叔父の相馬さんと甥っ子の三森くん
「ただいまあ」
相馬コウタロウが仕事を終えて自宅に着いたのはすっかり夜も更けた頃。
「おかえりなさい、コウくん」
「あぁ、ごめん。起こしちゃったかな」
そんな彼を出迎えたのは先月からある事情で引き取った甥っ子の三森ルイ。
「ううん、勉強していたから」
「そっか。受験も大事だけれどあまり無理するなよ」
「うん。コウくんも身体気を付けてね。夕飯まだなら冷蔵庫に作り置き入っているから暖めて食べて」
「マジか? ありがとな。だけどあんまり気とか使わなくていいからな」
「ミナトと自分の分作るついでだから気にしないで。僕、もう少し勉強してから眠るから」
そう言ってルイは先月から彼と弟のミナトの部屋になっている元物置部屋へと戻っていく。
その後ろ姿を見送ってコウタロウは溜息をつく。
まだ距離、あるよな。
中学生ってどんな会話すればいいんだよ。
姉ちゃん本当に早く帰ってきてくれよ。
ルイとその弟ミナトはコウタロウの姉の息子である。
その姉夫婦は現在日本にはいない。
夫の海外赴任にくっついて行ってしまった。
高校受験を控えた長男と、小学生の次男を弟のコウタロウに預けて。
しっかし、とコウタロウは三年前に購入したマンションの自室を見渡す。
当時付き合っていて婚約までいった彼女と住むために買った住処。ところが彼女はコウタロウの友人に乗り換え。今や一児の母となっている。
一人で住むには広すぎた部屋も甥っ子たちと住むにはちょうど良い。
「おっ、旨そう」
冷蔵庫を開けると唐揚げとポテトサラダが入っていた。
高校受験を控えて大変だろうに、居候している引け目からかルイは家事をよくこなしてくれる。
申し訳なく思いながらも、カップ麺とスーパーの半額惣菜生活から一気に充実した生活への変化に何も言えないでいた。
仕事の疲れを風呂で洗い流して、早速夕飯を頂く。
「折角の唐揚げなんだから」
誰にでもなく言い訳するように、コウタロウは缶ビールを一本取り出す。
甥っ子たちの手前なんだか後ろめたさからか、お酒を飲み控えていたのだが、結局は欲に負けてしまった。
「ん〜。んまい!」
しっとりとした衣と、その衣に包まれたモモ肉。タレの味がしっかりと染み付いている。ひとつ口に入れてはビールを流し込む。その無限ループ。
それらが仕事で疲れたコウタロウの身体に染み渡る。
普段の仕事の疲れ、甥っ子たちへの気疲れ、久々のアルコール。
それらすべてが重なりあって、コウタロウは気づけばリビングのソファーで眠りについてしまっていた。
「ねぇ、コウくん」
「んあ、ルイ?」
ぼやけた視界。
そこにルイの声が聞こえる。
視界が晴れてくる。
「どうしたんだぁ?」
コウタロウは酔いが残っているのか、ろれつがうまく回らない。
「こんなところで寝ていると風邪引くよ」
呆れたようなルイの顔。
思わず。
思わずコウタロウの手が伸びた。
ルイの頬をつねる。
「ど、どうひたの?」
「ん~」
お酒でぼやけた視界。
顔を近づけてルイの顔をまじまじと見る。
ほっぺももちもちだわ。
若いころはスキンケアなんか気にもしていなかったけれど、三十という大台が近づいてくると自分の肌質が変わってきたのを明確に自覚してしまう。なんですぐに乾燥しちまうんだろ。
それにしても同じ血が流れているとは思えないぐらい美形だな。
幼さの残る全体的に丸いパーツが中性的な雰囲気を出している。
「ちょ、ちょっとコウくん」
見つめていると、どんどんルイの顔が赤くなっていく。
そんな話は聞いたことないけれど、学校でも女子にモテているんだろうな、と酩酊状態の頭で考える。
なぜだか、コウタロウの中にモヤっとした感情が生まれる。その感情のままにさらにほっぺをこねくる。
「このやろう、学校でも告白とかされてんだろ」
「酔ってるの?」
「おら、どうなんだ。この、この」
「ひゃ、ひゃめてぇよ」
「俺が女だったら、家事もできて、勉強もできて、顔もいいときてんだからコロッといってんなぁ」
そんな酔っ払いの戯言にルイが反応する。
「本当?」
「んぁ、ああ、本当だとも」
「僕も」
「僕も?」
「僕も女だったら、コウくんは優しくて、頼りがいがあって、好きになっちゃうよ」
「……」
そう言うルイの表情があまりに色っぽくて思わずコウタロウは惚けてしまう。
その隙にコウタロウの腕からルイは抜け出す。
「ちゃんと布団で寝てね。大人なんですから」
「ん、あぁ」
「おやすみなさい」
「あぁ」
部屋に戻っていくルイに間の抜けた返事を返す。
頼むから姉ちゃん、早く帰ってきてくれ。
年の差が良いです。まだまだ若者気質のアラサーと小悪魔な中高生の感じ。
文章練習と、シチュエーション構築の練習を兼ねて以上のような作品を不定期に掲載します。よければブックマークや感想を頂けると嬉しいです。




