27
「……やっぱりミスティアちゃんのドレスだったのかな?」
少し遠慮するようにバルトさんが声をかけてくる。
私は手渡された薄桃色のドレスに顔をうずめる。
「……いいえ。……いいえ、これは私のドレスではありません……。これは、あのお方が……アイリス王女殿下があの日着ていたドレスですわ……。アイリス王女殿下……。バルトさん。このドレスをどこで見つけられたのでしょうか?アイリス王女殿下はどちらに……?」
すべて思い出した。
アイリス王女殿下のドレスを見た瞬間に。
「……アイリス王女?このドレスはアイリス王女のドレスだというのか?」
バルトさんは驚いたように目と口を大きく見開いた。
「はい。私がアイリス王女殿下と離れ離れになったときに、アイリス王女殿下がお召しになられていたドレスです。……近くにアイリス王女殿下がいらっしゃいませんでしたか……?」
ドレスを脱ぎ捨てて行くなんてアイリス王女殿下らしくない。こんなにボロボロにほつれているところを見ると、アイリス王女殿下が無事なのか心配になって思わず目頭を押さえた。
アイリス王女殿下、どうか無事でいて……。
祈るような気持ちでアイリス王女殿下に思いを馳せる。
「……残念だけど、私が気づいたのはこのドレスだけだった。他にはなにも……。」
「……そう、ですか。あのっ!このドレスをどのあたりで見つけたのでしょうか。私をその場所に案内していただけませんかっ!?」
バルトさんはアイリス王女殿下のことを知らないと首を横に振る。
バルトさんの表情はいつもと違いふざけた雰囲気は持っていなかった。きっと、バルトさんは嘘はついていないのだろう。
「……構わない。森の中だったんだ。近くに湖があるところだ。ああ、そうだ。いつかミスティアちゃんと一緒に遠乗りをしに行きたいと言っていた場所だよ。なんだかんだで遠乗りに行きそびれているけれど。」
「そう言えば……遠乗りに行く約束をいたしましたわね。初めての一人暮らしで舞い上がっていつの間にか忘れてしまっておりましたわ。」
「……そうだね。」
「案内をお願いいたします。」
「……わかったよ。でも、本当にドレス以外はなにもなかったんだ。」
「それでも、一度その場所に行ってみたいのです。もしかしたらアイリス王女殿下につながるなんらかの痕跡があるかもしれません。」
「そうだね。じゃあ、せっかくだから馬に乗って行こうか。あの日の約束を果たしたいんだ。」
「ええ。わかりましたわ。馬で行けば歩くよりも早くたどり着けますものね。」
そう言うことになった。
早速私は、遠乗りしてもおかしくないように簡易ドレスから乗馬用のパンツに着替える。もちろん、持っていなかったので、ユルーリット辺境伯邸にあったものをお借りした。
馬小屋に行くとすでにバルトさんが待っていた。
「ミスティアちゃんは、もちろんシルヴィアに乗るでしょう?」
「そうね。シルヴィア。私を乗せてくれるかしら?」
私は馬小屋に繋がれたシルヴィアに確認をする。
シルヴィアは「ひひ~ん」と嬉しそうに一声鳴いた。
シルヴィアの鬣を撫でながら、そっと繋がれていた手綱を馬小屋から外した。
シルヴィアは嬉しそうに私に頬を寄せる。
「ありがとう。シルヴィア。よろしくね。」
私は慣れた手つきでシルヴィアに飛び乗る。そして、バルトさんに視線を向ける。
「案内をお願いします。バルトさん。」
私の目にはもう迷いはない。
バルトさんを力強く見つめると、そっと視線を反らしたバルトさんが頷いた。
「こちらに、ついてきてください。どうやらミスティアちゃんは馬で駆けることになれていそうだ。少しスピードを出しても?」
「ええ。もちろんですわ。ただ、その子の負担になるようなスピードは出さないように。」
「わかっているよ。そんな無茶はしない。」
こうして私たちはアイリス王女殿下のドレスが見つかったという湖まで馬で駆けていった。




