第78話 新卒vs新米、コラボスタート!
『新米マスクちゃんねる』との対決当日。
俺、楓乃さん、悠可ちゃんは、たいきくんが指定した上級ダンジョンの入り口付近で、入ダン準備を整えていた。
キツネ面に濃紺のアオザイ姿で、相変わらずダンジョンに似つかわしくないエロカワな魅力ビンビンの楓乃さん。背筋を伸ばすストレッチがたまらなくエロい。
どうしてあなたは毎回そんなにOPAの形くっきりな服ばかり選ぶの? 目線がお胸に釘付けになっちゃうでしょーが。
悠可ちゃんはいつものサッカー日本代表のユニフォームに、ツネ様風フェイスガード。艶やかなポニーテールが照明の光をはね返して揺れている。
あぁ、悠可ちゃんのポニーテールを見ていると、無性に青春の夏を思い出すなぁ。叶わなかったあの子への恋、あの子がポニテするたび見える白いうなじ……あぁ、一度でいいから制服デートがしてみたい。アオ〇ハコ読みたい。
じゃなくて。
ちなみにシルヴァちゃんは別の所で待機中。ダンジョンツアーに使うデバイスで繋がっている状態だ。対決がはじまったら、オンラインになる手筈だった。
ここに至るまで、俺なりにできる限りの準備はしてきた。
少ない日数の中で、楓乃さんと共にダンジョンで特訓したり、考え得る限りの対策を仕込めたと自負している。
要するに、準備は万全。
「やぁどーも、お疲れ様です」「おつー」「おつかれ」
そこへ、たいきくん“らしき”人たちが馴れ馴れしく近づいてきた。
“らしき”と表現したのは、顔に般若の面をかぶっていて、本人かどうかの確認できないからだ。
続いて現れたみみとるいらしき二人も、それぞれにガスマスクとペストマスクを装着しており、その表情は窺えない。
これが配信者『新米マスクちゃんねる』としての正装なのだろう。
ただ、それぞれがいつもの衣装に身を包んでいるため、本人と思っておいて間違いないだろう。そしてなにより、そこはかとなく頭の悪そうな口調はたいきくんそのものである。
「いよいよっすね。今日で、あなた方の命運は尽きると思ってください」
「そっちこそ、配信者以外で生きていく術、考えといた方がいいよ」
毒舌の応酬を経て、その場にいる各人がそれぞれ睨み合う。
「…………」
よくよく見てみると、たいきくんらの装備は軽装そのものだった。
全員、スマホが入るか入らないかみたいなちっちゃいショルダーバッグをぶら下げているだけである。コンビニ行くみたいなノリ。
『プラチナ出るまで帰れません』は、時には日を跨ぐほどの長丁場にもなり得る企画だ。こっちは念のため寝袋すら用意してきたというのに、いくらなんでも無謀すぎやしないか?
「……一応聞くけど。そんな装備で大丈夫か?」
「へ? あぁ余裕っすよ」
おいそこは『大丈夫だ、問題ない』って返せよ。
渾身の鉄板ネタをスルーされ、若干意気消沈する。
若い人はわからないのかなぁ……?
「ここの上級ダンジョンは、インフラは最奥部まで整ってるんで、安全性は高いです。ドローンも飛んでますし。ただ、まだボスが生存してる“生きダンジョン”なので、当然危険性はゼロじゃないです。なんで、ライブ配信中に人死にとか出さないよう気を付けてください。ただまぁ――」
そこでたいきくんは言葉を切り、俺に顔を近づけてきた。
「――致し方ない事故とかの場合は、しょーがないとも思いますけどね」
「……どういう意味?」
たいきくんが俺の疑問に応えることはなく、背を向けてダンジョンの奥を指さし、ハイテンションに宣言した。
「そんじゃ、いきますか! 『プラチナ出るまで帰れません』、スタートォォ!!」
たいきくんの宣言により、対決がスタートした。いくつかの撮影用ドローンが、ウィィと独特の音を立てて飛び上がっていった。
なんとなく、嫌な予感がした。
◇◇◇
「えいっ、ていやっ!」
:サッカー仮面今日も絶好調
:ユニ姿で暴れるの本当かわええ
ダンジョンに入って少し入った地点。
余裕綽々といった体でガンガン突き進むのは、我らがサッカー仮面、悠可ちゃんである。ハーラ〇ドかよってぐらいに敵なしで突き進んでいる。なんと頼もしい。
うん、悠可ちゃんに任せておけば大丈夫そうだな。
「みみのお通りだぞー! どけどけー!」
「魔物の分際であたしに勝てると思ってんのかって!」
:るいみみ! 待ってました!
:一生推せる
それに追従するように『新米マスクちゃんねる』のみみ&るいが躍動する。
後方から身のこなしを見ている限り、悠可ちゃんには及ばないが、二人ともかなりの手練れのようだ。
これが巷で噂の『ダンジョンネイティブ世代』か……末恐ろしい。
戦況がある程度理解できたところで、俺は一つの決断をする。
「キツネドレスさん、大丈夫です。俺たちはこの辺りで安全第一に、地道に魔物を狩っていきましょう」
「…………」
楓乃さん(キツネドレス)の隣に立ち、状況を鑑みたうえで、俺は提案する。
……が。
楓乃さんはどこか不服そう。なんで?
ここの上級ダンジョンは灯りなどのインフラが奥まで整っており比較的安全ではあるが、しかし魔物との戦闘においては上級であるため、それなりの戦闘系スキルが必要とされる。
だが楓乃さんは、基本スキルである《暗視》や《気配感知》を発現したにすぎない。
そのため、俺としては今回は安全第一に作戦を遂行していきたいところなのだけど……どうなのだろう?
「奥に行けば行くほど、魔物がプラチナをドロップする可能性って高いんですよね?」
「え? あ、あぁはい」
考え事をしていた俺は、楓乃さんの質問に反射で返す。
「……ということは、新卒さんがこうして私の面倒を見ることで、勝てる確率が減少してるってことですよね? だって、新卒さんの実力なら、ここのダンジョンの最奥部で暴れまわるのなんてわけないんですから」
「い、いや、それは……」
「このままだと私、足手まといってことになっちゃいます」
俺が話を差し挟む余地なく、楓乃さんは強い眼差しで言う。
「シルヴァちゃんと、約束したんです。知ってますよね?」
「し、知ってます……けど……」
そこで楓乃さんは、ドローンに音声を拾われないよう顔を思いっきり近づけた。
いや、楓乃さんの健気で気丈な気持ちは痛いほどわかっているつもりなんだけど、でも心配しちゃうのはしょーがないじゃないですか!?
俺、楓乃さんにもしものことがあったら生きていけないもの!
「大地さんにも、私を信じてほしいです」
「…………」
「無理は、しませんから。私は私で、できることを精一杯やらせてほしいんです。大地さんに、助けてもらってばかりじゃなくて」
キツネのお面の奥、強い決意を宿した瞳に射抜かれて、俺は口を閉ざすしかなくなる。
でも……相手はあのたいきくんだ。汚いことでもダサいことでもなんでもして、自分の自尊心を満たそうと躍起になる、あのおバカたいきくんなのだ。
いくら色々準備したとはいえ、もしものことがないとは言い切れないし……。
:新卒メット早く暴れろ
:こいつが前出ないとつまんね
:怖気づいたか?
「ほら、コメントでも書いてあります。ユーザーさんの期待に応えないと」
「楓乃さん……わかりました。でも絶対に、無理はダメですからね」
「はい!」
楓乃さんの声に背中を押されるようにして、俺はダンジョンの奥へと足を向けた。
◇◇◇
大地の背を見送る楓乃の、さらに後方。
誰にも気付かれることなく、一つの気配が存在していた。
その正体は――《隠密》を使い身を隠した、たいきだった。
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