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僕らの毎日  作者: 目黒市


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優等生の聖くんと大学生の三枝さん

 Side三枝


 駅前の大型商業施設内の書店でバイトを始めて半年。

 元々本が好きで、通っている大学でもイギリス文学を専攻している。時給は大学の友人たちのやっている居酒屋などと比べると、少々いやかなり低いかもしれないが、社員割と本に囲まれて働ける、という点が俺を魅了した。


 光琳書店。

 関東圏内に数多くの店舗を有する書店チェーンで、俺の地元にもあった。しかしここの光琳書店は近隣に大学や高校が多いからか学術書の品揃えが充実している。

 岩波文庫だけで棚をふたつも使っているのだ。


 もちろん仕事中は本を読むこともできない。

 ただひたすらレジ内で、大量入荷した海賊漫画や、鬼狩り漫画をシュリンクがけする。

 レジ横に設置されたモニターから、映画化された小説の宣伝が繰り返しループされている。


 今日は生憎の雨。

 ただでさえ客足の少ない書店内は閑古鳥が鳴いていた。

 店長も本社で会議らしく、店舗にはいない。

 いくら暇でもレジから離れるわけにもいかず、ただただ時間が過ぎるのを待つしかない。


「こんにちは」


 呆けていたら、お客さんが来たようだ。

 慌てて顔を上げると、見知った顔がいた。


「あぁ、聖君か。この間はありがとうね」

「いえ、たまたま拾っただけですから」


 来店したのは、近隣の私立高校の制服に身を包んだ少年。

 自分もついこの間まで高校生だったのだが、それでも大学生になった今、この少年の幼さや瑞々しさが自分から失われたことを様々と感じる。

 少年の名前は聖ショウト。

 ちょっとした出来事で知り合ったのだが、それ以来こうしてお店に来た時軽く挨拶を交わす仲になった。

 先週も落としたキーケースを拾ってくれて大変助かった。


「これ、お願いします」


 聖くんは文庫本を一冊レジに出す。

 ミステリはあまりよく知らない俺でもその名前を知っているミステリ作家。文庫版の全集で確か三十巻ほど出ていたものの一冊だ。


「集めてるの?」

 

 ブックカバーをつけながら聞くと、聖くんは苦笑しながら首を振った。


「いいえ。有名な短編はいくつか読んだりしたことはあったんですけれど、たまたま内容を知って読みたくなったんです」

「へぇ。はい、お釣り」

「ありがとうございます」


 聖くんは文庫本を大切そうに、学校の校章が入った鞄にしまうと小さく会釈して帰っていった。

 俺はそんな彼に小さく手を振って見送った。


 

 Side聖


 四両目。

 進行方向寄りのドア脇の席。

 そこが電車に乗る際の僕の定位置です。

 電車は自宅のある最寄り駅とは反対方向に進んでいきます。

 三駅ばかり行ったところで降ります。

 ここ一年毎日のように来ているからでしょうか。もう駅周辺の地理は大分詳しくなったと思います。

 たとえば駅前のスーパーです。

 ここで将来、僕はあの人と買い物をするのでしょうか。

 それはとても良い未来です。

 いけません。

 時間がありませんので、仕事を先に片付けましょう。


 駅から徒歩十分。単身者向けのアパート。そこが三枝さんの住まいです。

 郵便受けをまずは確認します。

 不在伝票とチラシが数枚だけですね。

 不在伝票を見てみましょう。

 三枝ユウサクさんからのお荷物。ユウサクさんは三枝さんのお父様ですね。どうやらご実家からのお荷物。


 鍵を開けて部屋の中に入ります。

 鍵に関しては、三枝さんがキーケースを『落としてしまった』ので、その際に合鍵を作っておきました。


「すぅー」


 ワンルームの部屋の中。そこには三枝さんの香りが充満しています。それを体の中に取り込みます。

 狭い部屋の中は本棚が大半の割合を占めています。さらに収まりきらなかった本が床の上に積み上げられています。


「新しい本は無いようですね」


 この部屋の中の本はすべて写真にとってリストにしてあります。

 もちろん後から読むためです。

 三枝さんと同じ本を読んで、あの方がこの本を読んでどんなことを想ったのか。そんなことを想像してめくる頁はとても愛おしいのです。

 そして読み終えて、僕を形成する一部となるのです。

 僕という人間を形成するモノと、三枝さんを形成するモノが同じというのはとても素晴らしいことです。

 それに三枝さんのXアカウントは把握済みです。三枝さんはXに感想をあげています。その感想を読んで、僕自身の感想が三枝さんの感性に近づいているのを感じて、嬉しくなるのです。

 これは精神的性交と呼んで差支えがないかと思います。


「はぁ」


 大学のサークル旅行の写真が飾ってあります。

 これは昨日なかったものですね。


 この女性は確か、山中リンだったでしょうか。

 なぜ、三枝さんの隣に立っているのでしょうか。

 このアバズレ女はなぜ存在しているのでしょうか。

 醜い女がなぜ、三枝さんの写真に納まっているのでしょうか。


「いけません」


 こんなことをしにきたのではありません。

 掃除を始めましょう。

 小説類が乱雑に置かれているけれど、それ以外は綺麗に片付けられています。なので掃除と言ってもエアコンや棚の上の埃を払うぐらいです。

 他にも夕飯の支度等もしてあげたいのですが、それはまだできません。

 三枝さんの気が回らないところを掃除して差し上げるのにとどめます。


 仕上げに布団にコロコロをかけ終わりです。


「あっ」


 イケナイ考えが頭をよぎります。

 枕に顔を埋めてみます。

 三枝さんの香り。

 シャンプーの香りと汗の香りが混ざった匂い。


 あぁ、とても幸せです。


 しかし楽しい時間とは早いものです。

 そろそろ三枝さんのバイトも終わりの時間です。

 僕は忘れ物がないか、確認してから部屋を後にしました。



 

「おかえりなさい、三枝さん」


 アパート向かいの喫茶店でコーヒーを飲みながら、先ほど購入した文庫本を読んでいると、仕事を終えた三枝さんが帰宅してきました。

 その三枝さんを見届けて、文庫を閉じて立ち上がります。

 また明日、お掃除しますね。


 読んでいただきありがとうございます。

 ちなみに、聖くんの買った本は光文社の江戸川乱歩全集の第四巻です。

 私は乱歩は地獄の道化師が好きです。ドラマ版をソフト化して欲しいです。

 ↓の評価や、ブックマーク、感想等々していただけると私が頑張ります。

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