第6話「危険!ぶどうジュースに注意!」
第6話「危険!ぶどうジュースに注意!」
「クリム、詳しくキーターのこと教えろよ」
ツインズキーターの片割れ、ミミがシュガリーナに帰ってから、空はキーターは何者なのか考えていた。
「なんだっけ?“アニキーター”と“アネキーター”だっけ?ツインズの他にいるの」
クリムは空の部屋の中をくるくる飛び回り、クッションにダイブした。
「そうだよ!キーターは元はお菓子の妖精だけど、お菓子を食べ過ぎちゃって狂っちゃうんだ!それがキーターだよ!」
「へ、へぇ……」
「お菓子の食べ過ぎで糖尿病になっちゃうんだ!」
「絶対違う、それ、絶対違う!」
糖尿病であんな危険な症状は出ない。
少なくとも、人間は!
「あ、でもさ…」
空はラメールを思い出しながら口を開く。
あんなに強いラメールだ。
キーターなんか、何人もシュガリーナに帰しているに違いない。
「俺なんかいなくても、ラメールがキーターを戻してくれんじゃね?」
クリムは静かに首を振る。
「キーターを戻すには、バームクーヘンステッキじゃないとダメなんだよ」
「え…マジか…」
考えてみればそれもそうだ。
ラメールはかなり前から魔法少女らしいから、組織を総動員してキーターなんか一網打尽だろう。
「でも、ミミをやっつけた時は鮮やかだったよ!あんな感じで今後もぶん殴ろうね!」
「人ぶん殴るのに抵抗ありまくりなんだけど…」
そう言いかけると、空はある事を思いつく。
「あ!ならさ、俺のステッキをラメールに使って貰うとか…。ほら、ぶん殴るの抵抗なさそうだし?」
「ダメだよ。ステッキは作った本人しか使えないんだよ!」
それを聞いて、空はガックリ肩を落とす。
すると、1階から悲鳴が聞こえてきた。
「キャーーー!!!」
「!母さん!?」
空とクリムは急いで母のいるキッチンへ向かうと、有り得ない光景に絶句した。
蛇口から紫の液体が出ているのだ。
「これは……」
甘い匂い。
またキーターか…。
「これ、ぶどうジュースだよ!おいしいよ!」
「うわっ、そんな危険なもん飲むなよ!」
味見をしていたクリムを咄嗟に手で掴んで、蛇口から離す。
すると、先程はなんでもなかったシンクが少しずつ黒く変色していった。
空とクリムが戸惑っていると、壁の向こうから「カツ、カツ…」と規則正しい足音が聞こえた。
リビングに現れたのは、分厚い丸メガネの幼児園児。
薄紫の髪がふわりと揺れ、無表情のまま一歩ずつ近づいてくる。
「……ミミちゃん、どこ…?」
その声は小さく、しかし確かに寂しげだった。
少年は手に持ったキャンディ型端末を掲げると、空中にぐるぐると数式が描かれ始める。
「ミミちゃんの反応……なし。
周辺環境スキャン、開始……糖度反応レベル、低。よって……」
その場でくるりと振り向き、蛇口に向かって指を鳴らす。
「甘さ、足りない。
ぶどうジュースで、感度補正を実施」
次の瞬間、シンク下からドクドクと紫の液体があふれ出し、壁や床の隙間からもじわじわとぶどうジュースがにじみ出してくる。
「感情誘導型捜索アルゴリズム《スイート・ブレイン》起動中……
ミミちゃんが泣いてるなら、きっと“甘さ”で戻ってくるはず……」
空は背筋に冷たいものを感じた。
「やばっ、家中ぶどうジュースまみれになりそうなんだけど!!」
クリムが耳元で叫ぶ。
「空くん、あれはツインズの弟、ムムだよ!ミミがいなくなって、おかしくなっちゃってる!元からおかしかったけど!
本気で“甘さ”で世界を埋める気だよ!!」
ムムはくるりと空を振り返ると、無表情のままこう言った。
「君、ミミちゃんを知ってるね?
ミミちゃんのクリームの匂いがするよ。
どこにいるの?隠してるの?」
背後では、食器棚がぶどうジュースで変色し始め、金属部品が糖分で腐食して崩れていく。
気絶寸前の母を横目で確認し、空は急いで外に出る。
「空くん、お母さんが危ないよ!」
「大丈夫!ムムはミミの匂いがする俺を狙ってる!どこかで変身しないと…」
キョロキョロあたりを見回し、路地に立っている電柱に隠れる。
「外で変身するのは気が引けるけど…!」
空が光に包まれる中、偶然に犬の散歩をしていた女性が通りかかる。
「わんっ!わんっ!」
「どうしたの?」
女性が犬が吠えている方を見ると、顔に光のモザイクがかかった全裸の男性…。
「きゃーーーー!!!」
一目散に女性は犬を連れて逃げていったが、その後、変質者が出たと話題になったのは別の話である。
変身を終えた空は羞恥心でいっぱいだったが、自分を追いかけてくるムムを確認し、戦闘が予想されるため広場を目指す。
「クリム!メロとかに連絡取れないの?」
「取れるよ!わかったよ、メロが言われてグッときちゃうセリフ、教えて貰うね!」
「ちっがーーーーう!!!」
息を切らしながら広場につくと、空はムムに向かって笑顔を向けた。
「このキャンディあげるから…!きょ、今日は俺と宇宙船ごっこ……し…ようぜ!」
空は拳を突き出してムムを誘惑する。
もちろん、台詞はAIで生成したものだ。
……が、息が整わず技は不発に終わる。
「キャンディなんか持ってないでしょ。その拳の中からはカロリーの気配がしないよ?」
「うっ………」
空はクリムにコソッと告げる。
「時間稼ぐから、メロに連絡してラメール連れてきて!」
……しかし、時間稼ぎといっても何をすればいいか…
「そ、そうだ!カロリーゲームしよう!」
「カロリーゲーム?」
「そ、そう!待ってね、ルール調べるから!」
空はスマホを取り出し、AIにこう告げる。
「『カロリーゲームのルール教えて!』」
果たして、そんなゲームはあるのか…?
空は頭の中が真っ白になっていた。




