何でもない日の奇跡
今回のお話は童話に近いお話です。
イースターといえば子供達のお楽しみはエッグハント。集めた卵に何が入っているか、何時も大騒ぎです。
私は気がついたら、バスケットを持って森の小道を歩いていた。
何時ここに来たんだっけ?
こんなバスケット持っていたかしら?
あ、そうだ。この森を抜けた所にあるお家に行くんだ。
10分ほど歩くと森から出て、坂道の下に赤い屋根の家が見えた。
そうそう、あそこで今日は。。何をするんだっけ?
そんな事を思っていたら、目の前に茶色のウサギが飛び出してきた。
「うわ、うさちゃんかわいい!」
「可愛いとか言うな。俺は成人してるんだから!」
「ぎゃーー喋った!」
「何言ってるんだ。お前も話せるんだから、俺だって話せる」
そういう問題?
「とりあえず、お前のバスケットに入れてくれ。ジャンプしながら歩くから、結構腰にくるんだよ」
なんか、おっさん臭いウサギだ。
「ウサギさんのお名前は何ですか?」
「俺はアッシュだ。普通自分の名前を言ってから、相手の名前を聞くだろう」
いや。。ウサギに自己紹介した事無いんで。
「私の名前は。。。あれ?名前なんだっけ」
「え?自分の名前知らないって」
なんかウサギに残念な子を見るような目で見られてる。それにしても綺麗な緑の目だ。ウサギの目って赤とか黒じゃないの?
「しょうがねえな。俺が名前をつけてやる。。。。。お前の髪はオレンジだから人参とかどうだ?」
「え??私の髪ってオレンジなの?」
「自分の姿もわからないのか?キャロットみたいで美味そうな色をしてる」
「キャロットなんて名前いやよ」
「めんどくせえな。じゃあ縮めてキャロとかどうだ?」
ニンジンから離れてないが。まあなんだかしっくり来る。
「それでいいわ、私はあの赤い屋根の家に行くんだけど。アッシュもそこまででいいの?」
「ああ、あれは俺の家だからな」
「え?そうなの?私は何でアッシュに会いに行こうとしてるのかな?あの家に行く事は覚えているけど、何でだかわからないのよ」
「お前。。色々忘れすぎだな。今日はイースターだろ?エッグハントするから、そんなバスケットを持っているんだろ?」
エッグハント。
色んなところに隠れている、卵を探すんだっけ。
「俺は朝からいろんな所に卵を隠したからな。10個全部見つけるのは大変だぞ。全部見つけたら、凄いプレゼントを用意してあるからな」
と言いながら、アッシュは私のバスケットに飛び乗る。
「お。。重い。あんた自分で歩けばいいのに」
「言ったろ、腰痛だって。卵隠すの大変だったんだよ」
しょうがない。。下り坂でよかった。
私はずしっと重くなったバスケットを抱えて家に向かった。
やっと玄関に着いて、ノックをするが誰も出てこない。
「俺の家で俺はお前の横にいるのに、誰かが出てくるわけないだろう」
「同居人とかいるのかと思ったの!」
「いるけど。そいつは今迷子になってる。このエッグハントの卵に間違えて、そいつの居場所を書いた紙を入れちゃったんだ。それも探してくれ」
迷子。。。一気にエッグハントが気楽なお遊びから深刻な問題になってしまった。
同居人ってやっぱりウサギよね?
家のドアには鍵がかかってなかった。
「中に入ってもいいの?」
「ああ、家の中にも卵は隠してあるからな」
とりあえず外からするかな?私はアッシュをバスケットから下ろして、バスケットを片手に外に出た。
そんなに大きな庭ではないけど、色んな物が置いてある。
1個目の卵はにんじん畑にあったオレンジ色の卵。ご丁寧に番号まで書いてある。
「これは3なのね」
私は木に空いている穴や花壇の中、噴水の水の中から卵を見つけた。
「とりあえず、1から5までの卵は見つかったわね。どれぐらい庭にあるのかわからないけど、家の中もチェックしようかしら」
「キャローー、お腹減らないか?ランチにしよう」とアッシュがキッチンから声をかけてくれた。
ウサギって料理するのかな?キッチンがあるからするんだろうけど。
どうやって作ったんだろう?
キッチンの横にあるテーブルには、ニンジン、レタス、あと何故かチョコチップクッキーがある。
野菜かクッキーの2択。
野菜は庭に畑があったからわかるけど、クッキーは何処からきたのか?
「クッキーは同居人が作ってくれたんだ。迷子になる前に」
もしかしたら、同居人は人間で。アッシュの飼い主なのかも。
私はニンジンを齧りながら、バスケットの中の卵を見つめる。
「まだ、5個しか見つかってないのか?」
「5個もよ。半分は見つかったって事でしょ。家の中には何個あるのかしらね?」
「それは教えられない」
「ケチくさいわね。同居人を探すのに必要なんでしょ」
「俺が何個って言うと、それ以上探さなくなるだろう?それだとダメなんだ」
「よくわかんないわね」
「とりあえず早く探してくれ」
私はチョコチップクッキーを咥えながら
「はいはい、今行きますってば」
私はキッチンの棚から1個、ハート柄の卵を見つけた。
リビングに飾られている花瓶の中にも花柄の卵があった。
しかしいいセンスの花瓶ね。緑のグラスにオレンジのチューリップが飾られている。
「アッシュ、この花瓶すごく可愛いわね」
「そうだろう。それは俺が選んだんだ」と嬉しそうに耳をピクピクさせてる。
階段を上がると書斎と寝室があった。
ウサギって本を読むのかしら?
青色の卵が同じ色の絵本の上に置いてあった。
「不思議な国の。。。」
読んでみたいが、早くアッシュに卵を見つけてあげないと。
寝室は私が入ってもいいんだろうか?
一応ノックして入ると。
ウサギの為にしては大きなベットの真ん中に虹色に光る卵があった。
あと1個。。10番の卵がない。
この部屋にはもうなさそう。
1階に戻るとアッシュがいない。庭に出たのかな?外を見るとさっきまで芝生だった所に大きなテーブルがあって、お菓子が所狭しと並べられてる。
私は外に出てテーブルに近づくと、アッシュがテーブルの端の席に座っている。
「すごいわね、何かのお祝いなの?」
「ああ、今日は“何でもない日”のお祝い」
「何でもないのにお祝いなの?」
「そう、何でもないって凄く幸せな事なんだよ。悪い事も何もないからね。卵は見つかった?」
「9個まで見つけたわよ。でも10個目がわからなくてもう一回庭を探そうと思ったら、あなたが見えたの」
「そう、とりあえず“何でもない日”のお祝いをしながら、卵を開けてみたら?何かのヒントがあるかもよ」
そうか、迷子の同居人の居場所が入っているかもしれないものね。
私は1と書かれた卵を手に取った。
木に開いた穴の中にあった、黄色のストライプの卵。
開けるとコインや、スプーン、ネックレスが入っていた。
「これは何処で見つけたの?」
「確か、木の穴の中」
「あの穴にはピカピカした物を集めるカラスが住んでいるから、無くしものはあそこに行くと大抵見つかるんだ。この指輪はこんな所にあったんだ」
「これはあなたの同居人のネックレス?」
ウサギはネックレスしないだろうし。緑の石が綺麗ね。
「そうだよ。何時も何処に置いたかわからないって大騒ぎするんだ」
2番の卵は噴水の水の中。中には小さなタオルが入っていた。どうやらアッシュの同居人は噴水に落ちてすぐにびしょ濡れになるらしい。
その卵にもその同居人人の面白いエピソードにちなんだ物が入っていた。
キッチンで見つけた卵には、さっき食べたチョコレートチップクッキーのレシピ。
花瓶から見つけた卵には、緑の綺麗なリボンが入っていた。
書斎の卵には女の子とウサギが描かれたしおり。
そして残るは最後の卵。
これにアッシュの同居人の行き先が入ってるといいんだけど。
虹色に輝く卵の中には。。。。
何も入っていなかった。
「え?なんで?」
アッシュの方を見ると、耳が垂れて悲しそうな顔をしている。
「もう。。ダメなのかもしれない。僕はこれから1人で生きていくんだきっと」
「ちょっと待ってよ、10個目の卵がまだあるじゃない。何処に隠したのかわからないの?」
「10個目の卵は同居人が隠したんだ。あなたは絶対見つけるからって言ったのに、何処を探してもない。だからキャロに来てもらったんだ」
アッシュはもう頭をテーブルに乗せて、目を瞑っている。
「諦めちゃダメよ。お母さんが言ってたわ、諦めた時点でゲームオーバーだって」
アッシュは片目を開けた。
「君のお母さんがそう言ったの?」
「多分。今そこだけ思い出したの。オレンジの髪に青い目をした女の人の事」
「君と同じ色をしているね。お母さんだもんね」
私は何も入っていなかった卵の殻を指で摘んでみる。
なんか甘い匂いがする。
この匂いは知っている。
「あ!チョコレートチップクッキー!」
「クッキーがどうした?」
「ねえアッシュ、チョコレートチップクッキーは同居人さんが作ったのよね。何処にあるの?」
「あれは皿の上にあったけど、いつもはクッキージャーの中に入っている。俺があまりにも食べるから、棚の上の方に置かれちゃって届かないんだ」
私はアッシュを抱えて、キッチンに戻った。
クッキージャーって。。
「あれだよ。Eat Meって書かれているだろう?食べてって書いてあるのに何で食べちゃいけないんだよ」とアッシュがむすっとしてる。
私は椅子を持ってきて、その上に立ってクッキージャーを慎重に棚の上から下ろす。
「キャロ、開けてみて!」
中にはオレンジに青の水玉の卵と茶色に緑の水玉の卵が入っていた。
10番は2つの卵なの?
「2つでひとつなんだよきっと。さあキャロ、自分の卵を割ってみて」
アッシュは茶色の卵を割ろうとしている。
私もオレンジの卵をテーブルに打ち付けてヒビを入れた。
卵の中には「Drink Me」と書かれた青の小瓶が入っていた。
アッシュの方には緑の小瓶が入ってる。
「これは飲めって事よね」
「そうだね」
私は自分の小瓶の蓋を開けてから、アッシュのも開けてあげる。
「じゃあ、“なんでもない日“に乾杯」
私がそれを飲むと急に周りの物が大きくなる気がした。あ、違う。私が小さくなっているんだ。
アッシュもあんなに大きくなって。
そうして、周りはいきなり真っ暗になった。なんか硬いものの中にいる。そして何だか眠くなってしまった。
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目が覚めると俺は崖の下に倒れていた。
起きあがろうとしたが、腰が痛い。どうやら崖から落ちて気を失っていたのか?
ハッと気がついた。
早く家に帰らないと。アリスが俺を待っている。
身体中痛いがどうやら、骨が折れているとかはないようだ。
しかし変な夢を見たな。
アリスそっくりの小さな女の子がエッグハントをしている夢。
その子は卵を見つけた所はアリスとの思い出がいっぱい詰まった所ばかりだった。
早く家に帰って、アリスに薬を飲ませないと。
アリスは俺の幼馴染で、小さい時からずっと大好きだ。体が弱いから結婚は出来ないって言い張られたけど、仕事を掛け持ちしてお金を貯めて、やっとアリスの病気に効く薬を手に入れた。
これを飲ませて、元気になったら、絶対に結婚して貰うんだ。
念願の薬が手に入って浮かれていたのか、急いでたからか、雨の中無理矢理帰ろうとして、崖から足を踏み外したのは予想外だったけど。
胸のポケットに入っている薬の瓶は割れていない。
よかった。。早く行かないと。
痛む腰を抑えながら、やっとアリスが住む赤い屋根の家に辿り着く。
「アリス、遅くなってごめん。今帰ったよ」
でも家は何だかシーンとしている。嫌な予感がして2階の寝室に行く。
寝室に行くと、アリスの両親がベットの周りで泣いている。
「アッシュ。。。アリスは。。」
「あなたの名前を呼んでいたんだけど、さっき目を閉じて。。」
ベットの上には青白い顔をして眠るアリス。
俺は急に力が抜けて、ペットの脇に倒れ込む。
「そ。。そんな。俺が崖から落ちなければ、間に合っていたのか?すまん、アリス。俺はいつもこうなんだ。アリスがいなかったら、俺はどうしたらいいんだ」
アリスは何時も優しくて、何時も失敗して泣いている俺のことを慰めてくれた。ここまで頑張って来れたのもアリスがいてくれたからだ。アリスがいない世界で俺はどうやって生きればいいんだ。
「嫌だ、アリス。俺を置いていかないでくれ」
そんな時に、あのアリスにそっくりな女の子の声が聞こえた。
「諦めちゃダメよ。お母さんが言ってたわ、諦めた時点でゲームオーバーだって」
俺はすくっと立ち上がり。胸に入っていた薬を飲み、口に含んで。アリスにキスをしながら飲ませる。
「ゲームオーバーにさせるものか!!!」
俺はそう言ってアリスを抱きしめた。
すると俺の耳の横で優しい声が聞こえた。
「親の前でディープキスもどうかと思うわよ」
「「「アリス!!」」」
アリスの両親も俺も大泣きしてアリスを抱きしめた。
そしてアリスの両親は部屋を出て行って、俺とアリスだけにしてくれた。
「アッシュ、あなた何処で迷子になっていたの?待ちくたびれちゃったわよ」
「ごめんアリス。もう間に合わないかと思った。諦めないでよかった」
「あなたは私がいないとすぐ迷子になっちゃうでしょ」
ニヤッと笑うアリスを俺は抱きしめて、
「だからずっと一緒にいてくれよな」
それからアリスはどんどん元気になって。俺達は結婚した。それから1年後。
俺はアリスそっくりな赤ちゃんを抱っこしている。
「アリス、お疲れ様。元気な子を産んでくれてありがとう」
「アッシュ。親としての初めての大仕事よ。可愛い名前を決めてあげないとね」
「それなんだけど、キャロってどう?」
「キャロ?キャロルの事?」
いや、キャロットのキャロと言いかけたが。赤ちゃんが。。。俺を睨んでる気がする。
「いいんじゃない?可愛い名前ね、キャロ。私も賛成よ」
そして今日も大きくなったキャロと俺は庭でお茶会をしている。
「お母さーん。クッキーまだ?」
「今出来たから、もうお茶を入れておいて」
アリスが山盛りのチョコレートチップクッキーを持ってくる。
俺はみんなのカップの紅茶を入れて。
キャロはミルクを入れてくれる。
「では今日も。。。」
「「「何でもない日に乾杯!!」」」
普段通りの平凡な日を過ごせる事が幸せなんです。
イースターの奇跡が皆さんにも訪れますように。




