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第71話 新卒メットチャンネル、DMをもらう


「大地、これどう思う?」

「……はへ?」

「また寝てんなしっ!」


 人生最高の誕生日が終わり、数日が経った十月。

 俺は相変わらずリビングでぐでぐでと、動画を観ながらカフェオレを飲んで過ごしていた。


 そして、寝そうになっていた。


 起きてからまだ二時間ぐらいしか経ってないのにね。

 なんでこんなに眠くなるんだろうね。てへぺろ。


 そんなところへ、今日はオフらしいシルヴァちゃんが、なにやらデバイスを持ってやってきた。

 というかシルヴァちゃん、もこもこフード付きの部屋着がプリティ極まりないな!


「これ見て。なんかDM来てんだけど」


 言いながら、シルヴァちゃんが俺の隣に腰を降ろす。

 うへぇ、ええ匂いがしおるでぇ。


 俺は鼻の下を伸ばしつつ身体を起こし(変な意味はないよ?)、シルヴァちゃんの隣に陣取りデバイスの画面を見た。


◇◇◇


 拝啓、新卒メットチャンネル様へ


 はじめまして! 突然のDM失礼致します。

 僕は最近SeekTuber(シーチューバー)として活動をはじめた『新米マスクちゃんねる』の、リーダーをしている『たいき』と申します。

 チャンネル名からお分かりかと思いますが、僕らは『新卒メットチャンネル』に憧れて配信者になりました。


 単刀直入に言うと、僕らとぜひコラボしていただけませんか?


 僕らのチャンネルはまだまだ弱小で、登録者数も全然です。だけど、配信者として配信業界をもっと盛り上げていかなきゃって思ってて、その気持ちは『新卒メットチャンネル』のみなさんと、絶対同じはずです。


 てゆーか、負けてないと思ってます!


 だからぜひとも『新卒目っとチャンネル』さんとコラボさせてもらって、その人気にあやかれればと思ってます!

 いっしょに『SeekTube(シーチューブ)』業かい、もりあげてきましょう!


 はやめのれすよろです!!


◇◇◇


 画面には、そんな文章が躍っていた。

 なんというか、文面から若さが発散されている感じだなぁ。


「ぶっちゃけ、どう思う?」


 少し眉間にシワを寄せ、シルヴァちゃんは尋ねてきた。


「うーん、どうと言われてもなぁ……」


 俺はちゃんとSNSをしたことがないし、DMなんかももらったことがない。

 配信者としての活動がメインになってからも、正直全然ちゃんと運用していない。シルヴァちゃんやツッチーさんにほぼ任せきりだ。


 よくインフルエンサーさんとかが『仕事のご依頼はDMで!』みたいな発信をしているけれど、そういうことも今までなかった。

 なので、良いとか悪いとかもまったくわからないし、どうしたらいいのかもわからない。


 ただ、俺たちのチャンネルに憧れてくれているというのなら、あまり無下にはしない方がいいのではないか、と思うぐらいだ。


「んー、でも正直この文面見た感じさ、こいつら自分たちのメリットしか考えてない気がすんのよね。こっちが時間とかコスト割いてコラボするメリットを提示できてないというか、全然こっちのことは考えてないっていうか。文章の後半が、変換とか雑になってちょっと荒れてる感じとかも、ちょっと舐めてんじゃねーの?って思うし……」

「さ、さすがシルヴァちゃん。よく見てるね……」


 シルヴァちゃん、見ている次元が全然違う。

 元大物配信者は伊達じゃないなぁ。


「でもせっかくだし、話を聞くぐらいはいいんじゃない?」


 俺はあくびを噛み殺しながら、軽い気持ちで言った。


「甘いっつの、大地。小一時間、話するだけでもその時間でどんだけ撮影とか編集できると思ってんの? これは要するに仕事の依頼なんだから、それだけのコストに見合ったものにならないなら、それだけこっちが損するってことなわけ」

「い、言われてみれば、たしかに」

「こういう自分のことしか考えてなさそうな輩と仕事するとね、後々色んな苦労を押し付けられる羽目になるの。あと、こういう連中ってのはそもそもこっちの話なんて聞いてない、もしくは理解できないことがほとんどだから、対等な話し合いもできないわけ。わかる?」

「そ、それはさすがに決めつけでは……?」

「ふん、アタシの勘が言ってるんだし、絶対間違いないしっ!」


 怒り気味に、なかなか一方的な感じでまくし立てるシルヴァちゃん。

 まぁ、言わんとしていることはわかるけれども。


 しかし、これは困った。

 俺個人としてはあんまり断る理由もないし、コラボだって全然オッケーなんだけど。

 若者の役に立ちたいと思うし、老害とか言われたら嫌だし……。


 ただシルヴァちゃんはどこか引っ掛かっているらしく、否定的な様子だ。

 どうしよう。


 ピンポーン


 と。

 そこへ見計らったように、インターホンが鳴った。


「あ、ツッチーさんだ」

「アタシが呼んどいたのよ」


 来客を知らせる壁のウインドウには、ツッチーさんの目鼻立ちの整った顔が映っていた。

 うん、日に日に目の下もクマも薄くなってきていて、素敵さが増している。


「どぞどぞー」

「お邪魔します」


 玄関にお迎えに上がると、丁寧に靴を揃えてからツッチーさんは家に上がった。こういうところ、本当に見習いたいです。


「ツッチー、お疲れ。さっそくなんだけどこれ、どう思う?」


 さっそく、ツッチーさんに意見を求めるシルヴァちゃん。

 確かに、俺とシルヴァちゃんだけでは平行線だったので、三人目の意見を取り入れるのは適切だと思った。


「……ふむ。確かに、シルヴァの言っている懸念はわかります。一度絡むと、結構面倒そうです」

「はぁーそっかぁ」


 文面を確認したツッチーさんも、シルヴァちゃんと同意見っぽかった。


 うーん、たくさんの修羅場をくぐり抜け、場数を踏んでいる二人が言うのだから、俺は大人しく従っておくか。


 まぁ、少し残念な気持ちはあるけれど、仕方ないよな。


「ただ、こういったタイプの方々は断り方も気をつけないとネタにされる場合もありますから、私の方で対応させていただきます。それでよろしいですか?」

「うん、ツッチーなら安心。仕事増やしちゃって悪いんだけど、お願い」

「いえ、お安い御用です。大地さんもよろしいですか?」

「あ、はい。よろしくお願いします」


 そんな感じで。

 そのときはそれで、この件は終わったと思っていたのだけれど。


 数日後。

 チャンネルメンバー全員で、次のダンジョンツアーのために、中級ノーマルダンジョンでリハーサルを行っていたときだった。


「『新卒メット』さんですよね!? 僕ら『新米マスクちゃんねる』ですよ!!」


 甲高い声が、ダンジョン内にこだました。

 なぜだか、妙な胸騒ぎがした。



この作品をお読みいただき、ありがとうございます。

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