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「うわぁ~~~。美味しいねぇ。バッファモーのお肉。」
「にゃ~~~。にゃにゃ~~~。」
ミトラーさんに解体してもらったバッファモーのお肉を早速塩コショウだけで焼いて食べてみる。無駄な味付けは一切しない。まずは、バッファモーのお肉の味を確かめたかったのだ。
一口噛むごとに口の中にじゅわっと肉汁が広がる。
少し甘味のある癖になるような味だ。
「うぅ~~~!ほんとに美味しいっ!バッファモウモウのお肉よりこっちの方が好きかもっ!」
「にゃ~~~!にゃにゃっ!!」
オキニスには健康のため、塩コショウを振らずにお肉のみを与えている。それでも、お肉の旨味はぎゅっと詰まっていて、オキニスは始終興奮したように鳴きながらお肉を頬張っていた。
尻尾が嬉しそうにゆらゆらと揺れているところを見ると、本当に美味しいのだろう。
「……それにしても、私がアイリス王女殿下だなんて……。とても恐れ多いことだわ……。」
美味しいお肉に舌鼓を打っていても思い出すのは先ほどあった商人との会話。
アイリス王女殿下。
リユーナイン王国。
どちらも私の頭の中で何度もリフレインする言葉だ。
どちらも大切でどちらも懐かしいような言葉。
あの商人の言葉をただ受け流してしまっても良いのだろうか。
でも、記憶のない私にはどうすることもできない。
そんなジレンマが私を襲う。
「……アイリス王女殿下にお会いしなければ。」
心の声が口から漏れ出る。
それは、私の言葉のようで私の言葉ではなかった。
考える間もなく口から飛び出た言葉は誰のモノだったのだろうか。
「にゃー。」
オキニスが私の独り言に寂しそうに一声鳴いた。
☆☆☆☆☆
「よしっ!一狩り行ってこようっ!」
一晩中考え込んでいたが、答えはでなかった。
眠れないまま朝になった私は、自分を奮い立たせるために立ち上がる。
ちなみにオキニスは私のベッドのど真ん中でまだぐっすりと寝ている。時折ピクピクと前足を動かしているので何か夢でも見ているのだろう。
「オキニス。私はちょっと身体を動かしてくるわね。」
オキニスにそう声をかけると剣を片手に家を飛び出した。
そして、まっすぐに山に向かって突き進む。
「今日も、バッファモーいないかなぁ。」
バッファモーのお肉の味は忘れない。
毎日でも食べていたいくらい美味しかった。
だから、今日もバッファモーを狩ろうと思った。難しいことを考えるのはとても苦手だから気分転換を兼ねて。
「あっ!ミスティアさんっ!昨日はお肉ありがとうっ!美味しかったよ。」
「ああ。本当に美味しかった。今まで食べたどのお肉よりも美味しかったねぇ。」
森に向かって歩いていると口々に感謝の言葉が聞こえてきた。
「どうもー。またミトラーさんに買い取ってもらえなかったら皆さんにお配りしますねー。」
そう返しながら森へと進んでいく。
「あっ。ミスティアさんっ!今日はなんか森が騒がしいんだ。森に行くなら気をつけてね。」
「わかったー。ありがとう!」
そんな会話を背中に受けながら、私は森に向かって歩き続ける。
本当ならここで引き返した方がいいのかもしれない。
私は森に詳しくないのだから。
けれども、なぜか私の足は止まらなかった。
「……確かにおかしいわね。」
森は静寂に包まれている。
恐ろしいほどに。
木々の葉が擦れあう音も聞こえず、鳥の囀りさえも聞こえてこない。
無音の世界。
……まさか、また……?
この状況に私は覚えがある。
それは……。
『ミスティア。久しぶりだな。』
「ハルジオン様……。」
そうドラゴンであるハルジオン様だ。
ハルジオン様が近くにいると動物たちはその圧倒的強者のハルジオン様の気配に押しつぶされるがごとく皆姿をくらましてしまう。
アルファポリスにて先行公開してます




