SIDE:リユーナイン王国国王(ペオニア・リユーナイン)
SIDE:リユーナイン王国国王
「いったい何がいけなかったのか。」
病床に伏しているペオニア・リユーナインは一人考えこんでいた。
ペオニア・リユーナインはリユーナイン王国の国王であり、アイリス王女とシャガ王子の実の父親である。
ペオニアが考えているのは、アイリス王女とシャガ王子、それからシャガ王子の母であるウィーローサ側妃のことだ。
元は表面上は王族として仲良く暮らしていたが、ペオニアが病床に伏し、時期国王を決めなければならないとなってから、シャガ王子とウィーローサ側妃がアイリス王女を冷遇し始めたのだ。
そして、ついにアイリス王女の訃報がペオニア国王の元に届いた。
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時は数か月前に戻る。
ペオニア国王は次期国王について自らの妃であるウィーローサに相談をしていた。
「アイリスは公私ともになんの欠点もない。慈愛の心もあるし、アイリスに付き従う者も多い。アイリスこそ、次期国王に相応しいと思うのだが、ウィーローサはどう思う?」
病床に伏したペオニア国王は自分がもう長く生きられないと知り、急いで次期国王を決めることとした。
その相談相手として最初に選んだのが側妃であるウィーローサだ。
ペオニア国王の寝所に呼ばれたウィーローサは心配そうな瞳でペオニア国王を見つめていたが、ペオニア国王が次期国王の話をし始めるとカッと目を見開いた。
ウィーローサの真っ赤な唇が歪む。
「……次期国王は私の息子であるシャガ王子ではないのですか?」
こめかみを引きつらせながらウィーローサはペオニア国王に確認する。
ウィーローサは次期国王はシャガ王子であると思っていたのだ。
「シャガ……シャガか……。シャガも良いが、この国では男女問わず第一子が王に向いていれば、第一子を王にするという慣例がある。アイリスは王としての素質はあると見込んでおる。」
ペオニア国王はシャガの姿を思い浮かべて首を振った。
「アイリスに王としての器があるのに、シャガを選ぶ道理がない。」
「シャガは私の息子ですわっ!アイリスは前王妃の娘ですわ。もうピオニー元王妃はおりませんのよ。アイリスにはなんの後ろ盾もありません。対してシャガには私がおります。現王妃の私がおりますのよ。」
ウィーローサは怒り狂う心を抑え込みながら、必死にシャガ王子の方が次期国王に相応しいと訴えかける。
「ウィーローサ。我が国では王妃が亡くなったとしても、離縁していなければいつまでも王妃のままだ。ウィーローサが王妃を名乗るのは間違っておる。それに順当に行っても、王妃の娘であるアイリスが次期国王に相応しいと思っている。」
「そんなっ!?アイリスは女ですわっ!」
「我が国には女性が国王になってはいけないという決まりはない。」
「ですがっ!今までは皆国王は男性でしたわ。」
「たまたま、長子が男であっただけのこと。」
「……っ。」
ペオニア国王の言葉にウィーローサは押し黙った。
国の規律では国王が女性であってはならないとはどこにも記載されていない。
ただ、国王の長子が著しく王としての責務を全うできないと判断された場合のみ、国王の長子以外が王座につくことが稀にある。
それだけのことだ。
「ウィーローサ。ピオニーはそなたの実の姉であろう?その姉の娘がアイリスなのだ。そなたとも血が繋がっておる。不満などないであろう?」
ペオニア国王は畳みかけるようにウィーローサに言った。
ピオニー王妃とウィーローサは実の姉妹であった。
先にペオニア国王に見初められたのはピオニー王妃の方だった。
王妃としてピオニーを迎え入れたが、ペオニア国王は咲き誇る薔薇のように美しかったウィーローサのことも気になっていた。それにいち早く気づいたウィーローサはピオニーがアイリスを妊娠して寝込んでいる間に、ペオニア国王を誘惑したのだ。そうして、ウィーローサは側妃の座におさまったのだった。
「……ええ。そうですわ。そうですわね。私としたことが……我が子可愛さのあまり取り乱してしまいましたわ。大変失礼いたしましたわ。ええ、そうですわね。アイリスが次期国王……よろしいのでないでしょうか。」
「そうか。側妃であるウィーローサが承知してくれるのはアイリスにとっても大きな力になるだろう。礼を言う。ウィーローサ。」
「……当然のことをしただけのことですわ。」
ウィーローサがアイリスを次期国王とすることに賛成をしてくれた。そのことがペオニア国王を安心させた。
だから、ペオニア国王は気づかなかった。
ウィーローサがアイリスを排除して自らの息子であるシャガを王位につかせようと裏で策略を巡らせることになるなんて。
ペオニア国王がそのことに気づいたのはアイリスが王宮から姿を消し、シャガの護衛兵からアイリスの訃報が伝えられた時だったのだ。
「私は選択肢を間違えたのだ。大切なアイリスを失うことになろうとは……。」
アイリス王女を失ったことで、ペオニア国王の病状はより悪化していったのだった。
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