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明日天気になぁれ

「あーした天気になぁれ。」

お兄ちゃんはいつも空を仰いでそう歌っていた。私よりもずっと大きな手で、私の手を握って。

お兄ちゃんは雨の日が嫌いだった。だから、晴れの日なら明日も晴れるように、雨や曇りの日なら明日は晴れるように、そう神様にお願いしてるんだよ、と幼い頃に聞いた気がする。

「お兄ちゃんはどうして雨が嫌いなの?」

「そうだなぁ・・・。濡れることはもちろん嫌だけど、やっぱり空が暗いからかな。空が暗いと、気持ちも暗くなるから・・・。」

そう言ったお兄ちゃんの顔は少し寂しそうで、けれどとても優しかった。

 私がまだ一歳にも満たない内に両親が離婚し、私は母に引き取られた。私が四つの時、母は再婚して新しいお父さんとお兄ちゃんが来た。新しいお父さんは無口で少し怖かったけれど、お兄ちゃんは初めて会った時からとても優しくて、いつも私を守ってくれていた。友達が少ない私のために、時折お兄ちゃんの友達を連れてきては私を交えて遊んでくれた。お兄ちゃんの友達も私にとても良くしてくれて、その時の私はこの先何か辛いことがあっても、きっとお兄ちゃん達が守ってくれる、そう思っていた。けれど、ある日を境に、お兄ちゃんは居なくなってしまった。

 その日は、雨が降っていた。その所為か、お兄ちゃんの顔はとても暗く、いつもより口数も少なかった。いつもの「あーした天気になぁれ。」という短い歌も、私と一緒に歌おうとしなかった。その日のお兄ちゃんは、まるで別人のようだった。いつもかけている眼鏡も外し、ベランダでずぶ濡れになって、そして、二度と帰ってこなかった。本当に忽然と消えてしまった。次の日も、そのまた次の日も、どこを探してもお兄ちゃんは居なかった。お兄ちゃんはもう帰ってこないのだ、もう私の手を握ってあの歌を歌うことも、一人ぼっちの私を守ってくれることもないのだ。そう悟った時、私はベランダに落ちていたお兄ちゃんの眼鏡をかけずにはいられなかった。お兄ちゃんの、居ない世界。そんな不安で、怖くて、寂しくて、どうしようもない世界を、私は直視することが出来なかったから。

 「あーした天気になぁれ。」

お兄ちゃんが居なくなってから、私は頻繁にその歌を歌うようになった。この歌で神様に願いが届いて、今までにないくらい良いお天気になれば、きっとお兄ちゃんが出てきてくれるような気がして。あれから二十年以上経った今でも、私はあの時のお兄ちゃんの眼鏡をかけ、空を仰ぎ、この歌を歌っている。

「あーした天気になぁれ。」

どうか神様、私のお兄ちゃんを返してください。

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