第22話「ティエラヴァニリィ」
第22話「ティエラヴァニリィ」
ティエラがマリトッツォの光と布に包まれる中、アニキーターはポカンとそれを眺めていた。
「空くん、今だよ!」
「お、おう!」
アニキーターがティエラに気を取られている今がチャンス!
クリムと頷き合い、強化魔法をかけようとすると、空の肩をずっしりと大きい手が叩いた。
「それは野暮ってもんだぜ」
いつの間に来たのだろう。
変身済みのラメールが空に言った。
スイーツ部隊も一緒に来ており、交通整備などに忙しそうだ。
「変身中はな、見守ってなくちゃなんねぇ。それが矜恃って奴さ」
ラメールがアニキーターにチラッと視線を向ける。
空もアニキーターへ視線を移すと、いつの間にか『魔法少女、変身中につき休戦中』と書いたプラカードを両手で掲げている。
「……。へぇー…変身中は休戦ナンダー」
「空くん、変身中に攻撃したら卑怯だからね!」
いや、お前がやれっつったんだろ…。
空はもれなくクリムを殴りたかったが、ティエラ変身中につき休戦中…。
そうこうしている間に、布がマリトッツォステッキへ少しずつ戻っていく。
最初に現れたのはチョコレート色のパンプス、白いタイツ。
ふわっと白いエプロンと裾にチョコレート色のレースが付いたスカートが広がる。
襟縁にも、チョコレート色のレースがあしらわれ、
肩にかかる白い髪、そして、チョコレート色のリボンカチューシャ。
目を開くと、“フレサ”の時と同じ赤い目のはずなのに、アルビノのような透明感がある。
ティエラはステッキを放り投げて一回転させると、片手で掴んでウインクした。
「ティエラヴァニリィ、ボクの技で寝かせてあげる♡」
「ティエラヴァニリィーー!!」
黒スーツや避難した一般人から歓声が上がった。
確かに盛り上がるところだが…、
確かにめちゃくちゃ可愛いが…!
(“ボクの技で寝かせてあげる”って、絶対永眠だよなーー!??)
空は背筋がゾクゾクして今度は冷や汗が背中を伝う。
「うわぁ!魔法少女って感じ!」
クリムは呑気に手を叩いている。
そして、チラッと空とラメールを見ると、ため息をついた。
一人は魔法少女になりきれない役立たず、もう一人はただの女装したゴツイおっさん。
クリムはヤレヤレと肩をすくめる仕草をした。
(マジこのクソ猫…。比べんじゃねぇ)
空はワナワナ震えているが、ラメールは涼しい顔でタバコに火をつける。
「ティエラヴァニリィか…。“陸”が前についたな。こりゃ負けてらんねぇなぁ…」
ふーっと煙を吐き出す。
「え?名前が前に……?」
そう言えば、ラメールも“ラメールビター”、ビターは苦いと言う意味だから、“海”が前についていることになる。
空はというと、“ハニーチェーロ”。
多分、“チェーロ”が“空”なのだろう。
「ねぇ、なんか意味あんの?」
空がクリムに聞くと、「その時の気分だよ!」と答えた。
「……………」
空はクリムの足を持って振り回す。
「わぁっ!ごめんごめん!嘘だよ!」
必死にクリムが弁解している所に、アニキーターの叫びが聞こえた。
「ティエラヴァニリィ!めっっっちゃタイプ!!」
「わかる!」
空はアニキーターに向き直りながら、クリムから手を離した。
「……空、無理は言わねぇ…。が、陸はなびかねぇぜ?」
「いや、違う!ただ、ティエラが新しい衣装も似合ってるから…!」
タバコの火を足で踏みつけて消すラメールに、空は慌てて否定する。
「空くん……」
「空様……」
クリムとメロが憐れみを含んだ目で空を見てくるが、話を逸らすべくステッキを再び弓矢に変化させ構える。
「なっちゃいねぇ…」
その構えに、ラメールが後ろから空を抱き寄せるように腕を添えて姿勢を直した。
タバコの臭いとおじさん特有の加齢臭…。
空は込み上げる胃酸に耐えながら、涙目になる。
それを見て、ティエラは空の弓矢に向かってステッキを振り下ろす。
「ギガ・レト!」
すると、弓矢が三倍の大きさになった。
空ひとりでは無理だが、ラメールと二人なら引ける大きさだ。
「ギガ…?スイーツ関係なくね?」
「空、あのアコギなあんちゃんに一発喰らわしてやろうぜ」
アニキーターに狙いを定めて、ギリギリと弓を引く。
アニキーターはというと、ティエラに向かって何やら差し出している。
よく見ると、チョコレートでできた花束だ。
(あいつ、ティエラが男だって知ったらショック受けるんだろうな…)
憐れみを感じながら、空はラメールと一緒に矢を放った。




