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第3話「魔法少女とヤのつく自由業」

第3話「魔法少女とヤのつく自由業」


「きゃーーーーー!!!」


渋い浴衣ドレス男の出現で、ツインズは一目散に逃げていった。


「魔法少女怖いーー!!」


「ラメールビター怖いーー!!」


二人が去っていった空き地に佇み、男はタバコを取り出すと、ようかんステッキをライター代わりに小さい火をつけ、ゆっくりと煙を燻らせる。


「相変わらず逃げ足の速いお子様たちだぜ」


空もどさくさに紛れて帰ろうとするが、クリムが余計なことを言い出した。


「同じ魔法少女だね!挨拶しなくちゃダメだよ!」


「え!?嫌だよ、なんかおっかねぇし!」


男は見るからに一般人の男性とは異なっている。

醸し出す雰囲気、佇まい。

極めつけは、ギャップのあり過ぎるフリフリ浴衣ドレス。

「可愛さ優先」の魔法少女なのだから、衣装は仕方ないのだが…。


すると、ふいに可愛らしい声がする。


「クリムお兄様…お兄様なのよ?」


そこには、クリムと同じく手のひらサイズのタオル地でできたぬいぐるみのような猫がふわふわ浮いていた。


「メロフローナ!」


メロフローナと呼ばれたペールグリーンの猫は、ミニチュアに着せるようなピンクの花柄ワンピースを着ている。

二匹…?二人?は抱き合うと、嬉しそうに空中でくるくる回った。


「お兄様!生きていたのね!」


「メロこそ元気そうでよかったよ!」


久しぶりの再会なのかはしゃいでいたが、ふとメロフローナは空に向き直ると、ワンピースの裾を持ち上げて丁寧に頭を下げる。


「ホイプルン・ナマクリム・マキャロス3世の妹、メロフローナなのだわ。“メロ”と呼んでなのよ」


「妹…?」


メロフローナこと、メロを端から端までジロジロ眺めたが、クリムに洋服を着せた色違いのぬいぐるみにしか見えない。


「メロ、紹介するよ!僕のパートナーの“ハニーチェーロ”だよ!」


「あ、どうも…」


空は頭を下げつつ、「そういえば契約とか言われてたのに、契約しないまま変身させられて初陣だったなー…」と、心の中で悪態をついていた。


「本当によかったのだわ…!あの宝物入れにお兄様まで入れられてしまった時は、どうしたものかと…」


……ん?宝物入れにお兄様が入れられて……

って、あの宝物入れにずっとクリムは入ってたのか?

俺が幼稚園の頃から?


「そうなんだ!バームクーヘンという伝説系のスイーツでステッキを作った園児を見付けたと思ったら、すぐに宝物入れに入れちゃうんだもん!」


……………。

俺のせいか。

悪い…とは一瞬思ったが、幼稚園児のしたことだ。

今更悪いとは思わない。


「って、そんな頃からステッキ探してたってことは…」


「そうなのよ。キーターたちがシュガリーナのスイーツを独占し始めた時期なのよ」


メロの説明に、「マジか…」と答えると、空はふと疑問に思う。


「あれ?でも、キーターの存在なんて今まで知らなかったけど…」


「キーターはプライドが高いのよ。失敗したら、恥ずかしいからって被害者の記憶を消しちゃうのよ。

でも、町の被害はそのままだから、ニュースとかでは都市伝説化しているのだわ」


思い返してみると、ネットやニュースで今の被害のような記事を見たことがある。

コメンテーターなんかは、隕石だの、宇宙人の仕業だの言っていたっけ。


「それはそうと、メロのパートナーも紹介するのだわ」


メロはちょいちょいと、タバコを吹かす男を呼ぶ。


「………おふっ…」


男が空の前に立つと更に迫力が…。

空は高層ビルを見上げるように男を仰ぎ見た。

対する男は、地面に生えている雑草でも見るように、空を見下ろす。


(こ、こえぇぇぇ…)


窪んだ目元が鋭く光り、空は思わず内股になる。


「メロのパートナーの“ラメールビター”なのよ」


「………まぁ、“ラメール”でも“ビター”でも、好きに呼んでくんな、坊ちゃん」


ラメールビターにタバコの煙を顔面に吹き出され、空はむせ返る。


「ラメール、脅すのはよくないのよ!」


「へっ、ただの挨拶だろ?」


ラメールはメロの説教を聞き流す。


その時、空き地に唸るような重低音が響いた。


「やっと来たか」


空き地に黒塗りの高級車がゆっくりと角を曲がって入ってくる。

ピカピカに磨き上げられた艶消しボディ。

どの車にも小さく葉が二枚重なった家紋のようなロゴが刻まれている。


車が止まるや否や、糊のきいた黒スーツをピシッと着たサングラス隊員たちが次々と降り立った。


「うわ、うわっ!?え、ちょっ、あれ絶対ヤバい人種じゃん!?」


空が慌てふためいていると、


「あれはラメールの“スイーツ部隊”なのよ。戦いの後処理をしてくれる“スイーツ災害対策合同会”なのだわ!」


メロが説明してくれる。

……が、どう見てもヤクザ集団にしか見えない。


「いつの間にそんな部隊ができたの?」


「ラメールのお仕事の部下たちなのよ!」


そうクリムに答え、メロは誇らしげだ。


(ラメールのお仕事の部下って…ラメールのお仕事ってやっぱ………うん、止めとこう)


空は「ラメールはヤクザ」との結論を出すが、あえて飲み込んで知らん振りをすることに決めた。


そんな中も、隊員たちは無言でテキパキと動く。

金髪リーゼントの男が倒壊したポールを肩で担ぎ、ガタイのいい男が「通行止めで〜す」と言いながら封鎖線を張る。


スイーツまみれの壁には、さりげなく“片付け済”の焼印が押されていく。


「片付け慣れてる…。てか印押してる!?焼き印ッ!?」


「証明済み処理区域なのだわ。行政もこれで黙認するのよ」


「政府も魔法少女の味方なのだわ」と、くるくる回りながら嬉しそうにメロは飛び回る。


隊員の一人が書類をラメールに差し出し、ラメールはタバコをくわえながらサインペンを取り出すと、雑な字で署名を入れる。


「……あいよ。これで“先走った若ぇのの初陣”って処理しとけ」


慣れた手つきで部下に指示を出すラメールは、変身しているのもあってか“ヤクザ”と言うより“マフィア”にも見えた。


「先走った若ぇのって俺のこと!?」


空は自分のせいにされて不満を漏らす。


ラメールが書類を部下に返し、もう一本タバコに火をつける。


「よぉ坊ちゃん。同じ魔法少女なのに、ウチのシマを守れなかったこの落ち度をチャラにしてやるって言ってんだぜ?」


「あ………すみませんでした…」


ラメールに一睨みされ、空は縮み上がる。


「ま、魔法少女のよしみで仲良くやろうや、ハニー」


ニヤッと笑うラメールに、無言でこくこくと頷き、涙目になりながら固い握手を交わしたのだった。

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