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「こんにちは。ご主人。つかぬことをお尋ねしますが……。」
リユーナイン王国のココット辺境伯領で、目についた露店の主人に声をかける。
露店の主人というのは商品を売るために国内情勢も含めて様々な知識を蓄えていることが多い。
「おや、お嬢さん。商品は購入してくれないのかね?」
「……一ついただきましょう。リユーナイン王家御用達の茶葉はありますか?」
相手は商売上手だ。
言葉には出さないが、商品を買わないとこちらの質問には訪ねてくれなそうだ。
仕方なく、気になっていたリユーナイン王家御用達の茶葉を購入しようとする。以前、ユルーリット辺境伯家で出されたリユーナイン王家御用達の茶葉の味が気になっていたのでこの際確かめようと思ったのだ。
「ほぉ。これはこれはお目が高い。リユーナイン王家御用達の茶葉はとても貴重でな。なかなか手に入らないのだよ。だが、お嬢さんはとても運がいい。ちょうど仕入れた茶葉がここに一つだけある。手に入れるのにはとても苦労をしたんだよ。」
「……苦労をした?リユーナイン王家御用達の茶葉は確かに値が張るが、手に入れるのに苦労をするような品だったとは思えないけれど……。」
リユーナイン王家御用達の茶葉は特殊な製法で作成されている。そのため値段は高くはなるが、原料となる葉はリユーナイン王国の特産品である。その特産品の葉が入手困難だとは到底思えない。
現に、私がまだリユーナイン王国にいた時は茶葉は何の問題もなく流通していたことを確認している。
「はは。それがですねぇ、ここだけの話ですがアイリス王女殿下がご逝去なされたでしょう?それが、シャガ王子殿下の仕業なんじゃないかって噂が出回っておりましてねぇ。王家御用達の茶葉はアイリス王女殿下が開発に携わっておられた関係で、製造元でストがおこっているんですよ。だから、今じゃあ製造しておりません。」
「……アイリス王女殿下が亡くなられたのですか?にわかには信じられませんわ。」
慎重に言葉を返す。
肩の上でリスの姿のアイリス王女殿下がピクリと身じろいだ。
「それがどうやら本当のようなんですよ。シャガ王子殿下が王位を継ぐことになりましたからねぇ。」
「シャガ王子殿下が王位を継ぐなど……王様が崩御なされたのですか?そんなことは初耳ですわ。」
「いやいや。まだ崩御されていないという話ですよ。ただ、ベッドから起き上がることもできなければ声もでない状態だとか。そんな状態なので、王位を息子であるシャガ王子殿下に譲られたのでしょう。」
「アイリス王女殿下でなく、シャガ王子殿下が王位を継ぐことになったから、アイリス王女殿下がお亡くなりになられたということでしょうか?」
「他でもないシャガ王子殿下がアイリス王女殿下がご逝去されたと声を大にして触れ回っているんだ。嘘であるわけがないだろう。」
「……シャガ王子殿下がアイリス王女殿下を殺めたというのは本当でしょうか。」
声を押し殺して問いかける。
先ほど露天商の話だとそれが原因で王宮御用達の茶葉の流通が滞っているとか。
確か、シャガ王子殿下はこの茶葉がとてもお気に入りで毎日のように飲んでいたという噂を聞く。
「……ここだけの話だがね、シャガ王子殿下はアイリス王女殿下の葬儀を大々的におこなったんだよ。まあ、姉を手厚く弔った姉想いのシャガ王子殿下だという者もいるが……私はそうではないと思っている。」
「と、いいますと……。」
「シャガ王子殿下が王位に就きたいがためにアイリス王女殿下を殺めたということだよ。実際に、シャガ王子殿下は笑っていたそうだよ。アイリス王女殿下の葬儀の時に。実に愉快そうに笑っていたと商人仲間から聞いたから間違いないね。」
「……仲が悪かったのでしょうか。」




