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第82話 「運命共同体です」

「ほらほらぁ、まだわんさか出てきますよぉー!!」

「しゃべるなっ! くせぇ!!」

「……っ!」


 もう何度目かわからない警棒での殴打を、(ダンジョン)ボアの眉間に叩き込んだタイミングで。


 俺の後方で待機しているであろうたいきが、ハイテンションに奇声を上げた。

 心底、頭が悪そうな声としゃべり方である。


 ここまで魔物大暴走スタンピードに耐え、気付いたことがあった。おそらくヤツは、かなり熟練度の高い《隠密》のスキルを持っている、ということだ。


 そのおかげなのだろう、俺が撃ち漏らした魔物から狙われることもなく、暴れ狂う魔物が真横をすり抜けるような状況の中を、安全にかいくぐっていた。


 はなはだ不本意ではあるが、楓乃さんに危険が及ばないのなら、それでいい。


「ぐっ……!」


 思考に一瞬、安堵の感情が芽生えた瞬間、DカラスとDラットによる上下同時攻撃が飛んでくる。瞬時に反応しカラスを叩き落すが、ラットの体当たりをふとももの辺りに食らってしまう。


 その後方からは、蠢くように魔物の群れがどんどん溢れ出てきている。

 すでに俺の《狂戦士状態バーサーカー》は解除され、ドーピング状態ではなくなっている。


 もう少し、もう少し耐えれば終わるはず……!


 これまでに幾度となく経験したスタンピードの所要時間は、なんとなくだが身体に染みついている。体感ではあるが、大きく間違ってはいないはずだ。


「はぁ……はぁ……」


 数舜すうしゅん、魔物がいなくなった合間、肩で息を吐く。

 周囲の足元には、魔物が成り代わったであろう鉄や銅が無数に転がっていた。ダンジョン内インフラの灯りを受けて、キラキラと光っている。


 この中にプラチナがあれば、それで決着がつくのだけれど……。スタンピード発生中では、検品することすらできない。


「ふぅ……」


 さすがに、疲れを感じる。

狂戦士状態バーサーカー》の使用後に発生する、独特の倦怠感が全身を支配していた。


「まだ来ますよぉ! いいんですかぁ油断しててぇ!?」

「く……っ!」


 たいきの発した不快な声に顔を上げると、再び魔物の波がこちらに近付いていた。

 俺は慌てて深呼吸して息を整え、首を回した。《超回復》をして回復に努めたいところだが、《狂戦士状態》の疲労感は、スキルでは回復することができないのだった。


 踏ん張るしか、ないのだ。


「おらぁぁっ!!」


 押し寄せてきた魔物たちへと全身で攻撃を叩き込み、波をせき止めるように暴れまくる。

 半ばヤケクソ気味だったが、後ろに楓乃さんがいると思えば、どこまでも踏ん張れるような気がした。


 殴る蹴るで蹴散らした魔物たちが、粒子のようになって消えていく。その身体から、キラリといくつも金属片が生まれ落ちたのが視界の端で見えた。


「お、おいおい……まだ耐えるとか、マジ人間じゃねーじゃん」


 つぶやくようなたいきの声に、俺は顔だけを振り返る。

 見ると、ヤツは眉間にシワを寄せてこちらを睨んでいた。まだ楓乃さんは腕をホールドされたままだ。 


 たいきのツラを、睨みつける。


「……おっさん、舐めるんじゃねーよ」

「くそが……!」

「……かっこよすぎ」


 顔を歪めるたいきに対し、楓乃さんがキツネ面の下で安堵しているのがわかった。楓乃さんが笑みを見せてくれたことに、内心で少しホッとする。


 が。


「なーんちゃってぇぇ!!」

「っ!?」


 束の間、即座に表情を一変させ、口角を吊り上げて笑うたいき。その顔は本当に、般若の不気味な笑みが乗り移ったかのようだった。


「あれあれぇぇ!? さっきの魔物から、プラチナが出たかもぉー!? はい、僕の勝ちですぅー!!」

「は、離してっ!!」


 楓乃さんをホールドしたまま、たいきのクソは空いてる方の手を掲げた。

 その手には――あつらえたようなプラチナのバーが一つ、握られていた。


 それはどこからどう見ても、“市販されている”プラチナバーだった。


 こいつ、魔物大暴走スタンピードの意図的な発生だけじゃなく、不正までしてきやがるのか……!?


「ほらぁー、《魔物大暴走スタンピード》の最後の群れがやってくるみたいですよぉ? これをアンタが耐え抜いたら、結果発表といきましょーかぁぁ?!」

「どクズ野郎が……っ」


 楓乃さんの腕を掴んだまま、たいきは誇らしげにプラチナバーを掲げている。楓乃さんは、身体を捻ってプラチナバーを確認し、たいきを睨みつけていた。


 と。

 楓乃さんは一度、俺の方を見た。

 そして、俺にだけわかるように「運命共同体です」と口を動かして――笑った。


「あなたみたいな人に、私たちは……負けないっ!!」

「……は?」

「ッ!!」


 途端、楓乃さんはホールドされていた腕ごと、後ろのたいきに体重を乗せて突っ込んだ。その拍子、たいきの手からプラチナバーが離れる。


「このクソアマ!!」

「大地さん! あとはお願い――」

「楓乃さんッ!!」


 叫んだと同時。

 こちらに向かってきていたスタンピードの魔物の群れが、俺の背中を強襲した。振り返りざまに警棒を振り抜き、魔物どもを屠る。


 しかし。

 魔物の波は俺の一撃だけで制することはできず、楓乃さんらのいるルートを津波のようになって襲う。

 たいきへと体当たりした楓乃さんは、たいきを巻き込んでバランスを崩した。

 そして、魔物の群れの方へと倒れ――波に、飲まれた。


「楓乃さぁぁぁぁんッ!!」


 叫び、俺は条件反射で魔物の群れへと飛び込んだ。


 楓乃さんを、絶対に救い出すッ!!

 


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