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第95話 大地、やっぱり色々と油断していた

 まだ外の光で明るい、幽鬼級レヴェナントダンジョンに入ってすぐ。


 スライム数十匹をようやく撃破し、俺は大きく息を吐いた。


「ヒトガタ、ありがとな! 本当、助かったよ」

「ふふン。こちらこソ、いい運動になったゾ」


 白い悠可ちゃん、もといヒトガタ美女形態は得意げに胸を張った。

 大きく立派で柔らかそうなOPAが俺のウインドブレーカーをぱつんぱつんに押し上げている。


 つかこいつ、どんどん人間らしくなるな……情報の並列化の先にゴーストを獲得しちゃうんじゃねーかこれ?


「それにしても、初手も初手、入ダンして最初の魔物でかなり疲弊してしまった……」


 無傷で踏破とかなんとか言ったけど、これは油断すると簡単にやられるぞ。

 改めて、気を引き締めないと。


「ダイチ、少し休むカ? 人間の身体には活動限界が存在するからナ。無理はするなヨ」

「あ、ありがとう。いいのか?」

「ふふン、ワレが一番興味があるのは人間だからナ。ダイチの側にいることガ、なによりの経験となル。ダイチが休む間、ワレが周囲を警戒しておこウ」

「や、優しいなヒトガタ」

「優しさ、カ……人間が持つ不思議な力の一つだナ」


 はにかんだ笑顔で言う、ヒトガタ。

 ……んむー、顔が悠可ちゃんだから、ぶっちゃけたまらんくなるほど可愛いんだよな。青い瞳の中に、流星群が見えるようだもの。


「んじゃま、ちっとばかしお言葉に甘えて……」


 俺は言いながら壁際に腰を降ろして、水を取り出す。こういった先の見えない探索では、水は貴重だ。ちびりちびりと、舐めるぐらいにしておく。


「ふぅー、生き返るな」


 座って、息を吐く。

 緊張感のある戦闘の後のノドの乾きは、想像を絶するもの。ほんの少しの水分でも、ずいぶん救われる気がした。


 スキルの《超回復》も使用しながら、頭と身体をリフレッシュさせていく。


「はぁぁ。まさか、ヒトガタに守られながらダンジョンで一休みする日が来るとはなぁ。人生、なにが起こるかつくづくわからん」


 周囲へ視線を走らせている人型の背中を見ながら、俺はしみじみと自分の“今”を噛み締めた。


◇◇◇


:新卒おっさんくせーな

:つかマジでヒトガタと会話してんぞこいつ

:さすがにワロ

:前に取得したスキルの影響じゃね?

:『対魔物交流』だっけ? 持ってるやつ見たことねーよ

:てか本人配信されてんの気づいてなくね?


「あんのバカ……っ」


 慌ただしく流れていくコメント欄を見て、シルヴァがため息交じりに言う。

 新卒メットチャンネルの拠点、4SLDKの広いリビング。そこに女性陣が集まっていた。


 椅子に腰かけるシルヴァの隣で画面を覗いている楓乃は、苦笑いを浮かべるしかなかった。

 ちなみに悠可はソファの上でクッションに顔を埋め、もごもごと悶絶している。


「ったく、入ダンしたタイミングで自動で撮影と配信はじまる設定にしといたって言ったのに! なんでこんな大事なこと忘れてんだし!!」


 そう、実は大地の幽鬼級探索は、すでにチャンネルにて生配信されているのだった。

 そうなるように配信用機器・機材やチャンネルの設定を行い準備を整えたシルヴァは、きちんと前日に大地本人にも伝えていた。


 が。

 楓乃へ贈るダイヤモンドを獲得することで頭がいっぱいだった大地は、そのことをすっかり失念していたのだった。


「マジで垢バンされないかヒヤヒヤなんですけど……」

「だ、だね……」


 楓乃とシルヴァは真剣な表情で顔を見合わせた。

 スライムとの戦闘状況では、かなり緊迫した雰囲気が画面越しにも伝わってきて、大地の身を案じる楓乃らは、気が気ではなかった。


 しかし、ヒトガタが登場した辺りでシリアスな雰囲気から、風向きが変わる。


「バ、バカ! そっちあんまり見るな! 映っちゃいけないものが映る!!」

「きゃーーーっ! わたしじゃないのに、わたしの裸が全世界にっ!」

「悠可ちゃん、落ち着いて! 大丈夫、一瞬だったしむしろ美しすぎてえっちさは全然なかったから!!」


 そう、人間の姿になったヒトガタの裸体映像である。


 ほとんど悠可のような見た目のヒトガタが裸で映し出された瞬間は、すでに各所で切り抜き動画として編集され、ネット上ではお祭り騒ぎとなっていた。


 要するに、鬼バズりしてしまっていた。

 案の定、同接の人数も一瞬で百万を超え、異常なほどの盛り上がりを見せていた。


 悠可はそんな状況を受け、本来は幽鬼級探索にまったく無関係であるのにもかかわらず「うぅ、わたしもうお嫁にいけないですっ! うぅ~!!」と嘆き、クッションに顔を埋めて泣き濡れることとなってしまったのだった。


「こうなったらもう、大地が変なことを言わないのを願うしかないわね……」

「そ、そうだね……。悠可ちゃん、元気出して」

「うぅ……うぅぅ……」


 楓乃はシルヴァの憂いに同意しながらソファに腰掛け、ぐすんと肩を震わせている悠可の背中をさすってあげた。


 大丈夫、大地さんはラッキースケベ製造機だけど、言動はいたって真面目で普通だから――自分に言い聞かせるように、楓乃は心の中で大地を想った。


『おっしゃー、そろそろいこうぜヒトガタ!』


 なにも知らない大地の能天気な声が、デバイスのスピーカーから流れ出て、リビングへとじんわり広がっていった。


 まだまだ幽鬼級探索は、はじまったばかりだった。



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