王子の東くんと演劇部の佐多くん、と新入部員の林くん
見てる。
「……」
すっごい視線を感じる。
がっつりとこちらを見ている。
視線の主はわかっている。
ちらりと背後を窺う。
ほらっ、いた。
林ミツル。
時期外れの新入部員。中学時代はバスケ部だったらしく背も高い。あれってなんなんだろうな。バスケ部だからデカいのか、デカいからバスケ部なのか。まさにコロンブスの卵。
ダメだ。ダメ。関係ないこと考えて現実逃避している。
演劇部の部員としては部員数も増えて嬉しいことなのだ。
手足も長く、舞台映えすることだろう。
舞台度胸もあるようで、下校時間に行う校門前での発声練習も恥ずかしがらずにやっている。
体育会系由来の後輩力が他の部員たちからは、大型犬みたいよね、と評判もいい。
「はぁ、本当は喜ぶべきことなんだろうけどな」
素直に喜べないのだ。
理由は明白。
あの姿を見られたからだ。
文化祭で女装をした際に僕は、同級生である東に弱みを握られ、それ以来あいつのおもちゃとして女装させられていた。
そんな女装していた姿を林に見られたのだ。
林はそのことについて何か言ってくることはない。
こちらから言うわけにもいかないし、かといって気にしないでいるには、林がこちらをこうしてじっと見てくるのだ。
何も言わない。けれど気づくとこうしてこちらをじっと見ている。
うぅ。
針の筵ってこういうことを言うのか。
「何をうなってるんだ?」
不思議な後輩に頭を悩ませていると、よりこちらを悩ませてくる元凶が現れた。
「あ、東」
「やぁ、佐多。ホームルームぶりだな」
同じクラスの東。通称学園の王子。
この男に関してはこの渾名がすべてを物語っている。
もし僕の顔が数あるプリセットの中からランダムで選んだだけであるならば、この男の場合は神様自らキャラクリに何時間もかけた傑作といったところだ。
ほらっ見ろ。
女子部員たちが一斉に身だしなみを整え始めた。
特筆すべきは副部長だ。「男よりも演技を磨くことしか興味ないの」と言って憚らない副部長も、チラチラ東を盗み見ながら前髪を撫でつけている。
「はぁ」
この倒錯男のどこがいいんだ?
東の顔を見上げる。
うっ、確かにイケメンだ。
だけど、そう、男の、男である僕からすれば、嫉妬とかそんな感情ぐらいしか浮かばないんだ!
本当だぞ。
「なんだ。俺に見惚れているのかな?」
「ばっ、はぁ? このナルシス野郎」
こいつは人に女装させて楽しむ倒錯趣味だけじゃなくて、超ナルシストだ!
誰が! 誰に見惚れるんだよ!
「で、なんでお前がいるんだよ?」
「なんでって姫がいるところには王子が必要だろ」
「馬鹿にしてんのか」
揶揄うのが楽しくてたまらない、と笑う東を睨みつける。
すると脚本係の文芸部員と打ち合わせをしていた部長がこちらにやってきた。
「俺が呼んだんだよ。来てくれてありがとう東王子」
「王子は辞めてくださいって」
「ちょっともしかして今度の劇の相手役って」
「そうだよ。演劇部創部十周年目の文化祭特別公演はやっぱりみんなに見て欲しいからね」
「いやいや、こいつ部外者だし。部外者に主役やらせるんですか?」
僕の言葉に部長は「いいんじゃない?」と答えた。
それでいいのか演劇部。
「最初の予定だと田丸先輩が主役ですよね! 田丸先輩はいいんですか、こんな奴に」
主役をやる予定だった田丸先輩までも「盛り上がるならなんでもヨシっ!」とサムズアップ。
本当にそれでいいのか演劇部っ!
ヒロイン役だった副部長は、と言おうとして視線を向ければ、ダメだこりゃ、完全に乙女モードになってる。
「あっ、そうだ伝え忘れてた」
部長がニッコリと笑う。
えっ、なんか嫌な予感がするんだけど。
「ヒロイン役は佐多くんに変更だから、ヨロシクぅ~。俺はまだ脚本の打ち合わせあるから」
「部長っ!」
僕がヒロイン役⁉
「部長さんから出演依頼来た時に出演の条件として俺が提案したんだよ。だから部長さんは責めないであげてくれ、な」
「おまえぇえ」
東がいい笑顔を浮かべて僕の肩を叩く。
「というわけで」
東が両手を挙げ、声を張る。
他の演劇部員たちの視線が東に集まる。
普段から注目されているだけあって、物おじしないどころか、注目の集め方を心得ている。
「みなさん、今日から文化祭までの五カ月ほどお世話になる東です。いい劇になるよう努力するんで、よろしくでーす」
パチパチ、と拍手が起こる。
えっ、みんな歓迎ムードなわけ? 男子の先輩たちはいい劇になるなっとか頷いているし、女子の先輩たちは、うん、言わずもがなだ。
誰か、誰か僕の味方もとい、常識的な演劇部員はいないのか?
これではスポンサーの意向のままに原作とは程遠いアイドルを起用する作品だ。
「俺、主役に立候補したいっす」
おおおっ! それでこそ演劇部だっ! そうだ、顔がいいだけのこんな男に演劇部の晴れ舞台を奪われてはいけないぞ。さぁ女子部員たちも男にヒロイン役奪われていいんですか。奪いに行きましょうよ。
とにかくその立派な立候補した部員は誰だ?
背後から声が聞こえたけれど。
ん? 背後?
「佐多先輩がヒロインやるんなら、俺も主役やりたいっす」
「は、林くんっ」
林ぃいいいっ!
お前かよ。
よりによってお前か。お前なのか。しかも僕がヒロイン役は決まりなのかよ。お前もこの倒錯ナルシストと同じ倒錯趣味持ちなのか。
「へぇ」
「えっ?」
隣の東から冷たい声。
顔はいつもの学園の王子モードの微笑みだが、声は何というか怖い。怖いぞ東。
「君、一年生だよね」
「はい、一年の林です。先月はどうも」
「あぁ、そういえばあの時の。ごめんね、興味ない人の顔を覚えるの苦手なんだ」
うわぁ、やめてくれ。
先月ってあれだよな。資料準備室で僕の女装姿を見た日のことだよな。
「せっかく立候補までして申し訳ないけれど、部長さんからの推薦で来てるんだよね。それに君」
「林です」
「君って新入部員だろ。彼って演技できるの?」
東が僕に問いかける。
「いや、まだ発声練習とかしかしてない、けど」
「ふぅん」
得意げにしているけれど、お前だって素人じゃん。
「目立ちたがりってわけじゃないんだろ。それとも演劇部員として素人は認められないとか?」
東が目を細める。
問われた林の視線が泳ぎ、僕の方に向く。
僕?
「そ、そんなところっす」
「……」
東までもが僕に視線を移す。
「はぁ、さっさと俺のものにしちゃえばよかった」
ぼそり、と東が呟いたが小さくてよく聞こえなかった。
「あ、何か言ったか?」
「ん? 何も気にしないでいいよお姫様は」
「ちょっ、近いっすよ東さん」
どうするんだよ。収拾つかないぞ。誰でもいい、こいつら以外で誰か立候補してくれないのか。
すると、東がいいことを思いついた、と手を叩く。
嫌な予感しかしない。
こいつの満面の笑み。
「佐多っ」
ほら、東の顔が近づく。近い、近い。
「佐多が決めてくれよ。ヒロインなんだから、誰と演技したいか君が決めてくれ」
「はぁあああああっ!」
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