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第70話 誕生日パーティー、第四部


 楓乃さんから受け取った、結婚式の招待状ような手紙……。

 これは、いったい……?


 まさか楓乃さん、どなたかとご結婚を……?


「これ――ボイスメッセージです」

「……え?」


 と。

 楓乃さんはどこか恥ずかしそうに、顔を赤らめて言った。


 ボイス……メッセージ?

 結婚式の、招待状じゃなくて?


「その、まだ私と大地さんがDイノにいたころ、業務で確認しなくちゃいけないことがあって、電話したときに……」


 意図を飲み込めていない俺に、楓乃さんはゆっくりと話し伝えてくれる。


「大地さんが、その……私の声を、褒めてくれて。『お声がよく通りますね。聞き取りやすい』って、言ってくれて。私、実はそれがすごく嬉しくて」

「あ、あー……言いましたね、確かに」


 ボブヘアーの前髪を、落ち着かない様子でいじる楓乃さん。

 その顔を見ていたら、俺もなんだか恥ずかしくなってきて、後頭部をポリポリと掻く。


 てか楓乃さん、かなり髪伸びたな……。

 会社にいた頃はうなじが見え隠れするぐらいの長さで後ろ姿がたまらなかったけど、今は完全に首が隠れるぐらいの長さ。

 少しパーマをかけたのか、緩やかにウェーブする艶髪がドレスの放つ光沢と相まって、ハリウッド女優みたいなセクシーさを醸し出している。


 うん、どエロい。


「私、実は声が少しコンプレックスだったんです。女性の割に、低めっていうか、もっと高くて可愛らしい声ならよかったのにって、ずっと思ってたんですけど……」


 一呼吸、置いてから。

 楓乃さんは俺のことを真っ直ぐに見つめてきた。


 なんて綺麗な目をしてるんだろう――釘付けになってしまう。


「大地さんに褒めてもらってから、声に自信持てるようになったんです。だから、大地さんに、私の“声”を、ずっと持っていてほしくて」


 丁寧に、繊細に、真摯に言葉を紡ぐ楓乃さん。

 ……ポーっと、吸い込まれるような心地。


「こっ、ここ光栄ですぅっ!」


 ぐらっと、グラスを倒しかけ、ふと我に返る。

 かなりの時間、無意識に見つめ合ってしまっていたことに気づき、俺は慌てて目を逸らした。


 見つめ合うのって、す、すげー恥ずかしいな……。

 楓乃さんとは運命共同体になってから、キスしちゃったり、抱き合ったり、それはもうギンギンバチバチ(なにが?)のイベントが目白押しだった。


 とは言え、なんだろう、こんなにちゃんと真正面から向き合ってお話したのって、もしかして運命共同体になる話をして以来なんじゃ……?


 あぁ、楓乃さんのこれまで見せてくれた仕草や表情がフラッシュバックして、変な気持ちにさせるよぉぉぉぉ


「大地さんに見つけてもらった自分の魅力だから、いつも聴いてもらえるようにって、こんな形にしてみたんですけど……シルヴァちゃんと悠可ちゃんのすごいプレゼントのあとじゃ、全然ですよね、あはは」


 と。

 そこまで言って、自虐的な苦笑を浮かべる楓乃さん。

 

 ……俺は楓乃さんに、そんな顔をしてほしくない。

 幸せそうにしていて、ほしいのだ。


「楓乃さん」

「ひゃっ」


 俺は椅子から立ち上がり、切ない表情を見せた楓乃さんを抱きしめた。


 あぁ、あぁ!

 柔らかくて甘やかで!

 ふんすふんすのくんかくんかっ!!


「嬉しいです、楓乃さんの声。いつも聴けるの、俺、嬉しいです」

「大地さん……」

「大好きなんです、楓乃さんの声。俺も実は、Dイノのとき、楓乃さんから電話がかかってくるたび、癒されてました。仕事の疲れ、吹っ飛ばしてもらってました」

「…………っ」

「だから、そんな風に後ろ向きにならないでください。俺も人のこと言えないときありますけど、なんなら二人で褒め合ったり支え合ったりして、自信持っていけるようにしましょう。ね?」

「…………うん、うんっ」


 こくり、こくりと頷いてくれる楓乃さん。

 その目は潤み、今にも涙が零れ落ちそうだ。


 なんて、なんて可愛らしいのか。

 いやもう、これは愛おしさだ。


 笑っているけど、涙がぽろりぽろりと零れている。

 少し赤く染まった頬が、いじらしい。


 俺はやっぱり、楓乃さんのことが――


「楓乃さん……っ」「大地さん……っ」


 それぞれの名前を紡ぎ、俺と楓乃さんの唇が近づいて――


「こほん。私がいるのをお忘れですか?」

「「っ!?」」


 と。

 俺と楓乃さんの顔が極限まで近づいたところで。


 ツッチーさんが咳払いをした。


「長年の裏方仕事で、気配を消すのは息をするより簡単ですが……まさかここまで、いないものとして扱われるとは」

「どこの忍者ですか」


 やっぱりこの人だけ、ダンジョン外でスキル使ってません?

 途中からマジで気配消えてたぞ……。


「いやーそれにしても、お二人は本当にアツアツですね。焼きたての銀だ〇かってぐらいアツアツですよ。シルヴァ、付け入る隙あるのかなぁ」

「「……」」


 冷やかし気味に言われ、俺と楓乃さんは下を向くしかない。

 恥ずかしい……。


「まぁどうであれ、シルヴァはすべて受け止めて前に進みますよ。そういう子ですから。だから気にせず、イチャイチャしてください」

「「本当にすいませんでした」」


 俺と楓乃さんの謝罪の声が、キレイに重なった。

 やはり一番の強キャラ女子は、ツッチーさんかもしれない……。


 とまぁ、なんにせよ。

 はじめて家族以外に祝ってもらった三十歳の誕生日は、これまでに感じたことのないたくさんの幸福感を、俺にもたらしてくれた。


 俺の人生の中で、間違いなく。

 一番幸せな誕生日になったのは、言うまでもない。


 ――後日。

 楓乃さんのボイスメッセージで悶々したのも、言うまでもない。


 どうやったらあんなにおエロいお声になるのかしら?



この作品をお読みいただき、ありがとうございます。

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