叔父の相馬さんと甥っ子で風邪の三森くん
「んぅっ」
うなされて目を覚ます。
どれくらい寝ていたのかな。
今朝飲んだ風邪薬がよく効いていたみたいだ。
時間を確認しようと、枕元のスマホに手を伸ばす。
時刻は昼過ぎ。先月から通い始めた高校では午後の授業が始まったぐらい。
昔から体がそんなに強くはなかった。新しい生活で張っていた気持ちが緩んでしまったのだろう。それだけ学校や私生活に安心しているということなのかな。
スマホの画面にはクラスメイトからのお見舞いメッセージを告げる通知が多数ある。
メッセージアプリを開いて、目を通す。今は授業中だろうから、後でお礼を送っておこう。
嬉しい、と同時に休んでいることへの罪悪感みたいなものも湧き上がる。
家には誰もいない。弟は小学校へ。家主である叔父さんは仕事に出ている。
「ふぅ」
多少は薬のおかげで楽になっているが、熱のせいか怠さもある。それに喉も痛いし、鼻も詰まっている。
朝、軽くゼリー飲料を口にしただけ。お腹は空いていないが何かお腹に入れて薬を飲まないと。しかし体は言うことを聞いてはくれない。
平日の昼間。誰もいない家。寂しさがこみ上げる。きっと風邪で気持ちが弱くなっているんだ。高校生になったというのに、まるで幼い子供のように泣きたくなってしまう。
「っ!」
布団の中で丸くなっていると、スマホが鳴る。
「コウくん?」
画面には仕事に出ている叔父の名前が出ている。
スピーカーモードで通話をとる。
「もしもし」
『ルイ大丈夫か? 起こしちゃったか?』
叔父の声。
外なのだろうか、彼の背後で車の音がしている。詳しい仕事の内容は知らないけれどデスクワークっと言っていたからわざわざ時間を作ってくれたのかもしれない。
「どうしたの?」
『いや、風邪どうかなって。それと』
叔父の声の暖かさを感じるようにスマホを手で包む。
『やっぱり風邪の時ってなんか心細いからさ』
「僕もう高校生ですよ。そんな子供じゃないんですから」
本当は心細かった。
けれど虚勢を張る。
『ははっ、そうだよな。ごめんな。今日は早く仕事終わるから、帰りにまたゼリーとか買って帰る。ミナトの夕飯とかも俺が用意するからお前は気にせずゆっくり休むんだぞ』
「うん」
『そしたら、仕事に戻るよ。何かあればすぐに電話してくれよ』
「大丈夫。……ありがとう」
通話を終えたスマホを枕元に戻す。
心細かったのに、今はその心が苦しいくらいに膨れ上がったように感じる。
不器用だけれど、とても優しい人。
大人ってなんでもできて、すごい人だと幼いころの僕は思っていた。先生や両親は僕のように悩んだり、諦めることだって上手なんだって思っていた。
だけどそんな大人と叔父さんは違っていた。
わがままなところも、自分にちょっと甘いところも、だらしないところも、隠さない人。だけれど、こうして僕が心細さを感じている時に寄り添おうとしてくれる人。
僕がそんなことを言えば、きっと叔父さんは微妙な顔をしそうだけれど、そんな叔父さんの在り方が僕は好きなんだ。
部屋の中に残っているかもしれない、叔父さんの声の残響を探すように目を瞑った。
また寝ていたようだ。
「起きた?」
叔父さんの声。仕事から帰ってきたばかりなのか、スーツ姿でコンビニの袋を持った叔父さんが立っている。
半透明のビニール袋からは冷却シートとゼリー飲料、栄養ドリンクが見えている。
「また買い物袋失くしたんですか」
「うっ、いや、それは」
「それにまたコンビニ。ドラッグストアで買った方が安いんですから」
嬉しい気持ちを隠すように小言を並べる。
叔父さんは頭を掻きながら、コンビニ袋から商品を取り出してサイドチェストの上に並べていく。
「そういうところは姉ちゃんに似ているな」
「親子ですからね」
ベットの上で上体を起こす。
午前中よりは熱も下がっているようだ。手近の体温計をおでこにあてる。微熱ほどに下がっているみたい。
「他に何か欲しいものとかある?」
「大丈夫です。ありがとうございます」
「そっか。何かあれば頼ってくれよ」
叔父さんが部屋を出ていこうとする。
「あっ」
気づいたら僕はその手を握って引き留めていた。
「どうした?」
「その……少しお話ししたいです」
「ん? あぁいいぜ」
不思議そうに首を傾げて叔父さんは椅子に座った。
他愛ない話をした。
学校のこと。叔父さんの学生の頃の話。
なんだか叔父さんといると、また少し熱が上がるのを感じる。
だけど、そこに昼間のような寂しさや辛さはない。
心地よい暖かさに、気づけばまた目を閉じていた。
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