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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

鎰鬼

作者: 冴える

 俺の頭の中で最近妙な音がする。ずり、ずり、と縄を擦るような音だ。辛い。逃げ出したい。自分は死ぬべき人間なのだと思わせるような音でどうしょうもなく生きているのが苦しくなる。でも死ぬのは怖い。

その恐怖心から今日も呼吸を続けている。


 朝が来た。憂鬱でしかない。太陽の光を朝起きてすぐに浴びれば健康になると言うがあれは嘘だろう。

いや、まあ、俺にとっては嘘というだけで他人からすれば本当なのかも知れないが、そんなに人のことを考えている余裕は俺には無い。まあいい。いや、全然良くないのだ。普段より起きる時間が二十分遅いせいで朝食を食べる時間がない。なんならいつもの電車にすら間に合わない。幸い高校には遅刻しなさそうだから早く着替えて登校してしまおう。一人の部屋と違って学校は喧騒で溢れ返っていて静かに一人で考える時間など無い。だから学校は好きだ。そんな事を考えながら着替えを済ませ、家の鍵を閉める。家から駅までは歩いて五分。単語帳でもやりながら行くとしよう。……

……………………………………………………縄の音は、まだしている。


 そんなこんなで学校の最寄りに着いた。偶々同じ電車に乗り合わせていた友人二人と学校に向かう。

…憂鬱だ。半歩前を歩く二人の会話は弾み、自分はいないものとして扱われている感覚がする。実数はそうではない。ちょくちょく後ろを振り返って話しかけてくれる。が、自分から話題を降ることは無い。いや、出来ないのだ。自分で会話を広げられると思っていない。要するに自身がないのだ、自分に対して。俺は恐ろしい程に自己肯定感が低い。この自己肯定感の低さは俺の今までの人生が形作ってきた。今更どうこうはできないだろう。するつもりもないし、できるとも思ってないが。……こういうことを考えると少しずつ縄の音が大きくなってくる。お前は生きる価値など無い、と囁かれているようで酷く頭が痛い。


 学校に着いたお陰で二人とは離れられ、一人になった。一人は嫌いだが、周りがうるさい状態での一人は三人でいるときよりマシなので良い。これからいつもと変わらない、平凡な一日が始まる。結局の所、平凡な日々というものが一番だ。非凡を経験したわけではないからこれはあまり信憑性のない持論だが、なんとなく、只なんとなくそんな気がする。


 やっと学校が終わった。朝思った通りに、いつもとなんの代わりのない平凡な一日であった。今は朝来た二人とは一緒ではない。まぁ一人で帰っているので、"とは"は正しくないかもしれない。いつも一人で寂しい気持になっているが今日ばかりは一人で良かったと思う。眼の前で線路にとびこんで人が死ぬのをたった今見たからだ。全てを事細に見てしまった。お母さん、と呟きながら死んでいく女の顔。ばらばらになって足元に転がったきた片足。何より恐ろしかったのは死ぬ瞬間に女がした表情と轢いた列車の窓に映った自分の表情があまりにも似すぎていたことだ。 

もう、無理かもしれない。………縄の音が今までで一番強く頭の中で響いている。




 家には歩いて帰ってきた。早く汗でビチョビチョになった体をシャワーで洗い流したい。…いや、それよりも縄だ。なんとかしたい。そう思い手に持っているものを思わず見た。手の中にはたった今外したネクタイがあった。…ネクタイもまぁ紐状であるし、これも一種の縄であろう。そう思った次の瞬間にはドアノブにネクタイを引っ掛け首をつる直前になった。…?おかしい、自分で首をつる準備をした記憶がない。死にたくはない。今すぐ辞めなくては、と思って正面を向いたら、鏡にはようやく訪れそうな死を期待している俺の顔があった。そうだ、死んでしまえばもう縄からは開放される。もう、良いだろう。特に思い残すことと無いしやり残したこともない。そして俺は首をつった。




死ぬ瞬間、縄の音はしなくなっていた

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