風呂場
残酷な表現や描写があります。ご注意ください。
黒いごみ袋を自転車のカゴに入れ、もう何時間も自転車を漕ぎ続けている青年。
人とすれ違う度に平静を装い、まるで要らなくなった古着か何かを友達にあげるためにまとめた袋がたまたまこれなんですよ、っといった気持ちでカゴから落ちるわけでもないのに、前かごに入ったゴミ袋をわざとクシャクシャっと触って見せる。
今から数時間前・・・
青年は彼自身の自宅の風呂場にいた。
人が一人、ギリギリ三角座りできるぐらいの大きさのピンクの正方形の風呂釜。
そこで青年は女の人を洗っていた。
髪の毛は思ったより黒く、指の間を通る抜ける無数の髪は一本一本が生き物のようで吸い込まれるようだった。
青年が現実に戻るまでどれくらいの時間が経ったのか定かではないが、数秒のようにも数時間のようにも感じていた。
いつもとは違う風呂場の風景に胸の鼓動は喉をノックするように段々早くなっているが、青年は至って冷静であった。
女はグニャリとへたりこむので何度も風呂釜にもたれさせる。
その度に首がグラグラして顔が天を仰ぐ。
焦点の合っていないはずの目が何故か睨んでいるかのように錯覚するので、青年は何度も顔にお湯をかぶせた。
目が動くのは水圧のせいだと分かっているのだがそれでも何度も顔にお湯をかぶせた。
「虫も生き物、人も生き物、わかってるんでしょ?なのに何故そんなに特別な感情を持ってしまうの?」
そう言っているように錯覚した青年は何も言わない…いや、言えない女に対し独り言を言った。
「あぁ虫歯いてぇ。おっ!自分虫歯無いんや。ええなぁ。ま、歯は洗わんでええっか。」
そう言うと女の胸を2、3度揉んだ。
青年にとってそれは、好きな子を悟られそうになった友人に対してその好きな子の悪口を言うような感覚だった。
2日前も
「お前、2組のアキコの事好きなんちゃうん?」
っと言ってきた友人に対して
「あいつデコにめっちゃニキビあるやろ?あんなん無理やわ」
っと言い放った。
青年はどこにでもいる普通の中学2年生。
…のはずだった。
続