表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/107

第96話 大地、ちょっと語る

「ふぅー、結構来たな」


 周囲にいた幻想魔生物ファンタジーモンスターを全滅させ、俺は緊張を解いた。

 振り向いた先、少し離れたところで小鬼ゴブリンを蹴散らしたヒトガタが、同じように戦闘態勢を解いていた。


 相変わらず、上品で無駄のない所作。

 人間では出せない無機質な動きが、圧倒的強者感を漂わせる。それに加え、あの純白の外見である。

 神々しい雰囲気がビンビンだった。


 俺は自分の周囲に転がっている、キラキラと光る石を拾う。これは、幽鬼級レヴェナントダンジョンの魔物が成り代わったものだ。


「うーん、またクリスタルか」


 幽鬼級の魔物は通常ダンジョンと違い鉄や銅ではなく、クリスタルなどの輝きのある石へと変わる。

 今拾ったクリスタルも出現したばかりの無加工品なので、そこまでキラキラしているわけではない。けれど、独特の色と風合いをした表面が、妙に引き込まれるような魅力があった。


 ただ、事前に調べたところによると、クリスタルにはダイヤモンドなど、宝石ほどの価値はないらしい。

 付け焼刃の知識だけれど、クリスタルは水晶であって、ダイヤなどの宝石類とはそもそも比べるものではないのだそう。


 そう、俺の今回の狙いはダイヤモンド一択。

 それも売るためではなく、一番大事な人に贈るためのものだ。


 これ以上に人間が踏ん張れる理由があるだろうか?

 まだまだ、気合十分である。


「もう中層を過ぎる辺りだろウ。ここからまた、魔生物が強力になるゾ。気を引き締めよウ」

「おう、了解」


 隣に並んできたヒトガタが、抑揚のない声で言う。

 声音に感情は乗っていないが、顔は相変わらず悠可ちゃんなのだった。


 ……うーん、クールな感じになった悠可ちゃんだな。

 これもこれでよきかな。


 じゃなくて。


「ヒトガタ、お前は疲れとか大丈夫か?」


 ふと思い至り、ヒトガタに聞いてみる。

 俺はこいつのおかげで休ませてもらったりして、無理することなくここまで来られている。


 しかしヒトガタは一切休んでいないので、若干心配になった。


「ワレは大丈夫ダ。まぁ、ダンジョンで生まれる他の魔生物と同じく、相応のダメージによって消滅する可能性もあるがナ」


 淡々と、自分の生き死について語るヒトガタ。

 うーん、悠可ちゃんの顔で言われるとちょっと悲しい。


 ここまで交流してしまうともう、個人的にはいなくなってほしくないぞ。


「ダメージって言ってもさ、お前みたいな強い存在にガツンと食らわしてくるヤツ、そうそういないだろう?」

「あア。ワレに明確なダメージを与えたのはダイチ、キミがはじめてだっタ」

「あ、あぁそうなの?」

「そウ、ダイチがワレのはじめてを奪ったのダ!」

「うん、誤解を生む言い方はやめような」


 どこか嬉しそうに目を輝かせて話すヒトガタ。


 ……あれ、これってはじめて自分を叱ってくれた先輩に後輩が惚れちゃうみたいなアレかな? 

 ちなみに俺ははじめて社会人になって怒られたのがあの別所部長なので、まったくもって惚れちゃったりはありませんでした。社会って世知辛ぇ。


「あ、一応俺の目標を共有しとくな。ダイヤモンドを手に入れたいんだ」

「どうしてダ?」

「そりゃお前……愛だよ、愛」

「ア、イ……あい、とは?」

「んー……まぁ、優しさの原因? みたいな?」


 先程ヒトガタが話していた、優しさという言葉に絡めて愛を説明しようと試みる。

 愛があるから、優しくできる、みたいな?


 だってそれこそ別所部長みたいな、敵意と自分の快楽だけで一切他人のことを考えないヤツとか、優しくしたいと思えないもんな。


 だからやっぱり、愛があればこそ、優しさが生まれるんだと思った。

 楓乃さんの美しく明るい笑顔が頭に浮かび、自然と顔が綻んだ。


「アイ、か……まだまだ人間は、未知だナ」


 俺の言葉を聞いたヒトガタが、考え込むようにあご先に手を当てていた。

 その姿はやけに様になっていて、また見惚れてしまうところだった。


◇◇◇


:ヒトガタなついてるの草

:ヒトガタちゃん推せる

:てか愛って

:恥ずかしい発言の数々

:キツネドレス見てるか?


 一方その頃。

 4SLDKのリビング。


「さすがにこれは恥ずかしいわね……」

「ですですっ、楓乃姉さま、顔が真っ赤です! マンUのユニみたいになっちゃってますっ!!」

「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」


 大地の探索を見守っていた楓乃たちは、各々反応が違っていた。


 愛についての恥ずかしい発言の数々で、この世の誰よりも顔を赤くしている楓乃。

 それを気の毒そうに眺めるシルヴァ。

 さらに、立ち直って(開きおなって?)楓乃を冷やかしている悠可。


 三者三様、それぞれのリアクションがリビングに展開されていた。


「大地さん……そろそろ、そろそろ気が付いて……っ!!」


 赤面した楓乃は涙目で、デバイスの画面に向かって念じるように両手を合わせた。


 大地は未だに、自身の歯が浮くようなセリフが、全世界に配信されていることに気付かないでいた。



この作品をお読みいただき、ありがとうございます。

皆さんの応援が励みになっております!

ありがとうございます!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ