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注意:翻訳には意訳が含まれております。
数日ほど経過して、俺の生活は元に戻っていった。
忌まわしい事件だったけれど、終わってみれば呆気ない。
高校で連んでいたXとは、大学入学と同時に、そこまで親しく遊んでいなかったし、Sとの付き合いは、まだ一年も経っていない。そういう意味では運が良かった。
正直、不倫などで脳が破壊されただのなんだのと、インターネットに色々な書かれ方をされていたのを見ていただけに、妙な別れ方をしたときはどうなるのか気になってはいたけれど、案外、俺はそこまで傷つく人間では無かったらしい。
――鈍感。
Xの言う通り、俺が鈍感なのは確かなのかもしれない。
あいつは殺人を、俺のためだとか言っていたけれど、本当はSのような女と付き合う俺に敵意を持ち、復讐のつもりで、あんなことをしたのだろうと感じられる。
復讐殺人の自己正当化のために、自分のやっていることを他責扱いし、色んなことを言ったと考えると、あいつとは疎遠になっていて正解だと心底、思えた。
ちなみに、世間ではまだ今回の事件の下火が残っている。
でも、それも一年すれば忘れ去られるだろう。
巻き込まれた俺が、鈍感とは言え、もう普通の生活に戻れているのだから、他人がずっと覚えているとは思えない。あいつ等に情緒や感情なんかないし、あいつ等にあるのは他人を玩具扱いして面白がる、全知全能性と自己正当化のプライドだけだ。
つまらない人生を送ってるから、そうしていないと生きていけないんだろう。
しかし、そうは言ってもまだ多少の下火が残っているのは事実だ。そのあいだにやって来るであろう、野次馬と変わらないマスコミ連中や同級生からの質問…… それら全てを黙らせていくのが、面倒と言えば面倒だ。
まぁ、何を言ってきても答えなければいい。
答えてやる義理も義務も無いし、あいつらに事件を知る権利なんて欠片も無い。
当事者が何も言わなければ、外野が何を言っても憶測でしかないのだ。
――だが、仮に何か答えるとしたら、俺は全員にこう答えるだろう。
嘘ではないし、こっちの方が連中も勝手な想像をし、勝手に納得するに違いない。馬鹿には丁度良い玩具になるだろう。
『――I thought what I'd do was, I'd pretend I was one of those deaf-mutes.
That way I wouldn't have to have any goddam stupid useless conversations with anybody.
If anybody wanted to tell me something, they'd have to write it on a piece of paper and shove it over to me.
They'd get bored as hell doing that after a while, and then I'd be through with having conversations for the rest of my life.
Everybody'd think I was just a poor deaf-mute bastard and they'd leave me alone.
They’d let me put gas and oil in their stupid cars, and they’d pay me a salary and all for it, and I’d build me a little cabin somewhere with the dough I made and live there for the rest of my life. I’d build it right near the woods, but not right in them, because I’d want it to be sunny as hell all the time.
I'd cook all my own food, and later on, if I wanted to get married or something, I'd meet this beautiful girl that was also a deaf-mute and we'd get married.
She'd come and live in my cabin with me, and if she wanted to say anything to me, she'd have to write it on a piece of paper, like everybody else.
If we had any children, we'd hide them somewhere. We could buy them a lot of books and teach them how to read and write by ourselves.
I got excited as hell thinking about it.
――僕が考えたのは、聾啞者のように振舞うことだ。
そうすれば、誰ともくだらない無駄話をしなくて済む。
誰かが僕と意思疎通したければ、紙切れに書いて押し付けなければならない。そんなことをしていたら、みんなもうウンザリするから、二度と話をしなくて済むはずだ。
そうなったら僕のことを、ただの可哀そうな聾唖者だと思って、放置しておくに違いない。
奴らのくだらない車にガソリンやオイルを入れ、給料をもらい、お金を貯めたら、どこかに僕の小屋を建てる。そこで一生を過ごすんだ。森の近くに建てるけど、森の中には建てない。
食事は全て自炊して、結婚したくなったら、同じ聾唖者の美しい女の子と出会って結婚する。
彼女は僕の小屋に来て一緒に暮らし、僕へ何か言いたいことがあれば、他の連中と同じように紙へ書かなければならないんだ。
もし子供が出来たら、どこかへ隠しておく。本をたくさん買ってあげて、読み書きを教えるんだ。そう考えたらワクワクしてきた』
――――了
ここまでお読みくださり、誠にありがとうございました。
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【最後に】
少し時間が出来たのと、このまま一年間、何も書かずに終わるのは良くないと思ったので、簡単ながら短編を書きました。
楽しんで頂ければ幸いです。
なお、過去作 (完結済み)もありますので、良ければご覧下さい。
次回作につきましては執筆中であり、投稿できるよう頑張りたいと思っています。
よければ、お付き合いくださると幸いです。
ここまでのご精読、誠にありがとうございました。