第94話 スライム、強すぎる!?
「はぁ……はぁ……」
自分の息遣いが、幽鬼級ダンジョン内に響く。
俺の眼前には、未だ不気味な粘液状の物体――スライムがうねうねと蠢いていた。
先ほど接敵してから、もう何度、電撃警棒を叩き込んだかわからない。
若干だが握力が低下してきた気がする。
「いやスライムのくせに強すぎじゃね!?」
思わず、悪態をつく。
え、キミってばリ〇ル・テンペストさんなの?
それもうみんなの尊敬を集める最強スライム様じゃねーかよ。
そんなの勝てるわけないお!!
「しかも……増えてるし」
俺の攻撃によってなのかはわからないが、さっきからスライムは分離するみたいにいくつにも分かれ、数を増やしている。
ざっと見ても、すでにその数は十を超えている。
まさか、すべての個体がこのタフさなの……?
え? まさか俺ってばもう絶対絶命?
無傷でクリアしたるでーみたいに宣言してたのに、初っ端で失敗確定?
いやいやいや、最初の敵で全滅ってドラ〇エ初見プレイじゃないんだからっ!
「おうわっ!?」
よくないマイナス思考がぐるぐると頭の中を駆け巡ったと同時に、スライム数体が俺めがけて飛んできた。
スキルの《視覚鋭敏化》と《気配感知》、さらには《身体反応向上》で、なんとか回避を続けている。
しかしスライムは、着地したタイミングでまたもいくらか増えた。
このままじゃこの辺り一帯が、スライムで埋まってしまうぞ。
どうすれば、あの厄介なモンスターを撃退できるんだ……?
と。
冗談じゃなく、悪夢のような妄想が胸に広がったとき。
ゾクリ、と。
生物としての生存本能を刺激する気配が、俺の背筋を震わせた。
まさか――
「苦戦しているナ、ダイチ」
「ヒトガタか!?」
俺は藁にも縋るような感情を抱きながら、振り向いた。
あの最強の魔物、ヒトガタが加勢してくれるなら、いくら幽鬼級の幻想魔生物スライムと言えど、一網打尽に――
「あびゃあぁぁ!?」
「ン? どうしたんダ、ダイチ?」
――振り向いた視線の先には、“白い美女”がいた。
素っ裸で。
もう一度言おう。
肌も、髪も、すべてが暗闇に浮き上がるような、純白の神々しいほどの美女が立っていたのだ。
素っ裸で。
スライムどころじゃないってばこれええええええ!?
「お、大人をからかうんじゃありませんっ!!」
「? あぁ、この姿カ? ダイチと探索するのだからナ、ワレもヒトの姿の方がいいだろうと考えたのダ。どうだ、ダイチの好むメスの姿を模したつもりなんだが、好ましいと思うカ?」
「好ましいとかそういう問題じゃありませんっ!!」
ヒトガタの言う通り、その美女としての姿は単刀直入に言うと――悠可ちゃんに瓜二つだった。
あまり言葉は適切ではないかもしれないが、もし悠可ちゃんがアルビノだったら、こんな感じなのかもしれない。
ただ一点、悠可ちゃんとは大きく異なるところが一つ。
……いや、二つ?
そう、OPAである。
デカいのである。
はい、非常に精神衛生上よくありません。
……俺こう見えても、もう心に決めた人がいるのよ?
「ダイチ、あぶなイ!」
「おわっ!?」
と、そうこうしているうちにまたもやスライムたちが躍動しはじめる。俺めがけて伸縮した個体を、ヒトガタが殴りつけて撃滅させる。
えっ、強いんですけど!?
「ど、どうやったんだ今の!?」
俺は自分のバックパックに手を突っ込みながら、スライムを一撃で爆散させたヒトガタに、攻撃方法をたずねる。
「ヤツらにはコアが存在していル。そこをよく見極めて、力一杯ぶち込ム」
「コア……!」
ヒトガタに言われて、ふと気付く。
粘液表面に浮いているゴミや塵、腐肉などの気持ち悪さに気圧され、よくよくヤツらの身体を見ていなかった。
確かに言われてみれば、ゴミでも塵でも腐肉でもない、正体不明の物体が必ず一つあった気がする。
「そこに攻撃を入れればいいんだな!」
「あア!」
俺は自分で気づかないうちに驕ってしまい、魔物との戦闘を惰性でこなしてしまっていたのかもしれない。
まさか、ヒトガタのおかげで初心にかえることになるとは。
……つくづく、ダンジョン探索は奥が深い。人生にも通ずるイロハを教えてくれる。
「お前、ひとまずこれ着ろ!」
「ん?」
俺はとりあえず、防寒で持ってきたウインドブレーカーのセットアップを、ヒトガタへ向けて投げる。
素っ裸のまま、OPAをぶるんぶるんと揺らされちゃかなわんのでな!
「ダイチ、これ動きづらいゾ……」
「お前がそれを着ないと俺が動きづらいの!」
主にズボンがピンピンに張っちゃって色々と動きにくいったらないのである!
一体撃破されたせいなのか、ジリジリと後退するような動きをしはじめたスライムたち。同じ魔物だからか、ヒトガタの強さが伝わっているのかもしれない。
俺は着衣した美女形態のヒトガタと並び、気合を入れなおすように息を吐いた。
もう一度、電撃警棒を握り直す。
「こっから、反撃開始だ!」
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