第1章 第4話
綺麗に2つに割れた順番待ちの方々の間を、俺たちは悠々と通る。ぶっちゃけ申し訳ない気持ちがないわけじゃないんだけど、寧ろ待ってる人達から率先して譲ってくれてるので仕方ないとしよう。いやー、シロとクロって改めて凄いと思う。
「うっし、予定通りすんなり入れそうだな。ってか、これ無料で入れそうだなぁ」
ご機嫌に呟く母さん。まぁ俺も今となったらそんな気がする。ってか、お金取ろうとしたら拝んでる人達から何されるか分かんなくないか? 信仰もあるって聞いてたけど、ここまでとは思わなかったなぁ。
『そう言えば、父さん達がこの国救ったんだっけな。300年は前の話だから、当時を生きてた人はごく少数だろうけど』
うおっ、新発見。どうやら300年以上長生きする人もいるみたい。まぁ、伝説の種族が長生きなのは納得だけど。ってか国救った事あるんだ。皆スゲー。
「むっ、先に知れて良かった。これから先それは秘密な。只でさえ面倒くさそうな事が目白押しだろうに、更に増えられちゃかなわん」
「まぁ、雷王狼に烈火虎ですからね。しかも善意が中心でしょうから断りづらいでしょうし」
「そうだな。兎も角対応は俺1人でやるから、皆は暫く宿で大人しくしててくれ。
今日は宿を取るとか理由付けて何とかなるとしても、暫くは身動き取れないだろうからなぁ。
あっ、シューは明日は一緒に来て貰う事になると思うから覚悟しとけよ。お前が友愛の絆を結んでるのに俺だけじゃごまかしも出来ないからな」
「うん、分かった!」
ふえー、何だか色々忙しくなりそうだなぁ。まぁ仕方ないか。信仰の対象にもなる相手と対等の絆を結んじゃったんだし。しかし、エリンとの絆を知って嫉妬した皆可愛かったなぁ。とは言え、皆も奴属の縁を結びたいとかたまげたなぁ。そのくらい好きって事なんだろうし、嬉しいけど。他にも色々縁があって良かった。色々勉強になったしね。
って、考え込んでたら外壁の入口に着こうとしてたけど、何か人が多くない? さっきまであんな煌びやかな鎧着てた人達居なかったのに。
「これは雷王狼と烈火虎のお2方とお見受けする。進んで馬車を引いておられるところを見るに、対等の絆を結んだ方がいらっしゃるとお見受けするが、どなただろうか?」
「おう、それは俺の息子のシューリックだ」
「初めまして、シューリック=ヘンベラーと言います」
うむ、最初の挨拶って肝心だよねって事で、数着あって愛用している白のワンピースの裾を軽く握って、前世の記憶の映画とかで見た様にお辞儀してみる。
こっちのマナーって国別で違うらしいから、これが正しいかは分かんないんだけどね。
「おぉっ、やはり貴方がシューリック様ですか。ご丁寧にありがとうございます。
私は近衛騎士団団長のリンガ=ベルセ=ダイムと申します。以後お見知りおき下さい」
『友人って意味じゃそこのエルフも入るから、くれぐれも無碍にしないでね』
『シューちゃんと仲良くするなら、私も仲良くする事はやぶさかでもないわ』
おぉー、最上級と分かる敬礼って、本当に仕草から忠誠心が伝わるんだな。しかし、兜を取って深く頭を下げるって、どこか前世を思い出させるし。うん、何か好感持てるな。特に兜の下の素顔が美人ってところがね。って、よく見ると女性用の鎧みたいだし。あっ、そうか、女性が騎士なのって普通だよね。まだやっぱり違和感の方が強いなぁ。
「おー、やっぱ2匹とも頭良いなぁ。きっちり抑えるべき事を言って、逆鱗の位置も教えてやるんだからな」
ぽつりと感心した様に呟く母さん。でも、どこか苦い物を含んだような顔でダイムさんの顔を見つめてる。うーん、なんでだろ?
と、かしこまりましたと頭を下げているダイムさんに、母さんは溜息を吐きだしながら告げる。
「その様子じゃ、こいつらの両親が既に挨拶してるみたいだなぁ。
で、俺達はどのくらい自由に出来るんだ?」
母さんの言に周りの騎士さん達からも緊張感が伝わってくる。ってか、体つきがほんとバラバラだなぁ。色んな種族の人達がいるんだろうな。
「この国の力で叶え得る事ならば何でも」
真剣な眼差しのダイムさん。ほんと凛々しい騎士様って感じで、同じようなキツめの美人の母さんと分類は一緒何だけど、纏う雰囲気が違うと言うか。きっと真面目なんだろうなって思う。
じゃなくて、それってとんでもない事なんじゃない!?
俺は驚愕に包まれたのだけれども、周りの皆はその言葉に対し大した反応を示さなかった。あるぇー? 何で?
「はぁ、分かったよ。とりあえず今日は宿を取らせてくれ。
後、明日はシューを連れて行くが。基本俺達にはノータッチで頼む。言伝なんかは全部俺経由が最低条件だ」
「寛大なお心遣い、感謝致します」
んんん? なんか若干展開について行けないんだけど? 畜生、昔から言葉の裏の意味とかそう言うの読み取るの下手なんだよ。全部本音で話せって言わないけど、ある程度俺でも分かるレベルに落として欲しいなぁ。勘の鈍さはあんまり変わんないんだから。
内心でぶつくさ言ってると、笑顔を浮かべたダイムさんが口を開く。
「では、見苦しい私以外の者を宿まで先導させましょう」
「えっ、ダインさん綺麗だから見苦しくなんかないよ。ダイムさんが先導してくれるんじゃないの?」
あ、やべっ。思わず口から出ちゃった。わー、全力で空気が固まってるよ。あははは。
むー、これはきっと団長さんだし、こんな些事に何時までも関わってる暇はないって事だったんだろう。しまったなぁ。しかも近衛騎士って、王様達の近くに居なきゃだろうし。
まあ、口から出ちゃった物は仕方ない。凝視されて恥ずかしいけど、とりあえず目を見て笑っておこう。
「あー、そうか。俺やエリンを綺麗とか言ってたもんなぁ。でも、マイケルも綺麗って言ってるし。シューの美的感覚が分からん。
ともあれ……良かったなダイム卿。シューは本気で言ってるぞ」
キョロキョロと視線を彷徨わせ、完全に挙動不審に陥っているダイムさんに母さんが掛けたこの一言。聞くやいなや再び驚愕を顔に貼り付け、わなわなと震えだすってこれ大丈夫? 俺なんか悪い事言っちゃったの?
「う、産まれて初めて綺麗と言われました。すみません、あの、その。は、恥ずかしい」
うえー、めっちゃカワエエ!! 何これ、凛とした雰囲気完全に消し飛んじゃってる。言葉通り物凄い恥ずかしそうにうつむいちゃったし。ってか、産まれて初めて言われたとか嘘だろ?
なんかこの世界の美的感覚が分からん。何故父さんは美人に当てはまるのに母さんやエリン、ダイムさんはブサイクなんだ? あっ、これって俺もブサイクってフラグ? うっ、それは嫌だなぁ。女顔で華奢でも整ってたから喜んでた部分もあるのに。いや、重要なのは自分の心構えだよ、きっと。うん。そうだ。
「恥ずかしがる事なんかないよ。だって俺にとってはダイムさん美人だもん!
いってー!!」
「ほんとシューは懲りないなぁ。俺はダメだって」
ちょっ、母さん。今割と良い事言ったと俺思うのに。まぁ我を忘れすぎて俺って言っちゃったけど。むー。確かに言った俺が悪いか。謝ろう。
「ごめんなさい」
「おう、やっぱお前は可愛いなぁー。うりうりー」
きゃー。抱っこされちった。うん、やっぱり母さん引き締まってるけど柔らかいし良い匂いがするしで。ほんと不思議だなー。この世界って筋肉も柔いのかな? いや、力入れてなければ柔いか。
「あ、あの、そ言う事でしたら、差し出がましいですが私が先導しますね?」
「はい、お願いします」
俺が母さんとイチャイチャしてるうちに、ダイムさんと父さんがそう話していた。
うむ、俺も異論なし。ってか、まだ頭痛いなぁ。やっぱり脳内でもなるべく僕って使うようにするべきかなぁ。痛いの嫌だし。
兎も角、国で一番と名高い宿に案内され。料金はちゃんと母さんが払い(後で教えて貰ったのだけど、定価の1割しか受け取って貰えなかったんだって)別の護衛を残そうとしたダイムさんに。護衛に抜擢されてた人には悪かったんだけど、無理を言ってダイムさんに残ってもらった。
その後外で護衛するって言ってたダイムさんも無理やり和に引き込み、一緒に食事してお風呂……は流石に父さんとクロと入って、皆で一緒に部屋で寛いでの1日になった。
うん、ダイムさん押しに弱い人で良かったー。褒めまくってせがんだら膝に抱っこしてくれたし。むふふ。何だかんだ人が良いんだよなぁ。任務がとか職務がとか色々言ってたけど。気付いたら納得してたみたいだし。
それにしても、クロもシロもある程度大きさを変えられる事にびっくり。この前両親と会った時に習ったって言ってたけど。びっくりさせる為に黙ってるなんて酷いや。モフモフさせてくれたから許しちゃうけど。
しかし、あれだ。いくら屈強だからってゴブリンとオークの人よりダイムさんの方が遥かに良いに決まってるしね。ってか、ゴブリンやオークって人と同じ括りなのにびっくりした。
ただ、嫌がったら何故かまた皆驚いてたなぁ。ほんと何でなんだろう?