逃亡
良い感じに思いついたので連続で投稿
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グラウンドに向かい、入り口に入ろうとした時声が聞こえた。
「こんな時間まで何をしていた!時間をかけすぎだ!もう部活が終わってしまっただろう!!」
山下先生の声だ、話とはこのことだったのだろう。
パシッ。
「痛っ」
そう思い部室に向かおうと思った時二度と聞きたくない音と、弱く細い声が聞こえた。
慌てて音の方を見に行くと、そこにはマネージャーをゴミを見るような目で見る山下先生がいた。
「あんなやつの為に部活を放棄するなんて許せん!立てもう一発だ!!」
そうしてマネージャーが泣きながら立ち上がり、もう一度、音が鳴るはずだった―――だが、響かなかった。
「なんだ隼人聞いていたのか、聞いていたのならわかるだろうその手をどけろ」
「.....」
「なんだだんまりか、なら」
次の瞬間口の中が血の味でいっぱいになった。
「俺は今まで生徒だからと思って右手で叩いていたが、隼人お前にはこれから利き手の左手で叩くことにする」
「なんかこっちですごい音なったくね?」
「それな、なんか銃声みたいだったよな笑」
音が大きすぎて先輩が近くに来ているようだ。
「もしかして誰かサボってんのか...は?山下先生何してんすか」
「あ?教育だ」
「いやいや暴力ってこんなの教育じゃないっしょ」
「なんだ昔はこれが当たり前だったんだぞ?お前らも反抗するのか?」
「いやいや流石にこれはやりすぎですって、おい真斗他の人呼んでこい」
「わかった」
「チッめんどくさいな、そもそも最近のやつはたるんでるのが悪いんだぞ!」
だめだ、さっきより上手く頭が回らない。でも気づいてもらえたならまだ良いのかもしれない。
「翔太呼んできたぞ」
「ん、ありがとう」
「なあこの子ってさ一年のマネージャーだよな?」
一瞬で場は騒がしくなった。
「先生が手を出したらしい」
「マネージャー泣いてたぞ」
「やばくね?」
そんな声は聞こえるのに、
「隼人、大丈夫か」
その一言だけが、どこにもなかった。
視線が怖くて、声が怖くて、何より自分がそこにいることが怖くて、
ぼくは隠れるように部室へ向かった。
誰かに呼び止められる前に、
何か言われる前に、
ぼくは逃げるようにグラウンドを去った。
痛みのせいなのか音楽が全て無音に聞こえる。
辛い、痛い、しんどいそんな負の感情がどんどん強くなり押し寄せてくる。
そんな感情に押しつぶされそうになっているうちに家に着いた、しかし鍵が閉まっている。この時間はもう家に親は帰っていてもおかしくないのに。
その時スマホが鳴った。
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母親
『今日は仕事でホテル泊まるから、明日の夜には帰る。』
19:48
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知らない男の影が、一瞬頭をよぎった。
でももう、どうでもよかった。
家に入ると急に涙が溢れてきた、もう限界だったのかもしれない。
学校が、部活が、先生が、
誰かの声が、誰かの目が。
一つ一つなら、きっと耐えられた。
どれも「たいしたことない」と言えるはずだった。
でも今日は、
全部が一気に来た。
逃げ場を塞ぐみたいに、重なってきた。
「今日はもう寝よう、もう本当に無理」
夜ご飯も食べてないし、お風呂にも入っていないのに全てやる気が起きない。
そして水道水をコップに注ぎ、自室の引き出しを開け睡眠薬を取り出す、量は適量を取り出しそれを一気に飲み込んだ。
ベッドに入ると今日の嫌なことを思い出しては消えていった。
「やめて、もうやめて」
そんなか細い声は発声しているのかすら怪しかった。
怖くて寝れない、震えて寝れないそう思ったぼくは気づけば睡眠薬をいつもより多く取り出し水もなしに飲み込んだ。
苦い。
でも、その苦ささえ、
今はどうでもよかった。
そして布団に潜り込んで、体を丸める。
逃げ場はここしかなかった。
目を閉じると、
今日の声や音が、また浮かびそうになった。
でもその前に、意識を手放した。
逃げるみたいに。




