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IL  作者: 月山 耀真
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confession1-1

 俺は荷物を取りに行くため、家としている廃墟に帰るために、バイクにまたがった。トンネルの中では分からなかったが、もう日は落ちて暗い。でもまだライトを点ける程ではない。

バイクにキーを挿して、エンジンを掛けた。持ってきたバッグは小屋の中に置いてきたので軽快に走れそうだ。

「お~い」

オッサンの声だ。

「なに~?」

走ってきたので、オッサンは苦しそうに肩で息をしていた。右手には、バイクのキー。ついてくるつもりだとすぐに分かった。

「おれも行く。」

「そう言うと思ったよ…」

いそいそとバイクにまたがっているオッサンを見守りながら、俺はエンジンを唸らせた。早くこいよ、の合図。

「せかすなよ~」

後ろから、ゆっくりとオッサンはやってきた。

「じゃ、行くよ。」

「せっかちは、もてねぇぞ!」

「余計なお世話だ。」

ハンドルを思いっきり捻った。夜のドライブは人生で初めてだ。

 

 ヘルメットをかぶってないので、風がもろに顔に当たる。涼しくて気持ちいいけど、たまに虫なんかが当たって痛い。

 すぐに回りは暗くなった。ライトを点ける。

 夜は道がよく見えないから、昼間ほどは飛ばせない。20キロぐらいでゆっくり走った。

オッサンのバイクが並行してきた。

 「夜は余計なこと考えないで走れるからいいな…。」

 真っ直ぐ前を見ていたので、オッサンの表情は分からなかったけど、多分、いつも通りにニヤニヤしているんだろう。

 嫌になるほど日光を発していた太陽は、いつの間にか水平線に沈みこみ、変わりに冷め切った表情の三日月が空を支配していた。

 「さっきの話だが…」

オッサンが珍しく、真っ直ぐを見つめながら運転している。でも今の声は間違いなくオッサンだ。

 「何?」

 「やっぱり、お前だけに言っておくわ。」

 川を沿うように、2台のバイクは走っている。その他、地上に光るものはない。 俺は、ただハンドルから伝わる振動、風を感じながら、耳を澄ました。

 「何のことについて?」

 「ちょっと、機密事項。」

 「ふーん…。」

 「お前んちで話そう。」

 トンネルから出発して、けっこうかかった。俺の家は、引越しとなると暗い表情で俺たちを迎えた。バイクを止め、階段を上る。

 「こっち、ここの3階。」

 ペンライトでかざして、オッサンを案内する。オッサンは物珍しそうに、キョロキョロ辺りを見回りながらついてきた。

 「お前、3階に住んでんのか?金持ち思想だな~~。」

 「うるさい、うるさい。俺は高いところが好きなの。」

 ドアーを開けて、オッサンを部屋に入れた。あとから入って、南京錠を閉めた。ここらへんには、水泥棒や食料泥棒がけっこういるから用心が必要だ。

 「結構、神経質??」

ベッドでくつろぎながら、オッサンが聞いてきた。俺はお気に入りの上着を着ながら応えた。

「いや、たいして。」

大きいバッグの中に、自分の必要なものをつめている途中、オッサンが喋りだした。俺は聞きながら、作業を進めた。

「さっき、話すって言ったことだけど…」

「なに?」

「真面目なはなし、これが一番お前たちに伝えたいこと。」

「話してみてよ。」

「イルは、人類ではない。」

瞬間的に自分の手が、石になったみたいに止まった。自分の神経が全部麻痺して、体が動かなかった。

信じられない。

何言ってんだ、オッサン。

…………

嘘だろ。

でも、そうかも。

あの闇のせいか?

嘘だ。

違う

認めろ!

………………

「おい!!ユーイチ、大丈夫か?」

オッサンの顔がいつの間にか目の前に来ていた。驚いて、叫んでしまった。

「おちつけ、ユーイチ。」

手の震えが治まらなかった。

「オッサン…」

「なんだ?」

こんな心配そうなオッサンの顔は始めて見た。でも、俺は言いたいことは、しっかりと言う主義だ。

「こういう事は、突然言わないでくれ…」

「そうだったな。ごめん」

笑いがこみ上げてきた。命一杯笑った。夜のあの水平線まで届くぐらい大声で。オッサンも笑っている。

面白いよ。

本当に面白い。

「あんたが、本気で言ってんだから、これは本当だな。」

「そうだって言ってんだろ。」

二人とも笑いながら、話した。

「は~~。笑い疲れた。落ち着いた??」

「おかげさまで…」

オッサンは安心したのか頷いて、またベッドに寝転がった。俺は手を止めて落ち着いて話を聞いた。手を差し出して、「続きをお願いします」の意志表示をした。

「じゃぁ、続きを。イルは人間じゃないんだ。」

「人間じゃ、無い?」

「そうだ。もう人類ではない。手遅れだ。」

「手遅れ?じゃぁ、もともとは人類だった?」

「そう、俺の予想では89年前までは…。多分、君たちイルは、つまりアパルト・ウォールの外側にいた人類はみんな同じだ。」

俺は、大きいバッグを枕代わりにして寝転びながら黙って聞いた。

「イルとは、言い方を変えれば、DNA螺旋のうち12本すべてが機能している者を指すのだ。人類は12本のうち2本しか機能していない。180年前にフォトン・ウェイブと呼ばれる宇宙線が地球に降り注いだらしい。その当時、フォトン・ウェイブを浴びた者は絶命すると言われていたそうだ。だから政府は急ピッチで主要都市だけ救う「ラプチャーシティ計画を打ち出した。」

天井に移る影が、だんだん変形していく。俺はそんなことにすら気が付かないほど集中して話を聞いた。

オッサンも時々姿勢を変えたりしながら、結構リラックスしている。

「つまり、フォトン・ウェイブでイルが誕生し、主要都市だけが影響をうけずに人類から変化しなかった。だとしたらアパルト・ウォールの外は、政府に見捨てられた…?」

オッサンは残念そうに、静かに頷いた。

「おそらく。」

「オッサンは、人類?イル?」

「俺は、東京にいた訳だから人類だ。だから、多分お前たちのほうが年上って事になるな。」

「俺らは、200年近く生きているの?」

「多分な。理屈ではそうなる。」

「ふ~ん」

「さて、問題点を話そう…。」

オッサンが起き上がった。さっきの語調と少し違って、なんだか雰囲気も違う。俺も起き上がった。

「単刀直入に言うと、人類はイルを有害生物と考えている。」

「なっ、なんで!!?」

「分からん。俺ら人類は、壁の外は地獄だって教わってきたからな。イルが目覚めたのが最近、大体1年たつぐらいだ。そろそろ人類が壁を越えて、領土奪回をスローガンに攻めて来るってことだ。」

「な、なんで。俺らも元は人類なのに…」

「大体、現生人類は運命から目を背けた臆病者集団だ。自分たち以外、何も認めない。すべて有害とみなしてしまうんだ。だから、壁の外を自分たちから隔絶した。」

「でも、戦ったとしても、人類は勝てないんじゃない。小さな国ひとつが敵なら。」

「いや、すでに地下にトンネルが開通し、地下都市も出来ていれば、そこから海、空、宇宙どこにでも行ける地下港まである。それぞれ、すべての世界中の都市が繋がったのが10年前。彼らはいつでも攻める気まんまんだろう。」

風が千切れたカーテンを揺らした。

「オッサンは人類でしょ。どうやってここまで。」

「俺は地下鉄道の廃トンネルを使ってここまで来た。旧文明、つまりフォトン・ウェイブが襲来する前の時代には、ここも結構発展した町だったそうだ。おかげでたくさん地下道があったから、行き来自由って訳。この辺は横浜って呼ばれていて日本国が始めて本格的に外交した町だったそうだ。地下に残っている旧文明の資料にそう書いてあった。」

オッサンはバッグから埃まみれの本を取り出して、こっちに投げた。本には「横浜開港170週記念」と書いてある。当時の町並みは、高層ビルが並び、競技場、人工島、無駄に長い釣り橋が写真で載っている。どれもこれも、新鮮で輝かしい。

オッサンに本を投げ返して、今度はこっちが聞きたいことを尋ねた。

「壁から出た理由は?」

「さっき恥ずかしくって言えねぇって言っただろ。」

「ここまできたら言えよ。」

「…俺が外の世界に興味を持ったのは、小さいころからだった。学校では外の世界は危険だ、って教えてもらっていても、俺はこんな狭い閉ざされた世界から出たかったんだなぁ。どんなに残酷であってもいい、どんなに寂しくってもいい。そう思っていた。

で、恥ずかしい事だが、ついこの間、仕事クビになって出てきたって訳。」

「へ~。やっぱり適当な理由だ。」

「笑えよ…」

「なんの仕事だった?」

「警察」

「へぇ、あんたが警察かぁ・・・」

「特殊部隊だった。生物災害緊急派遣部隊、通称BHDMの一員」

「何の仕事だったの?」

「生物災害を抑えるための部隊。生物災害といえば対象は主にイルになっている。」

「えっ!?」

「BHDMのミッションはイルを撲滅すること。領土を広げるために壁の外に出られるって理由だけで、俺は志願した。」

「じゃぁ、あんたは!!」

「いや、俺がBHDMにいた頃には、イルが少数しか目覚めていなかったから他のミッションがあった。最近になってイル撲滅部隊が編成されたって話だ。」

「そうか、良かった。」

「でも、人類は絶対に侵入してくるぞ。」

「うん、わかっている。いつかはね…。」

俺は立ち上がって、中止していた引越し準備を再開した。思っていたほど荷物は多くなく、大きなバッグはまだブカブカだ。

ほとんどが、衣食品、思い出の品などサングラスとジャケットの他に無い。

ひびの入った鏡の前で、身なりを整え最後に、拾ったサングラスを頭に挿した。

「どう??」

オッサンは拍手をして喜んだ。

「ハハハ、映画の主人公みたいだ。アクション映画の。」

「じゃあ、そろそろ行こう。」

重たくなったバッグを背負って、ドアーを思いっきり蹴り開けた。蝶番は吹っ飛び、ドアーは外れ、階段を転げ落ちた。

「お~、かっこい~」

オッサンが目を点にしながら、妙なお世辞を言い始めた。うれしかったので素直に受け止めた。

バイクにまたがって、叫んだ。

「さぁ、出発だ!!!」

俺たちは夜風のごとく、闇夜をバイクで疾走した。


改行などが、最近いいかげんになってきてしまいました。

オッサンの告白によって、イル発生の原因が見えてきました。そして自分でも驚いているのがユーイチとオッサンの会話が、上下関係が消えた感じになってきたことです。

こんな感じで、自然に文体が変わっていくのが、楽しみでもあり恐ろしくも感じています。


月山 耀真

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