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記憶喪失の私は、辺境の村でスローライフを満喫しています。~王女?いいえ、そんなはずはありません~   作者: 葉柚


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 バルトさんはやはり私たちがリユーナイン王国に戻るとは考えていなかったようで、バルトさんに見つかることなく無事にコッコン辺境伯領にたどり着くことができた。

 ちなみにリユーナイン王国の国境を越えることも意外なほど簡単だった。

 シャガ王子殿下の即位式で、リユーナイン王国は浮かれており、リユーナイン王国のパレードを見に来たと言えば身分証を確認されることもなく誰でもリユーナイン王国に入ることが出来たのだ。

 嘘だろうと思うが本当のことだ。

 本来は国境の警備は厳重におこなわれており、リユーナイン王国に入るには厳格な手続きが必要であった。しかしながら、シャガ王子殿下が即位されるということで、シャガ王子殿下から各国境警備隊に通達があったそうだ。

 曰く「私が即位を国内外問わず多くの人に知ってもらいたい。私の即位式、及びパレードに参加したいという者は国内外誰であっても歓迎する。ゆえに、そのような者が国に入国したいと言った場合には、どんな者でも歓迎するように。」とのことだ。

 そこには、シャガ王子の即位パレードがおこなわれている間の入国は自由にするようにとも記載されていたとか。

 思わずちょっと待て、とアイリス王女殿下と私が頭を抱えたのは言うまでもない。

 即位式に即位パレード、どちらもシャガ王子殿下が一番目立つ場所に立つ。警備も厳重になるはずだが、それ以上に国内外から狙われやすくもなる。

 シャガ王子殿下の即位を望んでいないものは、国内だけにとどまらず国外にも多くいるのだから。暗殺されてもおかしくないのだ。

 それなのにも関わらず国境の警備を緩め、パレードに参加したい者は誰でも通すようにとは、常軌を逸している。

 「さあ、どこからでも暗殺してくれ」と言っているようなものだ。

 

「馬鹿だ馬鹿だとは思っていたけれど、ここまでお馬鹿さんだったとはね。」


 アイリス王女殿下は呆れたように大きなため息をついた。

 

「ですが、そのお陰で私たちは怪しまれることなくリユーナイン王国に入国することができました。もし、いつも通りであれば、私たちはあの山の道なき道を突き進むしかありませんでした。」


「ええ。そうね。私たちが追われていたときのような目にあったわねぇ。」


 国境につながる道はすべて厳重に管理されている。

 つまり、管理の目を逃れるためには、険しい山を越えて密かに入国するしかなかったのだ。追手に追われていた時は必死になっていたが、今思うとよく遭難しなかったなと思う。

 

「シャガのお馬鹿に救われたわね。」


「はい。ですが……即位とは……。国王陛下はどうなされたのでしょうか。」


「そうね。とても気になるわね。国王陛下が存命であればシャガになんか王位をつかせないと思うのに……。まさか、シャガってば国王陛下を……。」


 そう言ってアイリス王女殿下は言葉を詰まらせた。

 アイリス王女殿下の言いたいことは私にもすぐわかった。

 けれど、それを口に出すのは不敬なことだ。おいそれと口に出して良いことではない。

 

「……真実を確かめねばなりません。すぐにでも、コッコン辺境伯にお会いいたしましょう。」


「いえ。それよりも、コッコン辺境伯領で情報を収集した方がいいわ。私たちはまだ何がどうなっているのかわかってなさすぎるわ。私たちのおかれている状況を把握いたしましょう。」


 そういうことになった。




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