表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
記憶喪失の私は、辺境の村でスローライフを満喫しています。~王女?いいえ、そんなはずはありません~   作者: 葉柚


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/37

14





 家に帰るとオキニスがすぐさま私の元に飛んできた。

 そうして、私の足に絡みつくように身体を摺り寄せてくる。

 しゃがんで、オキニスの頭を撫でれば、吸い付くかのように頭を手に寄せてくるオキニス。

 どうやらとても甘えているらしい。

 

「オキニス、寂しかったのかしら?」


「にゃあー。」


 寂しかったのかと問いかければオキニスは一声鳴いて、私からそっと離れてちょこんとお座りをする。視線だけは私に向けていた。

 離れてしまったオキニスの体温が寂しくて、ジッとオキニスを見つめる。

 オキニスは私のことなどもう知らないとばかりに、そのまま毛づくろいを始めてしまった。

 オキニスは少しツンデレさんなところがあるのだ。あのお方みたいに。

 まるで、あのお方を見ているようで私の心はどこか懐かしさを感じた。

 

「オキニス、今日はドラゴンのハルジオンと知り合ったのよ。ドラゴンってとっても大きくて迫力があったわ。私の剣では、到底敵わないわね。あ、でも、私がドラゴンのハルジオンと知り合ったのは内緒よ。ユルーリット辺境伯も内緒にした方が良いと言っていたもの。」


 オキニスは猫である。

 オキニスに話しかけても返答があるわけではないけれど、思わず今日あったことを報告してしまう。

 なぜだかわからないけれど、オキニスに報告しなければならないような気がしたのだ。

 オキニスは私の報告を聞いても素知らぬふりで毛づくろいをしている。そのくせ耳はしっかりと私の方に向いているのだから、きっと私の声を聞いているのだろう。

 

「ねえ、オキニスもハルジオンに会ってみない?威圧感が半端ないけど、ハルジオンはとても友好的だったわ。きっと、オキニスのことも気に入ってくれると思うのよ。どうかしら?」


 そんな質問に対してもオキニスはただただ大きな欠伸をするだけだった。






☆☆☆☆☆





「うーん。お肉食べたいなぁ……。ねぇ、オキニスもお肉食べたいよね?」


「にゃぁ~ん。」


 私の問いかけにオキニスは大賛成というばかりに返事をした。

 ユルーリット辺境伯家から出て一人暮らしをしていると、金銭的な面からどうしてもお肉は高くて買えなかった。ユルーリット辺境伯からは金銭的な支援はすると言われているが、いつまでも甘えているわけにもいかない。

 今は田舎暮らしに慣れるのが先決で、どんな仕事をして生計を立てて行けばいいのかわからない。だから、必要最低限の支援は受けているが、このいただいた支援もいずれ必ず返さなければならないと思っている。ユルーリット辺境伯からは返さなくていいと言われているが、それに甘えるわけにはいかない。

 ユルーリット辺境伯は父親でもなければ、家族でもないのだから。

 

「今日は森にお肉を探しに行こうっ!」


 きっと野ネズミや、野ウサギくらい森にいるだろう。

 彼らの命を奪うことには抵抗があるが、これも生活していくためだ……と心に決める。

 実際に、街の中のお肉屋さんでも野ネズミや野ウサギの肉が売っていたりする。お肉の買い取りもしていると言っていたのを思い出す。

 もしかして、いっぱいお肉を買い取ってもらえれば、ユルーリット辺境伯に今まで援助してもらったお金を返していけるかもしれない。

 ただ、私は今まで狩りをしたことがない。

 もしかしたら、記憶を失う前の私は狩りをしたことがあるのかもしれないけれど、今はない。

 少し不安はあるものの、心のどこかが絶対に大丈夫だと言っているのを感じた。

 

「うん。大丈夫。きっとうまくやれる。ダメでも明日がある。」


 そう思って私は、森へと向かう。

 今日はオキニスも一緒だ。

 先日と同様にオキニスはお留守番しているかなと思いきや、今日はついて行くとばかりに私の肩に飛び乗ったのだ。

 正直、オキニスが乗っている右肩が重い。

 オキニスの体重は三キロしかないはずだが、重いことには変わりない。

 私が歩き出すとオキニスは私の頭にぎゅっと抱き着いた。落ちないように、だろう。

 ぎゅっと抱き着いてはいるが、爪は立てていないので痛くはない。どちらかというと、オキニスのもふもふが気持ちいいくらいだ。

 もふもふは正義である。

 

「オキニスはなんのお肉が好き?野ネズミかな?野ウサギかな?それとも、小鳥かな?」


 オキニスに歩きながら訪ねてみるが、どれも反応が薄い。どのお肉もいまいちなのか、それとも人間の言葉がわからないだけなのか。おそらく後者だろう。猫だもの。

 

 ガサッ。ガササササッ。

 

 しばらく森の中を歩いていると、大きな物音が聞こえてきた。

 なんだろうと、木の陰に隠れて音のした方を伺う。

 そこには巨大な動物がいた。

 

「うそ、あれは……。バッファモウモウ……。」


 そうそこにいたのは、バッファモウモウだった。

 バッファモウモウというのは巨大な獣である。成獣の大きさは3mほどあり、重さも200kg~250kgが平均だと聞く。バッファモウモウは獰猛であり、危険な獣だ。

 ただ、聞いていたバッファモウモウとは毛の色が違う。通常は白と黒のまだら模様だが、目の前にいるバッファモウモウは真っ黒な毛と真っ赤な目をしている。

 色の特徴は違うが、見た目はバッファモウモウである。

 

「にゃっ!!」


 肩の上のオキニスが嬉しそうな鳴き声を上げた。そして、私の肩から木の枝にスッと飛び乗る。

 

「にゃあ!」


 まるで、さっさと仕留めろと言っているようにも見える。

 

「そうだねぇ。バッファモウモウのお肉って美味しいんだよね。ユルーリット辺境伯家にいた時に一回だけ食べたことあったけど美味しかったなぁ。あのお肉。」


 ユルーリット辺境伯家で一回だけ食卓に出てきたバッファモウモウのお肉の味を思い出して私は口の端からよだれが零れ落ちそうになった。

 ほどよく柔らかいお肉は、濃厚ジューシーであり、嚙みちぎればそこからは肉汁があふれ出す。

 少し独特な香りはするが、それがまた癖になるのだ。


「よし!決めたっ!初めての獲物はバッファモウモウに決まりだわっ!」


 私はそう言うと、颯爽とバッファモウモウの目の前に姿を現す。

 バッファモウモウはいきなり目の前に現れた私に一瞬だけ驚いた様子を見せるが、後ろ足を大きく蹴り上げようとしている。これは、私に突っ込んでくるっ!

 バッファモウモウの筋肉の動きを見て、そう確信した私は、バッファモウモウが突っ込んでくるのと同時に、真上に飛び上がり、バッファモウモウの耳の後ろに生えている角を掴む。そうして、バッファモウモウの背中に着地すると、背中にまたがり、腰に挿していた剣を抜く。

 

「あなたに罪はないけれど、私の食事のために犠牲になってください。」


 私は背中の上でそう呟くと、勢いよくバッファモウモウの首を剣で切り落とした。

 スパっとバッファモウモウの頭と胴体が離れる。頭を失ったバッファモウモウはその身体を地面にドッ!という音と共に横たわらせた。

 私は、バッファモウモウが倒れるより早く地面に着地していたのでノーダメージである。

 

「ふぅ。やったわねっ!」


 額の汗を握りながら、オキニスの方を見上げるとオキニスは嬉しそうに尻尾をゆらゆらとさせながら「にゃあっ♪」と弾んだ声を上げた。

 

「……どうやって持って帰ろうかしら。」


 問題は後からやってきた。

 持ち帰る方法をまったく考えていなかったのだ。

 言い訳をさせてもらえるならば、当初の今日の獲物は野ネズミや野ウサギだったのだ。

 革袋に入れれば持って帰られる大きさの。

 それが、3mはあろうというバッファモウモウだ。

 

「張り切りすぎちゃったわねぇ……。」


 目の前のバッファモウモウの死体を見ながら私は苦笑するのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ