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第2章 第22話

 寒い……、ただひたすらに寒い。体が震えるのを止められない。

 苦しい、キツい、動きたくない。あぁ、これは風邪をひいたのか。


 ぼやける視界で周りを見つつ記憶をたどれば、マリー君と一緒に歩いているところまでは記憶があるのだけど、あるところからぷっつりと途切れてしまっている。

 一応ぼやけた視界で確認すれば自分の部屋で寝てたみたいだな。


 あぁ、母さん!


 そう思って体を動かしたのだけど、無様にベッドから転がり落ちてしまう。

 くそ、悠長に寝ている場合ではないのに。そう気が焦るのに、体が全くいうことを聞いてくれない。


「あらあら、ちゃんと寝てないとダメよ」


 這いつくばっていた僕を抱き起こしてくれたのは、優しく微笑みかけてくれた父さんだった。


「お、お父さん……」


「はいはい、今はちゃんと寝てないさい」


 ベッドに有無を言わさず寝かされる。と、いつの間にか視界が歪み頬に熱い何かが流れていく。あぁ、また僕泣いてるのか。


「父さん……僕何も出来なかった……」


 思わず弱音が口から溢れてしまったのだけど、父さんは黙って聞いていてくれる。あ、濡れたタオルを取り替えてくれたみたいで、額にひんやりと冷たさが伝わる。同時に瞼の上にも同じくタオルを置いてくれて、熱がほんの少しだけど収まって楽になってきた。


「僕……僕……」


「そう、それじゃぁ後で父さんと母さんを叱りに行きましょうね」


 父さんの言葉にびっくりして、タオルを外して視線を向ければ、コロコロと笑う父さんの姿が飛び込んでくる。


「うふふ、まだまだ子供のシューにこんなキツい思いをさせてダメな人よね。

 それに、私との約束も破ったし、ガツンと言わなきゃね」


 陽気に言う父さんが信じれなくて、目をパチパチと瞬いてしまう。


「ふふ、大丈夫よー。先ずはぐっすり休んで体を治しなさい。

 皆心配してるからね」


 優しく頭を撫でられ、なんでかどうしようもなく安心してしまう。あぁ、ダメだ、眠っちゃう……。













「ったく、お前無茶しすぎだっつーの」


「いったぁ!」


 頭に激痛が走り、慌ててそちらを向くと赤い髪をなびかせ、ともすればキツいと判断されかねない強烈な笑みとともにこちらを射抜いてくる強烈な赤い眼差し。


「か、母さん! な、なんで?」


 喜ぶべきなんだろうけど、あまりの不自然さに驚きばかりが先行してしまう。

 なんだ? これって夢?


「はははは、驚いてんなぁー。まぁあれだ、俺の加護神の奴がこの上なく変態でよ。お前に会いたかったんだいてぇ!」


 楽しげに語ってくれている母さんの姿に、たとえ夢でも嬉しいと喜びが湧いてきていたのだけど、突然頭を抑える姿に慌てて駆け寄る。


「大丈夫? 母さん」


「おぉ、大丈夫だぞ。っておい、折角息子と戯れてんだ、ちたぁ遠慮しやがれ!」


 上空に向かって文句を言う母さんに釣られてそちらを見れば、ひらひらと舞う白い布とほどよく白い脚に純白のパンツって、うおおおおおおおおおお。ラッキースケベとかほんとにあるんだな。


「いたいけな私の心を木っ端微塵にするだけじゃ飽き足らず、砕け散った欠片すらを踏みにじる子は知りません」


 拗ねるような声色が耳に入ってくるけどそれどころじゃない。わ、わざとじゃないんです。えぇ、決してわざとでは! でも、ラッキーとか思ってる事は許してください。


「んだよー、変態に変態っつって何が悪いんだよ。お前に限らず神ってやつは皆変態じゃねーか」


「えぇ、私以外の神はとんでもない変態ですが、私は変態ではありません。賠償を欲求します。さぁ、私とともに新しい扉を開きましょう!」


「開かねーよこの変態! おりゃぁマイケルだけで十分だ」


 ……えっとー。うん、落ち着こう僕。多分これ落ち着いて聞いてたら色々と察せれたはずだぞ。それにしても綺麗な脚だったなぁー。パンツもちょっと食い込み気味……おい、母さんに会えたからって気が抜けすぎだろう。

 よし、深呼吸しようそうしよう。


「……ほんと可愛らしい子ねー。でも、なんで恥ずかしがってるの?」


「……可愛らしいには同意。他はお前が調子に乗るからノーコメント」


 うぁ、なんか物凄い恥ずかしくなってきた。

 ともかく、気を取り直してっと。


「あのー。もしかしてお母さんの加護神様ですか?」


「あら、正解。あなたと違って察しのいい子じゃない。あんたはいきなり男装趣味の変態が何の用だ? ですからねー。酷いわぁ」


「おら、話が進まねーからその話は置いとけ」


 おぉー、なんか物凄いハイテンションの神様に、苦々しい表情の母さん。って、神様パッと見母さんに似てるなぁ。あ、髪の色と瞳の色が同じだからか。でも、神様の方が母さんに比べれば目尻切れ上がってないし、穏やかな感じだけどね。胸もこの世界の中で見てきた成人女性の方々と比べればかなり小さい方だな。まぁ前世でいう日本人の平均的サイズくらいはありそうだけど。身長はエリンくらいかな。


「もー、あなたはすぐそうやって私をいじめるー」


「……はぁ、マイケルをほんとに尊敬するぜ。毎日神と話すなんて俺にはできねぇ」


「えー。マイケルちゃんの加護神とかあんな根暗となんか比べないでよー。私と話すのは楽しいわよ!」


「疲れるわ。ってか疲れた」


 コロコロと表情豊かな神様と、疲れてる格好を取る母さん。うん、これ完全に格好だけだね。でも、神様って素直なんだなー、多分あれ本気で表面の情報を鵜呑みにしてるよ。詐欺とか合わなきゃ良いけどって思わず心配しちゃった。


「いけずー。エリザベートちゃんなんて大好き!」


「うぉわっ、なんでそこから急に抱きつく!?」


 嫌そうに言いながら、でも、実際はそこまで嫌がってない母さん。仲いいなぁ。

 お、神様が母さんから離れて僕の方へ来た。なんだろう?


「うにゅー、充電完了ー。さて、シューリックちゃんは私を見てどう思う?

 考え覗いちゃうから嘘は無駄だぞー! でも、充電しててもすぐ粉々になるからオブラートに包んでね」


 いや、それ無理じゃね? 考え筒抜けならオブラート包めないよ。

 ってか、やっぱり神様なんだなぁ。考え読めるとか。


「えっと、正直に見たままを言えば良いの?」


「うん。カモーン! お、お手柔らかにカモーン!」


 えっとー、ツッコミどころ満載なんだけどなぁ。腰引けてるし、全く準備できてませんよーって感じだし。

 とは言えこれだけアピールされてるんだし、まぁ悪口言う訳じゃないから良いかな?


「まず、髪の毛と瞳の色が綺麗」


「うんうん、ありがとー。それだけはよく言われるエヘヘへ」


 うぉわぁ、めっちゃ嬉しそうだなぁ。代わりに母さんの機嫌が悪くなってるみたいだけど……今は母さんの方向かないようにしとこうっと。


「顔が綺麗」


「ひょ!?」


 え? そんな驚くところ? ムンクの叫び見たくなってるよ?

 まぁ、続けよう。


「スタイルが良い」


「はわわわわわ」


 あ、慌てだした。


「言動が素直でギャップがめちゃくちゃ可愛い」


「あうあうあうあうー」


 えっと、そこまで反応されると僕まで恥ずかしいんだけど。あ、ついでに勢いで謝っとこう。


「最後に、下からショーツ覗き見ちゃいましたごめんなさい」


「にゃぁああああああ。私の下着見て、が、眼福だったとか思ってくれてるの?

 わ、我が世の春が来たぁあああああああああああああ」


 や、まぁ内心で確かに眼福でしたって付け加えちゃったけど、そんな我が生涯に悔いなしみたいに拳を天に掲げられても反応に困るんだけどなぁ。

 ってか、下着見られて喜ぶとか……母さんの言うとおり変態なのかな?

 っと、わぁ、誰かに抱きかかえられたって。母さん! 顔メッチャ近いよ! キスしちゃいそうなくらいなんだけど。


「なぁ、俺はどう思う?」


「母さんは世界一綺麗で格好いいよ! あの時ちゃんと言ったじゃない」


 問われれば間髪入れずに答える。と、勝ち誇ったように神様の方を向く……いや、なんか勝負する事じゃないと思うのだけど? あれれ?


「きぃー。上げて上げて落とすとかレベル高すぎ! 思わず1000年位引きこもっちゃいそう。

 やっぱり私となんか子作り出来ないって事ね!」


 地団駄を踏む神様の言葉に、思わず苦笑しながら正直に答える。


「いや、寧ろ見た目は子作りしましょうと言いたいくらいタイプだけど」


「作りましょう、今、今すぐ!! さぁ、私の中に子種をぐひゅぅ」


「このバカ! 母親の目の前で息子の服を剥ごうとするんじゃねー」


 うわぁ、びっくりしたぁ。突然胸ぐら掴まれたと思ったら、そのままビリビリと服破かれるんだもんなぁ。で、キスしようとしてきたし。いや、流石にいくら綺麗だからってろくに知らない相手とは何もしないよ?

 あくまで、性格とかの相性も合ったらって意味なんだし。あれ? 誤解されてる?

 いや、悪い人ってか神様じゃないのは伝わってるんだけど、だからってやっていい事と悪い事があります。母さんからゲンコツ落とされたけど、それで反省して下さい。


 内心で憤慨していると、いつの間にか服が直っている。同時に、あぁ、やっぱり夢なんだと猛烈に寂しくなり、つい母さんに抱きついてしまう。

 この暖かさも夢とか信じたくない。


「あー、シュー。どうした?」


 母さんの言葉に涙腺が決壊してしまう。うぅ、こんなに涙脆かったっけ?

 でも、でもぉー。


「いやー、エリザベートって策士だね。まさかここまで見込んで攻撃食らったの?」


「おい黙れ変態!」


 聞き捨てならない神様の言葉。母さんが怒鳴ってるけど、そんな事より聞かなきゃならない事が出来ちゃったよ。

 ふふふ、涙ももう止まってる、ってか強制で止まった。


「ねぇ母さん。その辺僕詳しく聞いても大丈夫だと思うんだ。

 教えて」


 あぁ、多分今僕笑顔だけど目が笑ってないとかそんな状況なんだろうなぁ。そして、口をパクパクとさせ視線をさ迷わせる母さん。ふふ、逃がしさないよ。


「エリザベートってば、澱対策に腕か脚の1本元々犠牲にするつもりだったのよ。

 でも、そんな心構えだったから胸に穴開けられちゃって、ただ、澱対策的にはこれ以上ない結果だし、私の癒しやあなたの魔法を頑なに拒否して今に至るって感じね。

 あらー、エリザベート、睨むのは良いけど私だって怒ってるんだからね」


 ニコニコと言う神様に舌打ちをする母さん。なんか、少しずつ読めてきた気がする。

 そうか、そう言う事だったんだね。


「はぁ、まぁそのなんだ。ごめんなさい」


 しょんぼりとしつつ僕に言ってくるけど、正直許せない気持ちの方が大きい。でも、僕の為なんだし、怒るに怒れないじゃないか。


「母さんは、それで良かったの?」


 気付いたらそう口にしていた。無意識に出たのだけど、多分それ故にこれが僕が1番聞きたかった事なんだろうなぁ。

 一瞬キョトンとした母さんは、ニカッと満面の笑みを浮かべる。


「あぁ、大事な家族をこれで守れたんだからな。理由は色々あるんだが、結局俺はこれに尽きるよ。

 正直自分の命がなくなったのは惜しいし、悔しいがな」


 ……そうか、多分これ以上は自分でちゃんと気付かなきゃ――調べなきゃいけない事なんだ。


「うん、ありがとうお母さん。大好きだよ」


 胸がいっぱいで、また涙が溢れそうだから、そう言うだけ言って抱きつく。


「おう、俺も、ずっと大好きだからな。愛してる」


 母さんの優しい声を聞きながら、その胸元を濡らしてしまう。


「うふふ、まぁ御使いどもも大慌てしている位の事態になっているんだし、意趣返しも成功してるからね。

 流石私のエリザベート、死んでもただでは倒れないわね」


「うるせぇーよ。第1俺はマイケルのだ」


 2人のやり取りに、涙は出続けているのだけど笑いも出てしまう。

 ああ、この時間が永遠に続けばいいのに。

 と、今更ながら疑問が湧いてきて、それをそのまま口にする。


「ねぇ、神様女の子だよね? なんでそんな格好に口調なの?」


「え? やっぱりおかしいかな? あの糞親父め、ちょっと会合で褒められたからって色々無茶しすぎだっつーの。なんで私がこんな苦労を」


 凹んだりプリプリ怒ったり相変わらずの感情の豊かさは微笑ましいのだけど、ちょっと今は質問に答えてくれると嬉しいなぁ。


「おいおい、ちゃんと質問に答えろよ。

 俺もよーく考えればこれっぽっちくらいは気にしてたからよ。まぁどうせ単純に男装趣味の変態ってだけだろうがな」


 バッサリ切る母さん。と、大げさに腕をバタバタさせながら反論をはじめる神様。


「ち、違うわよ! 今の魔領やら後何箇所かの価値観が狂ってるだけで、元々は私や認めたくはないけど御使い達の格好とかの方が正しいからね」


 必死な神様の言葉から、なんか複雑な事情が絡んでるのかなって思う。まぁ、実は複雑そうで単純な理由でしたとかもありそうだけど、神様見てる限りじゃね。


「ほうほう、まぁ今の価値観に合わせれない辺りどちらにしろ変態ってこったな」


 容赦のない母さんの言葉にへなへなと崩れ落ちる神様、可哀想。


「でも、僕神様の格好や喋り方とか好きだよ」


 可哀想な気持ちと、純粋にそう思う気持ちとでそう口にすると、次の瞬間神様に抱きしめられてた。

 いや、何が起こった? あ、母さんが神様にまたゲンコツ落として僕を奪い返すように抱きしめてくれたな。

 うん、僕抱きぬいぐるみとかじゃないのだけどなぁ。


「おい、俺の息子が優しいからって調子に乗るなよ。

 まぁ、シューの価値観からすると、嘘は言ってないんだろうがなぁ」


 最後は苦笑しつつ僕に言葉を落とす母さん。なんか心配だぁって感じだなぁ。まぁ、僕も娘がブサイク好きってなったら心配……なのかな? うーん、流石によくわかんないや。


「むー、エリザベートはほんとけちんぼなんだから」


 羨ましそうに言う神様。そしてそのまま続けて口を開く。


「いいもん、シューちゃんが加護受け取ってくれたら私いつでも話せるようになるし」


「シューが許したらな。それに、お前1度断るとすねて応じない事あるじゃねーか、なーにがいつでも話せるよだ」


「シューリックちゃんなら許してくれるわよ。後ごめんなさい」


 加護を受け取ってくれたらって。加護ってそうやって受け渡しするものなの?

 2人のやり取りを見つつ不思議そうにしていたら、母さんがそれに気づいてくれたみたいで補足してくれる。


「まぁ、あれだ、最後の俺からのプレゼントと思ってくれ。

 こんな変態の加護はってのはなくはないんだが、あると心強いもんだしな」


「むぅ、だから私は変態じゃないって」


 不服そうな神様。でも、それよりも最後のプレゼントって、そんなの受け取らない訳ないじゃない。

 寂しい気持ちもあるのだけど、これが僕と母さんの確かな絆にもなる気がして、素直に首を縦に動かせた。


「うん、母さんのプレゼント嬉しい」


 そう口にしたら、母さんも神様も笑顔を浮かべてくれた。

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