第69話 誕生日パーティー、第三部
「わたしのプレゼントは――『サッカーグッズ詰め合わせ』ですっ!!」
着替えを終え、部屋からリビングに戻ってきた悠可ちゃんは、天真爛漫に瞳を輝かせて言った。
服装はドレスから、現サッカー日本代表のユニフォーム姿へと変わっている。結い直した艶やかなポニーテールが照明をはね返し、天使の輪を作っている。
うん、まさにピッチの天使。カワエエ。
「大地さんのことを考えながら、一生懸命選びましたっ! どうぞ、受け取ってくださいっ!!」
「ありがとう」
「どういたしまして! 中、見てみてくださいっ!」
キラキラワクワクの吸い込まれそうな瞳に促され、俺は受け取った大きな袋を開ける。
悠可ちゃんてば、相変わらず目の中に流星群でもあるんかな?
「お、おぉ……!」
開けてみて、まず目に入ったのはサッカーイングランド代表のユニフォーム。
しかし、それは最近のものではなく、俺が一番イングランドを応援していた頃のもの――あのベッ〇ムが、日韓ワールドカップで着用していた長袖のユニフォームだった。
懐かしい……懐かしいぜチキショー!
これが正真正銘、エモいという感情なのか……確かにエモーショナルだ!
悠可ちゃん、一度ワールドカップトークで盛り上がったとき、俺が『子供の頃の日韓ワールドカップが一番印象に残ってる』って言葉、覚えていてくれたのか……なんて健気なの。
袋の中には、他にも俺の心をくすぐるアイテムが目白押しだった。
エモい方面の物で言えば、ユニフォームだけでなくロ〇ウジーニョのスパイクをモデルにしたフットサルシューズや、ワールドカップデザインのボール。
逆に最新の物では、今まさに旬と言っていい三苫選手の著作など、新旧のサッカーグッズがたくさん入っていた。
その一つ一つに、悠可ちゃんの愛情がたっぷりと乗っかっているのがよくわかった。
「悠可ちゃん……本当に、ありがとう。全部大切にするよ」
「はいっ! ぜひぜひ、一緒にフットサルしましょうねっ!!」
「うん、ぜひ!」
だけど、受け取った何よりも。
悠可ちゃんのとびきりの笑顔が、一番素敵なプレゼントだった。
◇◇◇
「次はアタシね」
悠可ちゃんに続いて立ち上がったのは、シルヴァちゃんだ。
みんな未だにドリンクを片手にリラックスムードだが、自分の出番を終えた悠可ちゃんだけ、ソファに横になりすでに舟をこいでいる。
風邪など引かないよう、ブランケットをかけてあげた。
「アタシのは、ぶっちゃけ全然刺激はないと思うけど……」
言って、シルヴァちゃんは少しもじもじとしながら、一度リビングの向こう、キッチンの死角へと引っ込む。
「はい、これ」
「……え?」
そして渡されたものは。
――社会人経験者なら、一目で中身がわかるものだった。
衣類をハンガーにかけたまま、折りたたんで持ち運べるガーメントバッグ。
スーツ一式セットだった。
「シ、シルヴァちゃん。これって――」
「ほ、ほら! 最初の頃に、買ってあげるって言って、ずっと渡せてなかったから……本当は、一緒に、買いに行きたかったんだけど……」
バッグを受け取った俺は、すぐにファスナーを開いて中身を確認し、丁寧かつ慎重に取り出す。
そして、濃紺の光沢あるジャケットに、袖を通してみた。
俺が試着をしている間、シルヴァちゃんはどこか恥ずかしそうに視線を泳がせながら、いじらしい感じで毛先などをいじっていた。
うん、いじらしカワエエ。
「これ、ピッタリだよ。ありがとう、シルヴァちゃん」
「ア、アタシが選んだんだから、当然っしょ!」
「だね」
ぷい、と顔を逸らして言うシルヴァちゃん。
相変わらずのツンデレラぶりである。
それにしても、シルヴァちゃんと出会ってすぐの頃に約束したことを、覚えていてくれてたなんて……その思いやりに、胸がいっぱいになった。
「ウチのシルヴァは健気でしょう?」
「ツッチーさん。ええ、本当に」
「ちょ、ツッチー! なに言ってんだし!」
ツッチーさんの耳打ちに、シルヴァちゃんがアセアセする。
そんな様子もまた、俺の胸を満たしたくれた。
「ありがとう……大切に着るよ」
「た、大切とかじゃなくて、配信のときはこれ着てよね。変に大事にされて着てもらえないより、そっちの方が嬉しいし」
「わかった。そうするよ」
「や、約束だし!」
あらためてお礼を言うと、シルヴァちゃんの頬がまた朱に染まった。
その少し怒ったような、かつ恥ずかしそうな顔は。
本当に、二次元キャラ顔負けの可愛さだった。
◇◇◇
「では、最後は私ですね」
宴もたけなわ、最後にリビングに立ったのは、楓乃さんである。
ちなみにシルヴァちゃんと悠可ちゃんのお二人は、すでにソファでねむねむ中。犬と猫が仲良く寝てる動画みたいな尊さがある。そっとしておいてあげよう、
完璧にドレスを着こなした楓乃さんが、プレゼントを取りに行ったのか、一度自室へと向かった。
その歩く姿、後ろ姿は、ある意味似合いすぎていて、もはや違和感がない。
しかし、だからと言って。
その美しさ、神々しさ、艶めかしさ、吸引力。それらの魅力に目が慣れたのかと言えば、答えはノーだ。
常に、楓乃さんのドレス姿は威力抜群。魅力底なし。
椅子から立ち上がって少し歩いただけなのに、そこがランウェイの会場になったかのように、パッと華やぐように感じる。
彼女の歩みに合わせて揺れる身体、露出した肌、隅々まで綺麗な顔、そして視線を釘付けにするOPA……。
あぁ、あの人の全部を、心行くまで抱きしめたい。
「い、いかんいかん……」
一瞬思考を支配した煩悩を、頭を振って打ち消す。
危ない危ない、思わず熱き血潮が下半身へ流れ込むところだった。
「私のプレゼントは、二人に比べると…………地味、かもしれません」
「え?」
戻ってきた楓乃さんは、どこか遠慮がちな雰囲気で、小包みを手渡してくれる。
地味だなんて、そんなこと……。
「これは……文房具、セット?」
包みを開いた俺は、出てきた物を見て、問う。
「はい。というか、一番贈りたかったのは、これ……なんですけど」
言って、楓乃さんは俺の手元の万年筆や手帳、それら様々な贈り物の中から、なにやら便箋のような、メッセージカードのような、厚手の二つ折りカードを引き抜いた。
……ん?
これって、なんか、結婚式の招待状みたいだけど……?
え、まさかっ!?
楓乃さん、誰かと結婚しちゃうの!?
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