魔術院院長のアルク様と騎士団団長のヴァン様
「おい、アルクっ!」
アリストリア王国魔術院の研究室にひとりの騎士が怒鳴りながら押しかけた。
「なんだい? ヴァン。王国騎士団団長のヴァン・クリストフ殿」
突然の来訪者を、研究室の主は皮肉な笑みを浮かべて出迎える。
「なんだい、だと! 全部お前の所為だろうがっ!」
「貴族子女たちの憧れたる騎士団長殿がそのようにカッカッしては、彼女たちの冬至の花畑のようなヴァンに対する虚像を台無しにしてしまうじゃないか」
「何が冬至の花畑だ。冬に花は咲かんぞ」
「ありもしないこと、ということさ。どうやら婦女子諸子は君のことを紳士で優しい騎士様と思っているようだからね」
「私がこのように怒鳴るのは貴様に対してのみだし。私が怒鳴るようなことをするのも貴様のみだ」
「おやおや、僕は特別扱いというわけかい? それは嬉しいね。光栄の極みだよ」
アルク・ルプラー。王国魔術院院長を務める彼は他の者ならば、身をすくめて泣き出してしまいそうなヴァンの怒気を前に、悠然と微笑んでいる。
対する王国騎士団団長のヴァン・クリストフは、そんなアルクの態度にますます苛立ちを強めていく。
王都でも色々な意味で有名な二人である。
王都を警備する騎士団の団長を務めるヴァンは老若男女問わず人望が高く、彼に淡い恋心を募らせる子女のなんと多いことか。
誰に対しても分け隔てなく接する心優しき騎士。
その白甲冑からついた渾名、王国の白騎士、と言えば王都外の他領地でも噂になるほど。
そんな普段の様子からは想像できないほどの怒りを向けられている相手、それが王国内で魔術研究を務める魔術師たちのトップである魔術院院長。
日夜魔術院に籠り、未知なる魔道への追究を行っている彼に対する人々の感想はヴァンとは正反対のものだ。
冷酷無比。人体実験を行い。悪魔とも契約をした男。
様々な流言飛語がアルクに関しては飛び交っている。
「お前が寄越したこの薬だっ!」
「あぁ」
アルクはヴァンが取り出した飲みかけの薬瓶を見て、ニヤリっと笑う。
「どうだ? かなり効いただろう」
「ぐっ」
「団長殿。君の要望だろう? 活性化薬だ。どんなに体力が尽きようとも動けるようになる薬。それはその試験薬さ」
アルクの視線がヴァンの一か所に向かう。
「くくっ、その様子だとどうやら効きすぎたようだな」
「ぬぅ」
「おっと」
ヴァンがアルクの胸倉をつかむ。
「お前、わかっていて」
「副作用さ。どうやら精力剤としての機能もあったようだね」
「あったようだ、ではない。これのせいで訓練もままならん」
「ふぅん。ならば発散すればよいだろう。乙女のあこがれ白騎士様だ、一夜の情事の誘いに群がる蝶は多いだろうに」
「……ないのだ」
先ほどまでの、怒鳴り声から声を落とす。
「ん?」
「……イケないのだ」
「あぁ」
アルクの瞳が細くなり、妖しい光を放つ。
「そうかい。あぁ、それは苦しいだろうね」
「お前が私の身体を辱めたのだろう!」
「おやおや、白騎士殿それはそれは。それでこの僕に何を? 残念ながら解毒薬を作れと言うのならそれは構わないけれど、数日は掛かるよ」
「わ、私の……」
「くくっ、私の?」
「私の……ことを……その」
「すまないね。僕もこう見えて魔術院院長として忙しい身の上でね。解毒薬は作っておくよ。できたら連絡をしよう。君も自室で休んだらいいよ」
まるで肉食動物が、獲物を甚振るようにアルクはヴァンを睨めつける。
ヴァンは、いや乙女たちの憧れたる白騎士は魔術院院長アルクの前に膝をつく。
すでに限界をむかえていた彼は潤んだ瞳で、アルクを見あげる。
そんな姿にアルクの中の被虐心が刺激された。
「えぇ、えぇ、いい光景ですね。ですが僕も立場ある者です。無理矢理にとは、ね」
ヴァンはアルクの膝に縋り付く。
「アルク、私のことを好きにしてくれ」
そんなヴァンの言葉にアルクは暗い欲望を滾らせる。
(ええ、あなたを染め上げるのは僕ですよ)
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