prelude1-3
いつも集まっている場所は、そんなに遠くない所にあるトンネル。オッサンを連れて、やっと着いた。集合時間ギリギリ。
「あんたが、あんな所で一服するからこんなに時間が掛かったんだから!」
「仕方ないだろ。俺は禁断症状になるとヤバイの。」
「じゃぁ、タバコなんてやめろよ!」
「いや、無理無理・・・。」
トンネルの入り口にバイクを立てかけながら、口げんかしていた。なんだか楽しかったような気がする。
トンネルの中は涼しい。隣にいるオッサンは嬉しそうに前を歩いていた。俺は何度か来た場所なので、緊張もしなかった。
奥のほうで、明かりが見える。あれだ。
人が向かってくるのも見える。メンバーの中の誰かなんだろうけれど。どうも見たことがないような感じがする。
「あの~…」
影が喋りだした。こんな声は聞いたことがない。俺は足を止めて。オッサンにも合図を送った。オッサンは気がついたらしく、じっとしている。
「何?」
「あなたユーイチさんですよね??」
なんで、俺の名前を…言葉にはならなかった。
「だから、なに?」
「奥であと二人が待っています。ついてきてください。」
オッサンのほうを見ると、「大丈夫」のサインを出している。俺は影について行った。
明かりが点いている所には、小さな小屋が作られていた。こんな物は前に来たときには無かった。
錆だらけのドアーを開けると、見慣れた仲間たちがそこにいた。
「あーっ!!ユーイチだ。」
最初に叫んだのは、廃墟の中で知り合ったメグミ。
「やぁ、おそかったね・・・。」
これは、このトンネルの中で出会ったシュンヤ
「道が混んでて・・・」
挨拶代わりに軽い冗談を言った。シュンヤは敏感に反応して突っ込みを入れてくれた。
「バカ!あんな道が混んでる訳無いだろ。」
「でした…。」
奥で、誰かこじんまりとしている女子がいる。多分さっき驚かせてくれた奴。俺のほうから声をかけた。
「あんた、名前は?」
女子は小さい顔をこっちに向けて、ハキハキとした声で話した。
「レイと言います。さっきはビックリさせてすみません。」
「いや、いいよ。大丈夫。ユーイチです。よろしく。」
後ろで足を組んでオッサンが居眠りをし始めた。自己紹介もしないで寝るな!肘で突いて起こした。
「おい、オッサン、自己紹介しろ!」
「へぇ~、なんでぇ?」
「当たり前だろ、常識として…」
「わかったよぉ」
全員が、注目した。オッサンはフラフラッと立ち上がって大欠伸。そして腰に手を当てて喋った。
「え~っと、オジサンです。」
「…………」
「あ~っと、バイク持ってます。」
「……」
「悪い人ではありません。多分良い人です。タバコ吸います。自分。」
「…」
見かねて耳元でアドバイスをした。
「おい、オッサン。名前とか、どこから来たか言わないと。」
「なるほどぉ。」
「頼むぜ、オッサン」
ゆっくりと座って、耳を澄ます。
「え~っと俺の名前はっと。たしかゴローです。出身地はどうしても言えません。」
なぜだか分からないけど、拍手が起こった。俺も合わせて手を叩く。オッサンはなんだか嬉しそうにしていた。照れて、顔が赤くなっている。この人にもいろいろな表情があるんだなって、当たり前なことを再認識した。
シュンヤが大きなノートを広げて、机の上においた。そこには今まで行ったことのある場所のデータが詳しく記されていた。
うん??」
オッサンがノートを見ながら首を傾げている。
どうかしましたか?」
レイはオッサンの異変に気がついたようだ。優しい声で、オッサンに訊いた。
オッサンは肘をついて、口を曲げている。
いやぁ、お前らってこの辺の住民なんだろ。何でこうやって書かなきゃいけねーんだ?」
えっ?どういうこと?」
今度はメグミ
「だから、いちいち書かなきゃ覚えられねーの?地元だろ?」
「わかんねーんだよ。俺ら。ここが地元かどうかすら。」
オッサンの後ろで、小声で言った。
「オッサン。覚えてるだろ。俺らはもう思い出したくねぇ。あの闇を。」
「闇?」
「そうだよ。あの闇、眠りのせいで何もかも忘れちまった。時は流れ、自分自身以外の物は全部変わっちまった。」
「なんの…なんの事だ??さっきからお前…」
部屋の中は一瞬にして、静かになった。もしかして、このオッサンは何も知らないのか?俺含め、ここの皆がそう思っただろう。
シュンヤがペンを離さずに訊いた。
「あなたは、なにも知らないのですか?」
「ああ、知らん。」
「なぜ?」
「わかんねぇよ。」
「ここ数年、どこにいましたか?」
「…言えねぇって言っただろ。」
皆がじっと見ているので、このオッサンもシラをきれなかったのだろう。さっきまで黙っていたことを、おとなしく話した。
「と、東京」
「東京!!??」
全員が叫んだ。
東京、俺らの中では唯一、法律が存在し、綺麗に整備された町があるという噂。できる事なら行ってみたい場所でもある。
「そう、東京。今は東京国になってるけど…。」
「じゃあ、東京国の中は、こんな廃墟だらけじゃないの?」
「当たり前だ。高速鉄道がはしり。高層ビルが立ち並ぶ。東京が新文明を独り占めにしているんだろう。」
俺は、ひとつ疑問に思った。なぜ東京にいたオッサンはあの恐ろしい体験をしていないのだろう。それに東京だけが国として自立し、文明や法律を守れているのはなぜなんだろう?
「東京国に住んでいる奴らは、“外の世界“のお前らを「イル」と呼んでいる。英語で病気っていう意味だ。」
オッサンは、悲しそうに話した。
「話したくねぇが、いずれ分かるんだ。教えてやるよ。」
机の上にオッサンが腰掛けて、世間話をするように遠い目で話した。
「東京や名古屋、大阪、神戸、札幌、仙台、福岡。日本の主要都市は全部そうしている。これらは小さな国になって暮らしている。それぞれの町には地下主要道路じゃないと決して行き来できない。町の周りには「アパルト・ウォール」って言うでかい壁に包まれているんだ。」
レイが腕に顔を乗せながら訊いた。
「じゃあ、ゴローさんはどうやって出てきたの?」
「頑張って…出てきた…。」
休ませまいと、メグミが尋ねる。
「なんで?東京国の中のほうが暮らしやすいでしょ。なんで出てきたの?」
「理由かぁ…。情けなくっていえねぇ…。」
オッサンは低い声で、一人で笑っていた。でも俺には悲しくって、悔しくて泣いているように見えた。
何も言えなかった。俺以外の奴らは何かしら人生の目的を持っている。それに比べて俺はただ生きているだけ。
メグミはあんな感じでも、自分の本当の親を探す目的がある。
シュンヤはうっすらと覚えている親友との再会が目的だと以前聞いた。
レイは、あいつには何かあるのだろうか?もしかして、俺と同じような今を感じているんじゃないのか?
「まぁ、まだ俺らには知ってもどうにもなんねぇ。」
シュンヤが話を切り出した。
「まぁ、そうかもしれん。」
とオッサン。
「おい、ユーイチ。お前ここに泊まれ。ずっと。」
シュンヤが思いついたかのように、提案してきた。
「えっ??」
俺には家がある,別に愛着がある家ではないが…。でもオッサンもいることだし、ここにいる ほうが心強いかも。
「いいの??」
分かりきっていたけど、嬉しさと、躊躇いから抜け出した勢いで訊いた。
「いいに決まっているじゃん」
メグミが満点の笑顔で、答えた。レイも嬉しそうにメグミの後ろで頷いていた。久しぶりに嬉しかった。いつも一人だった俺に、本当の仲間ができたんだ。
オッサンにもそう言うと、嬉しさのあまりか、小屋から飛び出して道の真ん中で踊り始めた。みんなそれを見てクスクスっと笑っていた。
久しぶりに暖かいひと時だった。
仲間がやっと出てきた3話目です。
同じ日に2回の投稿になりました。
いかがでしょうか。
[prelude]とは、英語、フランス語で前奏曲を意味します。
まだ、物語の序盤ということを伝えたかったのです。
それでは、また。
月山 輝真