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記憶喪失の私は、辺境の村でスローライフを満喫しています。~王女?いいえ、そんなはずはありません~   作者: 葉柚


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 私は、仕留めたバッファモウモウをどう運ぶかを考えてみたが、どうしても自力で運ぶことは不可能だという結論にいたった。

 

「……仕方ない。街で相談してみようかしら。」


 考えていても良案が浮かばなかった。

 細切れにして運ぶにしても、剣しか持っていないので現実的ではないし、そのまま運ぶにしては重すぎる。

 他に道具は持っていないし、周りを見渡しても木々が生い茂っているばかりで、バッファモウモウを運ぶのに有効と思われる物が見当たらない。

 これはもう街で道具を借りるか、手を借りるかしないと難しいだろうと判断した。

 

「オキニス。一旦街に戻るわよ。」


「にゃぁ~。」


 オキニスに声をかければ、オキニスはバッファモウモウを涎が落ちそうなほど凝視している。時々オキニスが可愛らしいピンク色の下で口周りを拭っているのを見るに、涎が止まらないのかもしれないけれど。

 一旦街に戻ると聞いたオキニスは不満気に私のことを見上げる。

 きっと、このバッファモウモウが他の獣たちに横取りされないか心配なのだろう。


「でもねぇ、私だけだと運べないし……。」


 困ったとオキニスに伝えれば、

 

「にゃあっ!」


 まるで、任せて!と言っているように鳴いた。

 そうして、オキニスはぴょんと跳躍し、華麗に一回転を決める。

 すると、オキニスのそばに真っ白な布で出来た袋が転がっていた。

 

 もしかして、この袋にバッファモウモウを入れろということだろうか……?

 いや、それにしてもこの袋どこから出したんだろう。

 

 私は、袋とオキニスを交互に見やる。

 するとオキニスは袋を口にくわえて私の方に持ってくる。

 

 やはり、この袋にバッファモウモウを入れろということらしい。

 袋は一辺が50cmくらいで到底バッファモウモウのような大型の獣を入れることはできない。それに、もし仮に入ったとしても、重くて持ち運べないだろう。

 

「あ、ありがとう。オキニス。」


 オキニスがせっかく用意してくれた袋だ。

 オキニスに感謝の気持ちを伝える。けれど、この先どうしたらいいのか考えてしまう。

 すると、オキニスが焦れたように「にゃーにゃー」と急かしてくる。

 きっと早くバッファモウモウのお肉が食べたいのだろう。

 

「わ、わかったから。」


 ええいっ!どうにでもなれっ!!

 

 という気持ちで、バッファモウモウのそばにしゃがんで、オキニスが用意してくれた袋の口を開ける。

 せめて片足だけでも入れればオキニスも満足するだろうと思い、バッファモウモウの右前足を袋の中に入れた。

 

「えっ?あ、あれぇ……?」


 すると、不思議なことにバッファモウモウの身体が袋の中に吸い込まれていく。

 みるみるうちにバッファモウモウの身体が袋の中に消えていき、最終的にはバッファモウモウの姿はなく、袋だけがそこに取り残されていた。

 

「き、消えちゃった……。」


 今、見たものがにわかに信じられなくて思わず茫然と袋を掴んで立ち上がった。

 不思議なことにバッファモウモウが吸い込まれたと思う袋は、その重さをまるで感じなかった。

 今見たものは夢なのだろうかと私は自分で自分の頬を叩いてみた。

 

「いたい……。」


 頬を叩いた痛みはちゃんとに感じた。


 どうやら私は白昼夢を見ていたようだ。


 バッファモウモウの血に濡れた剣を布で拭いながら今の出来事は白昼夢だと結論付けた。


「にゃにゃ~ん。」


 しばらく惚けていると、オキニスが嬉しそうに鳴いて「さあ、帰ろう」というように私を促してきた。

 

「そ、そうだね。帰ろうね……。」


 オキニスと私はこうして家路についた。

 その後、オキニスと家に帰る途中の肉屋の前でオキニスが立ち止まり「にゃ~ん。」と一声鳴いた。

 そして私が手に持っている袋をジッと見つめている。

 

「オキニス。あれは白昼夢よ。まさか、こんな小さい袋にバッファモウモウが入っているわけないじゃない。」


 立ち止まったオキニスの頭を撫でながら諭すが、オキニスはお肉屋さんに入っていき主人を呼んできてしまった。

 

「やあ、ミスティアさん。オキニスから用があるって聞いたんだけど、どうしたんだい?」


「え、ええ。まあ、あはははは。」


 どうしたものかと乾いた笑が漏れ出てしまう。

 そんな私を見て、オキニスが私が手に持っている袋に飛びついた。

 その反動で私は持っていた袋を落としてしまう。オキニスは私が落とした袋をさっと咥えて、お肉屋の主人……ミトラーさんに袋を渡した。

 

「え?ああ、これを僕に?」


 ミトラーさんは驚きながらも袋の口を開けて中を覗き込んだ。

 それからおもむろに袋の口を下にして、振った。

 

「おわっ……。」


「わっ……。」


 ミトラーさんの野太い声が響く。

 袋を開けた衝撃でミトラーさんはその場にドスンッと尻餅をついてしまった。

 

 それもそのはず、袋からは到底出てくるとは思わない3mほどもある首の無いバッファモウモウが出てきたのである。

 

「ば、バッファウモー!!?」


 ミトラーさんはそう大声で驚いたように叫んだ。

 

 ……バッファウモー?バッファモウモウじゃないの……?

 



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