第32話「魔法少女、やってます」
第32話「魔法少女、やってます」
一瞬、時間が止まった。
アネキーターは崩れ落ち、海も騎馬から転げ落ちた。
「カイさんっ!」
陸は空を連れて、すぐに海の元へ降りていく。
海が召喚したどら焼きの兵隊も、陸が召喚したチョコレートの騎馬も、今は跡形もなく消えていた。
海は腕を伸ばし、アネキーターの髪を鷲掴みにすると、立ち上がってその首を掲げた。
「うおぉぉぉーーー!!!」
海が雄叫びをあげると、そこにいた全ての人が雄叫びをあげる。
「やった!カイさん、勝った…!」
陸はふらつきながら、その場にしゃがみ込む。
その時、アネキーターの体と首は灰になり、風に吹かれてサラサラとなくなった。
………終わったんだ…。
「魔法少女のみんな、お疲れ様!
シュガリーナから逃げ出したキーターはこれで全部だよ」
クリムが言った。
「もう、危険な戦いはしなくていいのだわ!」
メロが言った。
「ステッキを回収するですー……」
ティルだけは、寂しそうに言った。
「僕とメロはシュガリーナに帰るよ!」
「え?ティルは?」
クリムの言葉に、空が問いかけるとティルが言った。
「ティルは規則違反をしているから帰れないのですー」
「ごめん。ボクのせいだね…」
「そんなことないです!りっくんと同じ気持ちだったんですよー!」
ティルと陸の会話で、少しは察しがつく。
きっと、ティルの規則違反とは……
「ステッキの再利用は禁止されてるんですー」
そう、陸がティエラヴァニリィになる前に使っていた、花ちゃんの形見のホールケーキステッキのことだ。
「でもよ」
海がタバコに火をつけながら口を挟む。
「今後、キーターが現れない保証はないんだろ?なら、ステッキは渡せねぇな。
いいじゃねぇか、ティルがいるんだ。
魔法少女はこれからも活動しようや」
スイーツ部隊の黒スーツたちも口々に言った。
「キーターのような非常識な奴ら、お偉いさんがたの手には追えねぇ。
俺らみたいな裏社会の人間も必要だ」
(裏社会って言ったーーー!!てか、魔法少女も裏社会の人間扱いかよ!)
空は内心でツッコミながら、ふと疑問を口にした。
「あれ…?妖精いなくても変身できるの?」
「うん、できるよー!」
クリムが相変わらず能天気な声を出す。
「ステッキがあればできるし、ステッキを回収するかどうかは魔法少女の自由だよ!
でも、妖精が魔法少女を管理しなくちゃいけないんだ」
「ティルはシュガリーナに帰れないから、管理役にちょうどいいのよ。
ティルに魔法少女たちをお願いするのだわ!」
スイーツ部隊の働きのおかげで、河川敷も元通りになった。
クリムとメロがシュガリーナに帰って1か月。
その場に流され、返し損ねたバームクーヘンステッキは空の手元にあった。
「空くーん。キーターが残していったポテチ戦士が走り回ってますー」
ステッキからティルの声がする。
どうやら、ステッキ同士で連絡がとれるようだ。
「おおー、変身したら行くー」
あの時、ステッキを返さなくてよかったのかもしれない。
そうじゃなきゃ、せっかく仲良くなった陸と、こうやって戦うことももうないのだから……。
「カイさんのスイーツ部隊が先に通行止めしてますー」
「え……早っ!」
……カイさんと関わるのは、正直もう嫌だったが、あの人がいなければ町はめちゃくちゃだろう……。
「空くん!こっち!」
陸とティルが空を迎えると、ポテチ戦士と先に戦っていた海と合流する。
「よし、今日も張り切って魔法少女すっか」
空と陸は、ゆるーい感じに拳を突き上げ、ポテチ戦士に向かい合うのだった。
「ポテチだろうがかりんとうだろうが、手ぇ抜くんじゃねぇ!シャキッとしろ!」
海には怒られてしまったが。
その日の夜、新たなキーターが逃げ出したと、クリムが空に泣きついてきたのはまた別の話である。




