドさんにそう言われるも。そんな些事に構っている暇は今の僕にはない。
「あはは、来ちゃった。どう? 私綺麗で」
【君も転生者なんだね!】
僕が発した言葉で固まる空気。多分空気を読まずご機嫌なのは笑顔の僕だけだろう。
あぁ、どうしよう、仲間と思ったらゴブリンの顔もなんか愛着が湧いてくる気分だ。
流石に恋愛感情は持てないだろうけど、親愛の念はいずれ抱けるようになるかもと思う。
【……う、嘘ー!? 貴方もなの? あの害虫私との扱い差を付けすぎ!】
わ、突然憤慨し始めたけど。なんで?
【えっと、害虫がなんなのか分かんないんだけど?】
【害虫ったら害虫よ。あの糞虫に貴方も転生させて貰ったんでしょ?】
【えっ? 俺誰かに転生して貰ったりしてないよ? ただ、こちらに行ったら転生しますとは言われたけど】
【えっ。
そうか、あのクソ虫が人で対応を変える訳ないよね。じゃぁ別件か。
分かったわ。私も深く聞かれたくないから聞かないであげる。
でも、お願いだから私の愚痴聞いてくれない?】
【あぁ、うん、良いよ。
これでも一応前世では30だったし。似た境遇なんだしどんどん愚痴ってよ】
【……えっ? 30? うそ。高校生じゃなかったの?】
【え? 少なくとも俺は高校生じゃないね】
【あっ、別件だった。
そんな事より】
【えっ、あの。何するの?】
徐にベッドから降りる王女様。と、すぐにその場に正座して両手を前につきってこれって!!
【歳上の方とはついぞ存じ上げず申し訳ございませんでしたー】
【ちょっ、土下座は止めてー】
どこぞの体育会系じゃあるまいし。誰か助けてー。
カオスな状況がひと段落し。彼女から聞き出したところ、どうやら上下関係が厳しい部活にいたらしい。故にあの対応になってしまったと。
因みに、彼女は花の女子高生の時に転生したらしい。どうやら転生させた奴が高校生って年齢が良いのさと語ってたらしいので、僕も同じ高校生だと思ってしまったようだ。
で、彼女は高校3年生だったらしく。うん、まぁ不可抗力だよね。
とりあえず。この世界では彼女は7歳で歳上だったので、そこをゴリ押しして納得させ。お互いラフに話そうって事で落としどころを持ってくる事で決着したと。
さ、脳内整理もついたし。彼女の話を聞こうかね。
それにしても、部屋あっと言う間に片付いたなぁ。むむむ、メイドさん達流石スキル高い。
【さぁ、それじゃぁ聞かれたら不味い事もあるだろうし、日本語で話そうか】
【そうね。お茶とか準備してくれてるし、人払いするのも今更だしねー。
リンガに至ってはあれ絶対私を睨んでるわよ。取りはしないし。そもそも前世の価値観持ちを取れるとか思ってないし。
ちくしょー。やっぱ理不尽だぁ】
あー。こりゃぁ長くなりそうだなぁ。
軽くため息付いちゃったけど、幸いな事に気づかれなかった模様。よし、気合入れて聞こうか。
それにしてもリンガさん。僕を凝視してて良いんですか? T字に空いてる穴がこちらをずっと向いてるんですから。しかもマリーちゃんの言う事が正しいと思える程度にはチラチラマリーちゃんみてるし。
お2人の安全を守る為に残りますって言ってくれて嬉しかったんだけど。なんだかなぁー。って、さっきの件があれば当然か。一番大事な事は自分でやって他を人に任せてるんだろう。
流石隊長さんだな。
そして、マナーらしくお茶を手渡された時、ゴブリンメイドさんに手の甲に口付けされ完全に腰の引けてた僕に、ですよねーって日本語で言ってたマリーちゃん。
ですよねー。じゃなくて助けてよー。