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「ハルジオン様、どうしたのですか?」
先日会ったばかりのハルジオン様が、また森にいらした。
ドラゴンというのは伝説的な存在と言われているので、こんなに頻繁に現れるはずはないと思うのだけれど。
不思議に思った私は、ハルジオン様に直接問いかけることにした。
『なに、ミスティアが困っているような気がしてな。契約を結んだからわかるのだ。ミスティアの状態が、気持ちが手に取るようにな。』
ハルジオン様はそう言った。が、私にはハルジオン様の状態も気持ちもわからないのですが、と思わず突っ込みたくなる。
『困っているのだろう?ミスティア。我に話してみせるがよい。』
ハルジオン様は尊大な物言いをしながらも、私のことを気にかけてくださっているようだ。
私は「はぁ。」と一息吐き出す。
「……私にもよくわかりません。よくわからないので、身体を動かしにきました。お手合わせ願えますか?」
気づけばハルジオン様に向かってそんなことを言っていた。
後から考えるとドラゴンに対して手合わせを申し出るなんて、自殺行為もいいところだと思う。けれど、この時の私は身体を動かしたくてたまらなかった。
『はははっ。ミスティアは面白い。実に面白い。我はそんなミスティアのことを気に入っておる。ミスティアを困らせる者がいるとしたらいつでも我が力になろう。』
「……お手合わせ願います。」
『あい、わかった。どこからでもかかってくるといい。』
ハルジオン様はそう言って、私を優しい瞳で見つめてきた。
ハルジオン様にとって私は相手にもならないのだろう。けれど、私に付き合ってくださるという。ハルジオン様はとても優しい。
私は、ハルジオン様の優しさに甘えて剣を構えた。
「いきますっ!」
『ああ、どこからでも来るが良い。』
「はぁっ!」
気合を入れて、ハルジオン様に向かって跳躍する。
ハルジオン様は動じる様子もなくその場に佇んでいる。
私は、容赦なくハルジオン様の前足に向かって切りかかろうとするが、ハルジオン様は前足をちょいと横に動かして私の攻撃を避けた。
簡単に前足を動かしているように見えるが、その動作はどこにも隙が無い。かつ、最小限の動きで私の攻撃をかわしている。
力の違いをまじまじと見せられているようだ。
私はハルジオン様から間合いを取った、そして、今度は後ろ足に向かって攻撃をしかける。
ハルジオン様はこれも最小限の動きで回避する。
次は腹に、次は首に、次は頭に、私は動き回りハルジオン様に攻撃をしかける。
しかし、一撃もハルジオン様には当たらない。それどころか、最小限の動きですべてを躱されてしまった。
私の呼吸は次第に荒くなるが、ハルジオン様は呼吸を全然乱していない。
「はあ。はあ。はあ……。」
『ミスティアは強いな。ここまで強い人間は初めてみた。』
「はあ……はあ……はあ……。そうで……しょうか……。すべて……避けられて、しまいました。」
『我には一秒先の未来が見えておるからな。ミスティアは強い。無駄な動きがなく、攻撃をしかけてくる。素晴らしいよ。ミスティア。』
ハルジオン様は弾んだ声をしている。
「……ありがとうございます。」
『うむ。うむ。これからも精進するがいい。まあ、もうすでにミスティアに敵うような人間はおらんだろうがな。』
「いえ、私はまだまだ未熟者です。あのお方もお守りすることができなかった……。」
『いや、ミスティアは守りきった。問題はない。次期がくればすべてが解決するだろう。』
「……ハルジオン様は何かご存知なのでしょうか?」
『……時が来たらすべてがわかるであろう。……まあ、一度ロキアと話してみるがいい。』
ハルジオン様はそう言って優雅に飛び立ってしまったのだった。
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