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『今、何してるんだ?』
耳に当てたスマホから、男友達の声がする。
「外でタバコ吸ってる。――何か用か?」
『いや、暇だから電話したんだ』
「なんだそれ」と笑う。
しばらく、どうでもいい話を続けたあと、
『あっ、そう言えば』
と、新しい話題を振ってきた。
『今日の朝方、殺人現場に居合わせたんだ』
「えっ!」
思わず声をあげる。
それからすぐに周りを確認し、灰皿にタバコを押し付け、
「マジで……?」と小声で返した。
『正確には、事件後の現場に居合わせたんだけどな』
「それでも充分、ヤバいだろ……」
『事件自体は昨日だったみたいだし、特に危ない目にはあってないよ』
「ひょっとして、それが原因で大学に来てなかったのか?」
『まぁな』
「てっきり、昨日のネットゲームが原因かと思ったよ」
『まぁ、それも原因ではある』
「無理して参加しなくても良かったのに」
『久しぶりだったから、参加しない選択肢は無いよ』
「なんだよ、それ」
『まぁ、あんなに時間が掛かるなんて思わなかったのは、そうだけどな。マイクも回線も不調だったのに、よく持ってくれたよ』
「――ところで殺人って、どこであったんだ?」
『ん? あぁ…… コンビニへ行く途中だったんだけど、そこの裏手にある公園らしい。――分かるか?』
「お前の家の近くか?」
『いや、最寄り駅の近くにあるコンビニ』
「駅側のコンビニか……」
『でもあそこ、駅から少し離れてはいるし、裏手側にあるコンビニだからな』
「犯人は捕まったの?」
『まだって言ってたけど…… まぁ、時間の問題じゃないか?』
「そうかもしれないけどさ…… 死体とか、見たの?」
『いや、見ちゃいない。ただ、毛布とビニールを掛けられているのは見たな』
「うわぁ~…… やべぇな……」
『大きさから、成人だろうな』
「――ちょっといいか?」
『なんだ?』
「お前、ひょっとして、わざわざ現場の方へ寄ったのか?」
『違う違う。コンビニへ朝食を買いに行ったら、丁度、警官が店に入ってきたところだったんだよ。そのあと、すげぇサイレンの音がしてきて…… 閑静な公園が、あっという間に警官だらけになったってわけさ』
「なるほどな…… つまり、警官の話を立ち聞きしてたと?」
『耳に入ってきたんだよ。立ち聞きなんて人聞きが悪い』
ちょっとした笑い声と一緒に、彼はそう言った。
『まっ、警官の話し振りからして、殺されたヤツも碌な人間じゃなかったみたいだけど……』
「どんなヤツだ? 男か? 女か?」
『性別は分からないなぁ…… ただ、不倫がどうのこうのって言ってた気がする』
「不倫かぁ~…… なんか、怖いな」
『お前も気を付けろよ? 相手からの恨みは尋常じゃないぞ?』
「なんだよ、俺は不倫とか興味ねぇって」
『相手の方は分からないだろ?』
一瞬、言い淀んだ。
しかし、そんな疑いを持って付き合っているわけでもないから、
「もし別のヤツが好きになったら、そのときはすぐに別れ話でも切り出してくるだろ」
と、答えておいた。
『そんなんで、お前は納得するのか? そんな性格には思えないけど』
「もういいだろ? 何が悲しくて、別れ話を妄想しなきゃならないんだよ」
『確かにそうだな…… すまん』
「とりあえず、今から会おうぜ。久々だし、もうちょっとその話、聞きたい」
『お前はホント、下世話な話が好きだよな』
「別にいいじゃないか、暇つぶしには丁度いい」
『なら、N駅まで出て来られるか? 今日はバイトも無いんだろ?』
「ああ、大丈夫だ。今から向かう」