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「メアリーさん。なにかすることはありませんか?たいくつで身体がなまってしまいそうです。」


 右足を骨折しているからと、一週間ほどベッドで寝たきりの生活を送っていた私はそろそろ身体を動かしたくて仕方が無かった。

 けれど、このユルーリット辺境伯家の人たちは私がベッドから降りることを良しとしなかった。


「ミスティアお嬢様は怪我を治すことに専念してくださいまし。」


 メアリーさんの言葉はいつも同じだ。

 『お嬢様』という言葉がどうにも慣れなくて私は頬を赤くする。なんだかとてもこそばゆいのだ。


「その『お嬢様』というのはやめてくださるかしら?なんだか慣れないわ……。」


「そうですか?ミスティアお嬢様は仕草がとても洗練されておりますので、どこかのお嬢様かと思っております。私が昔使えていた姫様と同じように高貴な佇まいをいつもなされております。違うかしら?」


 メアリーさんはそう言って茶目っ気たっぷりに笑った。


「もうっ。からかうのは辞めてちょうだい。私は記憶がないのだもの。そんなことわからないわ。」


「ええ。ええ。そうでしたわね。」


「そうよ。だから、私もみんなと同じように仕事をしたいの。なんでもいいわ。なんだってするわ。」


「……ですが、ミスティアお嬢様は足を怪我されて……。」


「でも、寝ていたら身体が鈍ってしまうわ。」


「……はあ。わかりました。でも、ご無理はなさらずに……。そうですねぇ、オキニスのお世話とかどうでしょうか?」


 メアリーさんは私の必死の訴えにやっと折れてくれた。

 けれど、メアリーさんに提案された内容に私は首を傾げる。


「オキニスの世話って……それは仕事ではないでしょう?」


 可愛くて美しいオキニスの世話をするのは名誉なことだ。とても仕事とは思えない。

 むしろ、オキニスに傅いてお仕えしたいくらいだ。

 オキニスの高貴な雰囲気にあてられたら誰でもそう思うだろう。


「動物のお世話をすることは立派なお仕事ですよ。ミスティアお嬢様。」


「まあ、そうなの?でも、お嬢様と呼ぶのはよしてちょうだい。私は、ガラでは無いわ。」


「ええ。そうですよ。ミスティアさんも実際にお世話をされたら大変だと思われることでしょう。」


 メアリーさんはにっこりと笑いながらそう言う。


「そうかしら?オキニスの世話をするのはとても光栄なことだと思うけれど。」


「あら、あらあらあら。まあまあまあ。ミスティアさんはオキニスの魅力にすっかり魅了されているのね。うふふ。そうよね。わかるわ。でも、オキニスのお世話もとっても大切な仕事だわ。ねえ、ミスティアさん。オキニスのお世話って何をするか知っているかしら?」


 メアリーさんにそう言われて私は考える。

 思えば、オキニスの世話というが、何をすれば良いのか私には見当がつかなかった。

 

「……櫛でとかしたり、ご飯をあげたり……でしょうか?いえ、それだと仕事が少ないわね……。」


 オキニスのことを思いながら口に出す。

 オキニスの美しい毛並みを梳かすのはどう考えても仕事ではなくて私へのご褒美だ。


「ええ。そうですね。あとは、おトイレのお掃除やお部屋の掃除もですね。あとは、時々身体を洗ってあげましょうね。毎日はダメですよ。猫というのは日光を浴びることで被毛に栄養が作られるんです。それを毛繕いするときに舐め取って必要な栄養を補っているのですから。毎日身体を洗わないこと。でも、ひどく汚れているときは遠慮無く洗ってくださいね。って、ミスティアさんは足を怪我なさっていますから、オキニスの身体を洗うのはまだやめておいた方がいいわね。ああ、それからオキニスと遊ぶのも大切な仕事のうちの一つよ。オキニスを退屈させないようにね。」


 メアリーさんは口早にオキニスのお世話について教えてくれた。

 メアリーさんの口調から、メアリーさんもとてもオキニスを大切にしていることがわかり私はなぜか自分のことのように嬉しくなった。


「いっぱいやることがあるのね。」


「ええ。そうですよ。動物のお世話というのはね、一筋縄ではいかないの。特に動物はしゃべれないでしょう?動物は具合が悪くっても言葉にできない。だから毎日お世話をして、体調を確認するのも仕事よ。」


「以外と大変だわ。」


 言葉を話せない動物の体調を診るなんて私にできるのかしら。

 

「まずはオキニスの世話から始めましょうか。慣れてきたら領地の馬や山羊、羊などの世話もお願いしたいわ。他の仕事がよければ他の仕事を紹介するけど……。」


「ありがとう。オキニスの世話から初めてみるわ。」


 と、言ってもオキニスは人の言葉がわかるのか、こちらの意図を正確にくみ取ってくれるのでお世話はとても楽そうだけれども。

 本当にこれが仕事でいいのか不安になってしまうほどだ。


「では、一緒にいたしましょうね。」


 メアリーさんはそう言ってにっこり笑って、オキニスを私の前に連れてきた。


「まずは、触診から……。」


 そう言って、メアリーさんはオキニスの身体を撫でながら身体の隅々を触る。オキニスは少し嫌そうな顔をしているが、メアリーさんの為すがままに身体を預けている。必要なことだとわかっているのだろう。


「頭から、胸、お腹、お尻、尻尾まで異常がないか確認します。さあ、ミスティアさんも触ってみてちょうだい。」


「え、ええ。」


 私はまずはオキニスの頭を触る。するとオキニスの目が嬉しそうに細められた。そこから撫でながら確かめるように、オキニスの身体の隅々を触りながら確認していく。

 私の触る限りでは問題はないように思えるけれど……。


「……オキニスは健康体に思えます。」


「ええ。そうですね。これが、オキニスの健康な状態だとしっかり記憶をしていてください。少しでもここから変わるようなら、怪我や病気を疑ってくださいね。」


「ええ。わかったわ。」


 とても責任重大な仕事ね、と私はしっかりと頷いた。

 オキニスの健康は私がまもらなければ、と心に決めた。


「ミスティアはいるか?」


一通りメアリーさんからオキニスのお世話の仕方を教えてもらっていると、ロキアさんがやってきた。

アルファポリスにて先行公開しています。

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