第25話「だって、脚が気になるんだもの」
第25話「だって、脚が気になるんだもの」
ある日、茂野邸で緊急会議が開かれた。
静けさ漂う空気が、和室の雰囲気に拍車をかける。
空は居心地悪そうに、座布団の端を触った。
すると、ふと気付く。
「あれ?陸は?」
ティルはいるが、陸の姿が見えない。
性格に難はあるが、あの女子力の高い姿は癒しだ。
女子に縁がない空にとっては、重要な役割なのだ。
特に、カイさんの前では。
ただ、男だと認識させられる度に精神力が削られてしまうが。
「りっくん、あのニュース見てから戻しちゃって…寝込んでるんですー……」
あのニュース?
空が首を傾げていると、
「お腹食べられちゃった変死体が次々見つかってる事件なのよ」
メロがぽつりと言った。
「現場検証に無理矢理参加したんだが…」
「………は?現場検証?」
空は海の言葉に一瞬身動きが取れなくなる。
現場検証?
そんな権限が、海にあるのだろうか?
「いくらでも融通は利くぜ?」
海はタバコに火をつけながら、にやりと意味深に笑った。
「でな、その現場検証で、遺体は臓物だけ綺麗になくなってた。
死因は出血死。
首んとこ、動脈だな。そこに、皮膚を抉るような引っかき傷があんだよ。
動物の爪あとにも見えるし、人間の爪あとにも見える。
そこが捜査を撹乱させてるわけだが……」
海はタバコの灰を落とす。
「だが、あの変死体に似た遺体は昔、見たことがある。
犯人はアネキーターだ」
「アネキーター…」
空は呟くと、アネキーターと対峙した時の、なんとも言えない寒気が甦ってくる。
海はそんな空を横目に見ながら、おもむろに立ち上がると襖を開いた。
「陸とティルはこのヤマ降りろ」
いつの間に来ていたのか、海が襖を開けると同時に、短パンのルームウェア姿の陸が尻もちをついた。
(え、なにその無防備な格好……)
空の思考はアネキーターより陸で一色に染まる。
オーバーサイズのTシャツで肩がずり落ちて、短パンはTシャツの裾ギリギリで、見えるか見えないか……。
(陸は男…、陸は男…)
意識しないよう、呪文のように頭の中で繰り返すが、視線ははっきり陸を捉えている。
「空くんはむっつりだ」
クリムの頭を鷲掴みにし、廊下に飛び出すと、空は庭に思いっきりぶん投げた。
「お兄様は昔からひと言余計なのだわ」
「なむなむー」
……昔からなのか…。
ティルなんか両手合わせて拝んでるし、ぶん投げたのは空だが、少し罪悪感を覚えた。
………少しだけ。
そんな空とクリムのやり取りは見えなかったのか、陸と海は声を荒らげて言い合っていた。
「なんで降りなきゃいけないの?アネキーターは、タイカさんと花ちゃんの仇なのに!」
「それはな、俺も同じだ。
………そうだ、空も降りろ。俺ひとりで充分だ」
そう言って、海は廊下をズカズカ歩いて行く。
(あの危ない姉ちゃんと戦わなくていいの?ラッキー)
空は不謹慎だと知りつつも、安堵する。
陸は海の後を追おうとしたが、メロとティルに遮られた。
「聞いてほしいのよ」
「ボクらが戦力不足って言うんだろ!」
メロに噛み付く陸を、ティルがたしなめる。
「違いますー。カイさんは、タイカさんと花ちゃんと同じくらい、りっくんが大切なんですよー」
ティルの言葉に納得していないながらも、陸は部屋に入り座布団に座る。
「なぁ、陸…」
空はギスギスした雰囲気に耐えられず、なにか言おうとして目が泳ぐ。
(そうだ、カイさんに関することをなにか…)
「陸って…すね毛剃ってんの?肌スベスベ」
なんたる失言…。
(なんですね毛なんだよ!セクハラじゃねーか!)
空は自分の顔を思いっきりぶん殴った。




